骨と肉からできている(puzzzle)

 結論から言えば読書は直立に限る。本を構えた右肘を左手で支える。スマホ弄りも然り。
 椅子に腰かければ飛び出してくるおまえ。あまりに見苦しいからピタッとした服は着ない。長いこと腰かけていれば、あちらこちらから沸きあがる悲鳴。厄介な身体と付き合うようになってもうすぐ半世紀だ。
 おまえとの付き合いは長い。おまえがいなかった頃の記憶はない。愛着が沸くことなどあり得ず、いつかいなくなれと願い続けても、ダイエットは明日から。
 悲鳴に関して言えばここ二十年くらいだろうか。椅子に座っているだけにも関わらずあちこちから奇妙な声が聞こえる。
 コップ一杯の水とハードカバーの本。ガイブンは苦手だ。名前が頭に入らない。その点、こいつはよかった。私、姉、義兄その3、メイビーBF、毒盛り女の妹。一切の固有名詞が出てこない。主人公との関係もスッと入る。それでも落ち着いて読んではいられない。あいつが俺を見上げる。あちこちから悲鳴があがる。俺は立ち上がり、時に仰向けに倒れ混む。フローリングだ。身を横たえれば骨が軋む。
 やむを得ずヨガマットなどというものを購入した。い草のヨガマット。ポリウレタンの貼られた茣蓙だ。全室フローリングなんて、結局、耐えられない。い草の匂いに包まれてしばし眠る。
 すぐに目を覚ます。眠るにはやや固い。骨と肉が囁く。寝るな。起きろ。おまえには無理だ。囁きは叫びに変わり、三〇分も寝ていない。それでも多少頭はすっきりとしていた。何か書けそうだ。身体を捻ってスマホに手を伸ばす。不完全なフリック入力は、愚鈍な思考スピードにちょうどいい。思ったより書けることはない。腹の肉。怠惰な休日。節々の軋轢。ステイホーム。人生一〇〇年時代。
>買い物行くけど何かいる?
 別室の妻からLINE。
>海苔ピーパック
 椅子に腰かければ飛び出してくるおまえ。あまりに見苦しいからピタッとした服は着ない。長いこと腰かけていれば、あちらこちらから沸きあがる悲鳴。厄介な身体と付き合うようになってもうすぐ一世紀。未だガイブンは苦手だ。何処に向かって進んでいるのか。寝落ちの一頁を推測で補う。迷子になって読み終える気がしない。

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