潮時は月に委ねて(カズタカ)

父が死ぬのを待っている。
特に恨んでいるなんてこともないのだけれど、
どこかで暮らしているらしい父が死ぬのを待っているのだ。

仕事でずっと家に居なかったから思い出も少ない。
子供の頃に学校に行きたくないと玄関で駄々を捏ねた時に、
いきなり平手打ちを喰らったことがある。
その時、後から考えたら叩かれた跡が温かかったような気がした。
けれど、それも気のせいだろうね。

父が死んでも泣かない気がする。
結局、母は悲しむだろう。
妹は喜ぶだろうか?
死んだという事実を確認する役をやらないといけないのは気が重いけれど、
骨を見た時にどんな感情が湧いてくるのかは興味があるよ。

一度倒れてから、車椅子に乗っているらしいじゃない。
脳がやられて世迷言を吐くようになったんだろ?
十分自由に生きたじゃないの。
それそろ潮時だと思うんだよね。

こっちは親より早く死ぬ訳にいかないんだからさ。
言いつけは守ってるんだからさ。
月に願っておくから、そっちでちゃんと受け取ってよ。

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