わたしからの相談(大伴)

公衆トイレにはエアータオルというものがあります。 風で手の水分を吹っ飛ばすあの装置です。完璧に乾かすにはかなりの時間を要するので、混雑時には順番待ちができてしまい、かといって自力で乾燥を促進するのも難しく、背後からチクチクと突き刺さる視線に耐えながら「はよ乾けよ」とただ念じることしかできないのがつらいところです。 自分が半乾きの手を我慢すればいいだけであればぜんぜん良いのですが、困るのはそのトイレ全体の出入口に「手動のドア」が設置されている場合で、私がちゃんと乾かさずに濡れた手でそのドアを開けて出ていった場合、必然的に次に出る人は湿ったノブを触るハメになるわけで、それはもう最悪じゃないですか。つまり時間をかけてしっかりと乾かそうが、テキトーに切り上げようが、いずれにせよ他人にストレスを与えてしまうことからは逃れられないというジレンマたっぷりな件なわけです。その流れで言うと、飲み屋とかにグイッと引っ張り出して拭くタオルありますよね。ちょっと古いタイプかもしれませんけど。機械の中でロール状に回転するやつ。私はあれを使うとき、まずはじめにとりあえず1回ぶん引きます。なぜかというと、最初に出ていた面は前の人が手を拭いてそのまま放置した状態かもしれないからです。そして、自分が拭き終わったあとはさらにもう1回引きます。次の人がキレイな面を使えるようにという親切心です。ところが。ここでいつも不安になるのですが、もし次の人も自分と同じ行動をとった場合、その人も最初に1回ぶん引いてしまうので、いま私が引き出しておいてあげたキレイな面はまったく使用されずに機械の奥へ送られてしまうのではないかと。つまり世の全員が同様のサイクルを繰り返した場合、この世のロールの約半分が使われていないのではないかと。もったいないと思うのです。しかしだからといって使った面をそのまま放置して出ていくのも決して気持ちの良いものではないわけで、ここらへんの判断がなかなかに難しいところではあります。 というか、さっきのエアータオルの件もそうですけど、自分のハンカチ持ってればすむ話なんですけどね。

亀の剥製が飾られたドアから出てきた男は早口でそう語ると、灰色の海へと飛び込んで消えた。

(終)


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