田村は矛盾しない(puzzzle)

 田村ジュンはクラスでやっぱりタムジュンと呼ばれていた。
 中学校にもなると、そんなもんなにか役に立つのかよって授業があって古文・漢文なんてものがはじまった。それでも故事成語は割と面白かった。覚えたその日からムジュンムジュンと声に出す。
「わが盾の堅きこと、よくとほすものなし」
「わが矛の利きこと、物においてとほさざるなし」
 じゃぁ、その矛でその盾突いたらどうなんだよというあれだ。その内容にハッとするし、なによりムジュンの響きが気持ちいい。
「タムジュンは給食何と何が好き?」
「ワカメごはんとソフト麺」
 タムジュンはワカメごはんが大好きで、残したことはないはない。また、タムジュンはソフト麺が大好きで、休みが出たら替え玉ジャンケンに手を上げる。
 それは別に矛盾でない。
「タムジュンは何と何が得意技?」
 タムジュンの矛盾が聞きたくてしかたがない。
「タムジュン、それは矛盾だぜ」と言いたい。矛盾を誘うのはなかなか難しい。好き嫌いとか得手不得手とかいう質問がよくないのか。気づけはタムジュンの情報で溢れた。
 クラスが別れればそれっきり。別れなかったキナコに「ジュンのこと好きだったでしょう?」なんて言われて戸惑った。
 キナコとは三年間クラスが一緒でお互い地元で仕事を見つけた。出玉ランキングナンバーワンのパチンコ店と、そこに隣接した地域最安値に挑戦するスーパーだ。
 制服姿でインカムを耳に差したまま缶コーヒーを買いに行く。
「あの子、結婚したんだよ」
「タムジュン?」
 タムジュンはワカメごはんとソフト麺が好きで、地獄回りとはやぶさが得意で、キナコとサチが仲良しだった。
「もう村田だよ」
 ややこしいな。そう思うと同時に「タムジュン、それは矛盾だぜ」とはもう言えないことに気づく。
「あんた二次会くらい行く?ジュンのこと好きだったでしょう?」
 缶コーヒーを手渡して首を傾げる。68円の表示にもう一度首を傾げた。

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