おとな庁(puzzzle)

 #こどもによるこども庁 のハッシュタグが立ち上がってから10年。トップの座についたサッちゃんはついに受験戦争を終結させた。灯りの消えた街の大型スクリーンにサッちゃんが映し出される。
「タエガタキヲタエ シノビガタキヲシノビ ミンナニデクノボートヨバレ 資本家二搾取サレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフ大人ニ ナルノハゴメンダ」
 真っ黒なマスクで暗闇に拳を突き上げるこども。真っ赤なマスクで暗闇にくるりターンするこども。真っ青なフルフェイスヘルメットで暗闇に変身ポーズを決めるこども。真っ黄な目出し帽で暗闇に携帯ゲームを続けるこども。
「シカモナオ交戦ヲ継続センカ ツイニワガ民族ノ滅亡ヲ招来スルノミナラズ ヒイテ人類ノ文明ヲモ破却スベシ コドモタチ 遊ボウゼ」
 この放送は、前日にこども庁で撮影されたものだった。好きに遊べと言われたところで教育されたこども達は遊び方を知らないだろう。冷めた目で見ているおとなたちも少なくはなかった。受験戦争を勝ち抜くことで人生が決まると刷り込まれていた一部のこどもは、終戦を認めないと最後まで反対の声を上げた。
 映像は、自宅にいるサッちゃんのライブ配信に切り替わる。大きな笑みを浮かべて「遊ボウゼ」と繰り返す。この時、サッちゃんは既に成人を迎えていた。オシャレに夢中なサッちゃんはカメラに向かってあっかんべえをしながら睫毛を盛った。
 拳を突き上げたこどもが駆け出せば、夜の街ではじまるおにごっこ。ターンしたこどもが踊り出せば、ダンスフロアに鳴り響くステップ。変身したこどもが空を飛べば、繰り広げられるクウチュウ戦。携帯ゲームを続けるこどもが座り込めば、仮想空間ではじまる冒険譚。
 酒なんかなくてもこどもたちは遊ぶ。言葉なんかなくともこどもたちは遊ぶ。こどもたちの息づかいと足音が夜の街を埋め尽くす。20時以降の消灯を過ぎても、サッちゃんだけは自撮り用のリングライトで煌々と大型スクリーン映し出された。チークを塗りながら鼻歌のサッちゃん。左右の頬を膨らませて唇を尖らせるとコンパクトを閉じた。
「アタシ、おとなになったから、おとな庁を創設するよ」
 遊び続ける夜の街に、サッちゃんは再び語りかける。
「くっきりとした姿が見えているわけではないけど、おぼろげながら、浮かんできたんです。46という数字が。シルエットが浮かんできたんです」
 大型スクリーンから響くサッちゃんの笑い声。月額46万円の現金支給。遊び続けたこどもたちがおとなになっても遊べるように。遊びの商品化に振り回されないように。遊びの格差が無くなるように。クソどうでもいい遊びに縛られないように。遊びの再生。サッちゃんはカメラを切る。遊びはまだまだこれから。

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