ジ・エクストラ・テレストリアル(puzzzle)

「だぁれもいない海ぃ 二人の愛を確かめたくてぇ」
 リモートワークで凝り固まった身体を外へ投げ出す。嫁の電動ママチャリに跨がって夜を漕ぐ。誰もいない通りで気持ちよく歌っていれば嫁からのLINEが届いた。

★ジャワカレー中辛2つ
★ウインナー
★玉うどん2パック
★まるちゃん焼きそば

 ご丁寧にウインナーパッケージの写真も飛んできた。売り切れていますように。俺はシャウエッセンのほうが好きなんだよ。
 最近ではよく仕事終わりに買い物をするようになった。座りっぱなしの身体を解す必要があるじゃない。
「ちょっと散歩してくる」
「ついでにスーパー寄ってきて」
 まぁいいけどってなるじゃない。散歩の筈が自転車に変わる。俺の全脚動より、嫁の電動サポート。大して運動にはならないが脚を回すだけで割と解れる。夜の空気を裂くのも気持ちいい季節になってきた。赤い月が薄い雲に隠れている。その向こうに思いを馳せ、たまには実家にも帰らねばなんて。
 散歩ついでのスーパーだったはずが、いつしか夜の買い物が日課になっている。なにかがおかしいなにかが。残念ながら二人のニーズは合致している。俺は憂さ晴らしに僅かな抵抗を試みる。
 冷蔵陳列棚には嫁ご所望のウインナーが積まれている。天然腸を使用した無塩せきあらびきポークウインナー。俺はそいつを無視してシャウエッセンをカゴに放り込んだ。
「あの星にはシャウエッセンという名の美味いものがある」
 畜産学部へ入学を決めたのは親の刷り込みだった。確かに美味かった。感動のあまり過剰な摂取を続けたら流石に飽きがきた。次にはまったのは家系ラーメン。今でも割と好き。嫁と知り合った頃はメロンパンが流行っていた。あいつはどうにも口に合わない。
 帰り道。自転車を漕ぎながら後ろカゴへ首を伸ばす。少しだけ罪悪感を感じていた。やっぱり天然腸を使用した無塩せきあらびきポークウインナーにしておくべきだったかしら。
 雲が流れ、明るい月が現れる。
「やあ」
 まだまだ大気圏外移動は自粛が無難。とは言え、たまにはこいつを実家に届けてやりたい。どうせ嫁も望んでいない一品。俺は前かごへと乗り移り少しだけ力を込めた。シャウエッセンを載せた電動ママチャリが月夜へ舞い上がる。好きなんだもの。
「私は今 生きているぅ」

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