尊敬するあなたへ(七寒六温)

 「卒業」についてのテーマで1つ、小説を書こうと思ったのですが、私は卒業式の日、涙を流すようなタイプではなかったですし、卒業式に嫌な思い出もいい思い出も特にありません。数あるイベントの1つでしかなかったので、私が大人になって、卒業したものについての話を書きたいと思います。

***

 私は大人になって、子どもの頃大好きだったもの
を1つやめました。
 
 「りんご飴」 
 割り箸にりんごが刺さっていて、ペロペロすると甘くて美味しいアレです。
 私は、昔からりんご飴が大好きでした。

 とは言っても、毎日のように食べられたわけではありません。年に1回、特別な日にしか食べられない、特別な食べ物でした。

 年に1度、近所で祭りが開かれていたのですが、あのカラーだからか、祭りの中でも一躍目立った存在でした。  
 
 焼きそばに、たこ焼きに、わたがしに、フランクフルトと様々なタイプのオールスターが集結する中、一際目立つんですから、りんご飴が、いかに凄いかが、分かります。尊敬でしかありません。
 
 勿論、焼きそばにもたこ焼きにもわたがしにもフランクフルトにもそれぞれの良さがあって、それぞれの方法で人々を楽しませているので、尊敬でしかありませんが。

 子どもの私、お小遣いなんていう名の自由に使えるお金は持ってませんでしたから、羨ましいと黙って見つめることしかできませんでした。

 そんな姿を見た父が、黙って私にりんご飴を1つだけ買ってくれたんです。

 それから、毎年、祭りに行っては父に、りんご飴を1個だけ買ってもらいました。年に1度だけの楽しみ、高嶺の花のような存在の食べ物をゆっくりとゆっくりと味わう。そんななんでもないような時間が大好きでした。口に出して大好きとは言えなかったけれども、大好きでした。

***

 大人になった私。
 正直、りんご飴は買おうと思えば、30個だろうが、40個だろうが、買えます。
 だけど、ここで大量で買ってしまうと、あの時の記憶を売ってしまうような気がするのです。

 祭りの屋台でなくても探せば、今ならきっと簡単に手に入るでしょう。

 でもそれも違うんです。

 あの祭りの、父が買ってくれた、あのりんご飴がいいんです。あのりんご飴だから感じることのできる感性だったり、言葉表現だったりがあるんです。他では、なかなか表現できない、特別なものが。

 だから私は、戻りたいと思った時にまた戻れるように、りんご飴を卒業しました。
 別に、食べなくたっていい。想像するだけで、私はあの頃にいつだって戻れます。

 そうだよ、いつだってあの場所には戻れる。誰も邪魔しないし、邪魔する権利なんてない。好きなように、好きな時に戻っていいんだ。あの時の輝いていたりんご飴は、時間が経っても、輝かなくなることはない。思い出ってそんな存在ですから。

 私はまだ、完璧な大人ではないのかもしれません。1日中ぼんやりとして休みが終わってしまうこともありますし、間抜けだなお前はって馬鹿にされることもあります。でも、そういう人の方が優れているんだって自分で自分に言い聞かせて、何とか頑張って生きてます。 

 そうだ、最近なのですが、大人だからこその食べ物なんてものを探していたのですが、石焼ビビンバなる食べ物があるということを耳にし、食べてみたのですが、美味でした!

文芸ヌーは無料で読めるよ!でもお賽銭感覚でサポートしてくださると、地下ではたらくヌーたちが恩返しにあなたのしあわせを50秒間祈るよ。