タイトルお借りします(七寒六温)

 やってみたいことがあって、他の作家さんの協力を頂いて、やらせていただくことにしました。
 今回、新たな試みとして、以前他の作家さんが、文芸ヌーさんの方で投稿された作品のタイトルを私が、そのタイトルを借り、同じタイトルで、作品を書いてみようというものです。同じタイトルでも、書く人が違えば、まったく違った作品になるのではと思いました。完璧に完成した作品を追いかける形とはなりますが、やらせていただきたいと思います。 

 今回タイトルを借りるにあたり、他の作家さんにタイトルを借りていいですかと相談した所、複数の方に快く使っていいですよと許可を頂きました。どのように公開すればいいかのアドバイスもたくさんいただきました。ありがとうございます。今後も、もし2弾、3弾と続ける場合、使用させていただきたい場合、その借りたいタイトルとともにその旨をまず、作家さんにDM等で確認の上、了承を頂いた上で使用させていただきたいと思います。


 今回は、タカタカコッタさんの「給食の時間」をお借りしました。タカタカコッタさんありがとうございます。読んだ方はもちろん、読んでいない方は、ぜひ、タカタカコッタさんの「給食の時間」お読みください。
 では、はじめます。
 
 給食の時間(七寒六温)
 
 給食の時間? 
 そんなの覚えてないよ。だってさ、運動会に修学旅行に参観日、様々なイベントがあった学校生活の中で、給食の時間なんて覚えている? 覚えてない、覚えてない。

 ただ、強いて言うなら、あの日の給食……あの日の給食だけは覚えている。

 その日は、パンが、ローストビーフパンだった。
 
 子どもながらにあのローストビーフは、おいしいと思った。子どもが食べられるように、シンプルな味付け。赤ワインのソースやバジルはかかっていない。

 おいしい おいしい おいしい おいしい
 この日はクラス全員がその言葉を使っていた。ハヤシライスが嫌いな石川ですら、ローストビーフは、おいしそうに食べていた。そうそう、パンはそこまでおいしくなかった。いつものパンを使っていたはずだが、ローストビーフがおいしすぎたのだ。

 このままであれば、給食の時間は楽しいだけの時間だったのに、このままで終われば、クラスみんな仲良く笑顔で終われたのに。

 ローストビーフパンが1個余ったのだ。

 欠席は誰もいない、 本来なら余るはずがないのに、当時担任をしていた佐藤先生が余計なことをした。
「俺、今日はローストビーフの気分じゃないから、欲しいやつでじゃんけんして食べていいぞ。ほしいやつは手を上げろ」
 佐藤先生的には、生徒たちに慕われたかったんだろうな。ローストビーフを差し出す大人の余裕とか、見せたかったんだろうな。
 
 これにより、3分の2以上の生徒が手を挙げた。いつもなら手を挙げない恥ずかしがり屋の生徒も今回ばかりは手を挙げていた。あのハヤシライス石川ですら手を挙げていた。それほどローストビーフがおいしかったのだろう。

 そして、じゃんけんは始まった。僕はチョキを出すかグーを出すか悩んだあげく、グーを出して初戦敗退。初戦敗退だったから、そこまで悔しいという感情はなかったが、準々決勝あたりで負けたやつは、雄叫びをあげていた。 

 結局、勝利したのは、髪の長い男の子だったが、勝利した男の子は、他の生徒から悪人を見るような目で見られていた。大きなくくりで言えば、悪人かもしれない。あのローストビーフパンを2つ食べたことは、罪になりえる。

 なんとなく、嫌な空気が流れたまま、給食の時間が終わった。ローストビーフパンが余らなければ、「究極の1個を楽しめた」で終われたかもしれないのに、ローストビーフパンが1個余ったせいで、「2個目を食べられなかった」という虚しさが残ったのだ。
 2個目を食べた髪の長い男の子も、罪悪感からか、2個目はさほど美味しそうに食べてはいなかったし。

 それくらいだ、 給食の時間で覚えているのは。 
 そういえばあの日以降、佐藤先生が大人の余裕を見せることはなかったな〜。

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