中二(puzzzle)

 あいつは俺の部屋をノックすると、ドアに顔を挟んで「おやすみなさい」と言う。「これなんだ?」と顎をしゃくる。「シャイニング?」「正解」よくそんなもん知ってんな。俺だって全編はじめて観たのは動画配信で流れるようになってからだ。
 フロアワイパーを床に滑らせながら「スイスイスイダララッタ」と唄う。小僧は妙なことを断片的に知っている。「YouTubeで観たのか?」「学校で流れてる」いったい誰の選曲なんだ。担任だって俺より随分若いみたいじゃないか。何十年も昔から変わらず流れているのかしら。
 中学校というものは行く機会がないから様子がよく分からない。運動会なんて行事はなくなった。授業参観なんてものもない。こいつは昨今の状況に寄るものか。もともと無いものなのか知らん。
 割りとなんでも知っているものと、レイ・パーカーJr.のゴーストバスターズを流してみれば「なにこれ?」と言う。そいつはいかん。週末に観せなければならんと思ったものに限って無料配信でない。映画一本に100円払うことすら渋る昨今。
「松田聖子は神だ」にはたまげた。母ちゃんの影響があるのだろう。「ズガヌマだよ」ズガヌマだって母ちゃんから聞かされたのだろう。事によれば婆ちゃんから。松田聖子と言えば思い出す替え歌がある。俺の親父が酔っ払うと歌いだす。幼い俺はキャッキャと笑った。あまりにローカルネタであるためどんな歌であったかは伏せておく。
 小僧は眠い目を擦って学校へ向かう。在宅勤務で見送る機会も増えた。教室にはドアに顔を挟んで「おはよう」というジャック・ニコルソンがいる。掃除の時間になれば植木等がスーダラ節を歌い出す。スライマーやマシュマロマンはいないけれど松田聖子は未だに神だ。きっと令和的な某も多々あるのだろうけれど。俺が拾い上げることのできる断片で構成された二年二組。

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