ほんとうは全然知らない女の子(puzzzle )

その女の子は勝手に思い描いていた容姿とは異なり、顔なんかは真っ白く品のいい饅頭のようだった。ここに転校してきた時、一つだけずっと空いている席があった。長いこと入院している女の子がいるんだって。とても活発な女の子で、足なんかめっちゃ速くて運動会で大活躍するようなタイプ。きっと俺なんかとは仲良くならないタイプ。あのころジョイナーなんて短距離走の名選手がいてさ、勝手に陽に焼けたカモシカのような子を思い描いてしまうじゃない。一日だけ登校してきた日があった。俺の中から零れ落ちた言葉は饅頭だった。女の子を饅頭というのはあまりよくないのかもしれない。マシュマロにしておこうか。でも、そうだよな。陽の当たらない病院にいでいつまでも暮らしていたのだから、浅黒い肌であるはずがない。いつまでもベッドに縛りつけられていたのだから、どんなカモシカだってマシュマロになってしまうだろう。その子は一日だけ姿を現して、それきり。仲良しだった女子はお葬式に呼ばれたりしたろうか。俺にとってはたった一日だけ姿を現した女の子。気づくと図書館にはその子の名前が付いた記念の図書コーナーができていた。入院中に読んだ本だろうか。会話をする機会もなかった女の子。その記念図書を手に取ることはなかった。そもそも図書館なんて滅多に足を運ぶことがない。俺は運動会で活躍することもないし図書館で読書することもない。それでも学校は好きだった。ふとした瞬間に思い出す、あのマシュマロ顔、図書館の記念コーナー。まだローティーンだった俺にとって、あの子は死ンボルだった。こんなことが本当に起こるんだ。ヒトは死を前にするとマシュマロ顔になる。そして、死んだ後には記念図書のコーナーが作られる。なんか読んでいおいたほうがいい。まただ。お腹の中に真っ黒なグルグル虫が騒ぎ出す。俺は上履きのまま昇降口を駆け出すほかない。

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