タクローさん〜七寒六温サンタ企画参加作品〜(puzzzle)

 雑居ビルの最上階。妙な立地のスナック「聖夜」は相変わらず客がいない。
 財源が違うから二回に分けるなんてしけたこと言わなければ、自治体にお株を奪われることもなかったんだよ。声のいいナレーションの後に、若手議員からはそんな声が聞こえますなんて報道があったじゃない。あれ俺の発言ね。
「あらそう。あんたいつまで若手なの?」
 連立与党の公約を鵜呑みにしたくないとか、あんなひとたちに負けるわけにはいかないとか、愛しているとかいないとか、どうでもいいぜそんな事柄。
「タクローさん、あんた呑み過ぎだよ」
 ママ、腹減ったよ。
「これ食べたら、もうお茶にしときなさい」
 腹減ってるやつにはまずは食わせる。説教するのはそれからだ。その精神はママから教わった。全くその通りだ。欲しい奴にはくれてやれ。だけどその後に聞かされる説教を思うと、目の前に出されたたっぷり野菜の卵ぞうすいを食う気がしない。
「説教なんかしないよ」
 ママはロングロッドのシガレットホルダーに口を窄める。煙草の先を赤く灯してから、ゆっくりと紫煙を吐いた。かつては三級品と呼ばれた安い煙草だが、今では一箱五〇〇円。ラムのような甘い香りが鼻腔を擽る。
「あんたはスーツ姿がどうしても似合わないね」
 甘い煙で鼻がいかれる前に雑炊を掻き込む。身体が火照ると黒のスーツまで赤み帯びてきた。
「そのバッジもいらないね」
 シガレットホルダーでそいつを叩けば、スーツは真っ赤なコートに一変した。大きく煙をもう一吹き。俺の顔は真っ白な髭で覆われる。
 年内の全額給付なんてはじめっから俺に任せておけばよかったんだ。住民票が無かろうが無国籍だろうが、路上生活だろうが堀の中だろうが、どこにだって届けてやるよ。現金だろうがクーポンだろうが、キャンディーだろうがゲーム機だろうが、欲しいものがあれば何でも言ってみなよ。ホーリーナイトは大盤振る舞い。
「サンタ帽子は持ってきた?」
 はいはい。
「去年クリーニング出したんだろうね」
 説教がはじまる前にそろそろ店を出たほうがよさそうだ。窓を開けて指笛を拭けば、空飛ぶベッドを引いた赤鼻のルドルフが駆けてくる。俺は真っ赤な帽子を深く被ると、そいつに飛び乗った。

文芸ヌーは無料で読めるよ!でもお賽銭感覚でサポートしてくださると、地下ではたらくヌーたちが恩返しにあなたのしあわせを50秒間祈るよ。