坂道

 下り坂に差し掛かると、私とAの間の距離がどんどん開いていった。Aはどんな道でもずんずん歩くので、大抵は私が置いていかれる。私は私よりも速くならないように足の裏を地面に押し付けながら歩いた。

 坂が緩やかになると、私は少しかかとを地面から早く離すようにしてAとの間隔を詰めていった。十歩ほど歩いたところで私はAに追いつき、左手の中指が袖口を掠めた。Aが接触した地点に目を向けたので、私はAの顔を見た。下を向いた目と、少し開いた口がよかった。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?