読書家無想文(puzzzle)

 本を構えて文字を追っている。ふとある言葉が目に止まる。踊る快感。歌う会館。なんでそんな言葉が出てきたのかと三頁戻ってなんとなく理解する。これってきっと誤字よね。本を構えて読書のフリをしているだけの分際で、こんな誤字かもしれないものに限って目が止まる。あら探しばかりが身に付いた気の毒なおじさん。それでも捲る快感を知っているから紙の本への信仰が止まない。ハードカバーは苦手なの。まな板みたいな本よりもソフトなカバーの四六判。本は左手。背表紙に薬指をかけて親指にページを掛けると緩やかな弧を描く四六判。紙一枚分親指をずらすと弾き出される新たな頁。会話も改行すらも無いびっしりと文字の敷き詰められた頁の出現に、嗚呼と声を漏らす駄目読者。一息で文字びっしり頁を書き終えた時の筆者の快感を思う。実は三度改行したのだけれど、あえて消してしまったのではないかしら。Deleteキーを三回ヒット。文字びっしり頁を眺めながら筆者はにんまり。駄目な読者が落胆することを想像しながらにんまり。新しいページが勢いよく開かれたと思えば、愛読者カードなんてものが挟まっている。恐れ入りますが切手をお貼りください。未だこんなものが挟まれているのか。本書をどこでお知りになりましたか?どこだったろう。おしり。読書をしながらその世界にどっぷり浸れる経験はあまりない。本書をどこでお知りになりましたか?などと問われれば意識は簡単に持って行かれる。おしり。確か好きになった作家がSNSか何かで紹介していたんだよ。その好きになった作家も、確か好きになった作家がSNSか何かで紹介していたんだよ。その好きになった作家も。源流には一人の作家がいて、十代の頃はじめに好きになった作家は原田宗典だったと思う。なんで気に入ったのか、どうしてその作家の一冊を手に取る機会があったのか、まるで覚えていない。身内にも友人にも作家のファンはいない。本書をどこでお知りになりましたか?選択肢の中だと「その他」になるけれど(     )の限られたスペースに理由を書くとしたら何と書けばいい。おしり。書いたところで愛読者カードを郵送することはないだろう。恐れ入りますが切手をお貼りください。すみません。探せばどこかにあるかもしれないけれど、最近、切手を買うことがないんです。そもそも葉書って幾らで送れるんだっけ。四〇円くらいだった記憶がある。きっと随分と昔の記憶なんだろうね。愛読者カードを抜き取って隠れた文字を追う。相変わらず物語の筋が分からない。ふとある言葉が目に止まる。踊る快感。歌う会館。なんでそんな言葉が出てきたのかと三頁戻ってなんとなく理解する。これってきっと

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