知らない鳥(七寒六温)

どうでもいいことだが、この世には2つの人間が存在するらしい。

インコを飼う人間か、それともインコを飼わない人間か。

かつての友人 田村君は前者。
ヤンキーみたいなファッションをしていたくせにインコを飼ってやがったのだ。

誰にも迷惑をかけていないのだから、「飼ってやがった」なんて言い方しなくてもいいじゃないかと思うかも知れない。

一般人が、インコを飼うことは犯罪じゃないし、飼うか飼わないかを決めるのは自由だ。だけど、ルームシェアをする場合は別でしょ?

よく話し合う必要がある。ルームシェアするもの通しでゆっくり話し合い、双方が納得しない限り、一人の考えだけでそういうのは飼ったらダメじゃん。
 
※※※

専門学校卒業後、県外に就職することになった僕だったが、1人でアパートを借りられるほどお金に余裕がなかった。

頼んだら、父も母も快く支援はしてくれたと思うけれど、僕も20歳になったんだ。駄々っ子のようにいつまでも甘えているわけにはいかない。今まで育ててくれた両親にむしろ恩返しをしたいと思っていたから、頼るわけにはいかない。

生きていくにはお金が必要で、お金を稼ぐために働かなければならない。今まで父が働いて稼いだお金は父と母の物だ。誰かのためとかじゃなく、自分たちのために使って欲しい。今まで育ててもらった僕としてはそれくらいしてくれないと気持ちが収まらん。

※※※

家を出て、1人新たな地に踏み出すのは不安で、困っている時に、ちょうど田村君からルームシェアの提案をされた。

「田宮、俺らルームシェアしねぇ?」

「えっ?」

「つったって、一生ってわけじゃない。いくらか貯まるまでとか、どっちか彼女が出来るまでとかでいいからさ、どう、やってみない?」
いい案だと思った。
田村君とは高校時代からの同級生で、田宮、田村で出席番号が近いこともあって、たまに話すような関係、嫌いではなかったし、めちゃくちゃ仲いいってわけでもなかったからルームシェアの相手にはちょうどいいと思った。……たぶん。

※※※

そうして、僕は田村君とルームシェアを始めることになった。

田村君と、ここから新しい生活が始まるんだななんて、僕が物思いに吹けていた時

「今日からこの部屋は3人で住むんだな」

「な、何これ?」

「レイちゃん、俺が飼ってるインコ。この子も家族みたいなもんだから仲良くしてやってくれ」

れ、連絡なかったよね事前に、聞いてないよ僕……普通、ルームシェアに鳥を持ち込むなら連絡するよね、普通は?

半分半分で家賃を払うからって何をしていいってわけじゃない。いきなりさ、僕がこの部屋で、様々な霊長類を集めて全裸ビンゴ大会を開催したら、田村君だって怒るでしょう?

「うるさくはないから心配しないで」
「できれば、俺が留守にしてる時にウンチをした場合、速やかに片付けてもらえると助かる」

「留守にした時にウンチ?」
ちょっと待って、僕 まだ認めてないよ、インコを飼うこと、それなのに追加でウンコ処理まで頼む?

「難しくはないよ、むしろ簡単で、1度覚えて貰えば楽にできるさ」
爽やかな表情で田村君は言うけれど、君、頼む側なのによくそんな表情できるな。

流れで僕は、「Yes」と言うことになり、インコのこともウンコのことも認めることになった。

多分、この時もう少しちゃんと話し合っておけば、僕らはルームシェアを続けられていたかも知れないし、僕が鳥全般苦手になることもなかっただろう。

「うるさいなーこれじゃあ眠れないよ」

「夜くらいさ、鳴かないように出来ないの?」

「飲み水、レイちゃんの飲み水変えてくれるって言ったよな、どうして変えてくれてないわけ?」

喧嘩の始まりは大抵インコが原因で、インコについてある程度言い争いが終わってからは、互いが普段ため込んでいる嫌なところを言い合う。
薄々感じてはいた、インコ以外のことでも喧嘩にはなってたけど、インコは文句を言わないから全てをインコのせいにしていただけ。

※※※

結局、僕らのルームシェアは半年も持たず、田村君が出ていく形で、終わりを告げた。

田村君は、「彼女が出来たから、出ていくわな」
なんて言っていたけど、それは田村君なりの優しい嘘だったのかも知れない。

今、田村君が何をしているのか、どんな風に生きているのかは知らない。今さらどうやって連絡すればいいのか、どんな表情をして会えばいいのか、喧嘩別れしちゃったから何もなかったかのように笑顔で会うのは無理。
理由でもあれば別だけど……

どうでもいいことだが、この世には2つの人間が存在するらしい。

インコを飼う人間か、それともインコを飼わない人間か。

飼うか飼わないか、それは各々が決めていいと思うけれど、1度飼うと決めたなら最後まで飼って欲しい、それが僕らの人間の責任。

文芸ヌーは無料で読めるよ!でもお賽銭感覚でサポートしてくださると、地下ではたらくヌーたちが恩返しにあなたのしあわせを50秒間祈るよ。