十人十色(七寒六温)

学生時代の友人、田中と飯を食べていた時の話。田中が、もう1人の友人である島本についての話を始めた。

「そういや、島本、またダメだったらしい」

「えっ、また~?」
島本は、彼女が欲しいらしく、マッチングアプリなるものを利用しているらしいが、また上手くいかなかったらしい。おそらく、原因は島本にある。

「今回も、うどんテスト不合格だったってこと?」

「そう、不合格だったらしいよ」

「もう、わざとやってるだろ? あいつ、彼女作る気ないだろ?」
彼女は作りたいらしいが、気の合わない人とは付き合いたくないらしい。 
そのため、自分とマッチングした女性が、気が合うか合わないか確かめるためにうどんテストなる独自のテストを、会う女性に対してしているらしい。

気が合うか合わないかそんな方法で確かめるなんて、もはやそれはマッチングしているとは言えないと思う……

「ちなみに、今回は何うどんだったわけ?」
テストとはいっても、筆記試験ではない。
島本は初デートのランチは絶対にうどん屋に行くのだが、そこで女性が何うどんを頼むかで自分と気が合うか合わないかを判断するという。女性が、島本の求めているうどん以外を注文すると不合格となる。ちなみにこのテストには4名の女性が挑戦したがいずれも不合格のとなっている。

「今回は、かけうどんだったらしい」

「かけうどん? あれ、経済的。将来 家庭を持った時、金銭面は安心できる。それのどこがダメだったのよ?」

「安すぎる……それが理由だって」

「は? 前の時は肉うどんを頼んだ女の人に対して、奢ってくれる人に対しての配慮が足りないとか言ってなかった?」

「そう、その時はそう言ってたんだけど」
「かけうどんはかけうどんで、自分のことを、お金ないヤツって思ってる感じがして嫌だって」

「そりゃそうだろうね……」
「初回のデートでうどん屋に行くやつなんて金持ってないか、ケチかのどっちかだろうかと思うからね。彼女なりに気を使ってお金を使わせないようにしようとしたんじゃないの?」

「普通はそうだけど、そこは島本基準だから……」
「それと、かけうどんだと、外でうどんを食べるメリットを感じないから一品くらいトッピングして欲しいって」
「あいつ、ドノーマルのもの食べるとすぐに怒るじゃん?」

「あ、そうね。こないだ一緒に牛丼屋行ったんだけど、俺が牛丼の並盛頼んだら、勝手に温泉卵乗せてきたし。俺は牛丼並盛が食べたくて頼んだのにさ……」

「島本は自分の感覚が、周りの人もみんな同じように持っていると思ってるんだろうね。そんな、100%自分と同じ考えの人間なんて、存在しないのにね。みんなどこかで妥協したり、尊重したり、合わせたりして生きているんだから」

「そうだよね~。でもさ、とかいって、本当は顔で選んでいるんじゃないの? 好みの顔じゃなかったから、テキトーに難癖付けて断ってるんじゃないの?」

「いや、それは違うみたい。読者モデルの経験がある子で、顔はめちゃくちゃ可愛かったらしい」

「そうなの……?」
「でも、いったい、何うどんを頼めば正解なんだろうね……まあ、うどんが正解したところで、次のテストが待ってそうだけど」

「それ! 俺も我慢ならなくて直接聞いてみたのよ。何うどんを頼めば合格なのって……」

「おお、よく聞いてくれた。そしたら何だって?」

「それがさ、教えてもらえなかった」
「俺が、知り合いの女性に答えを教える可能性があるからだって。回答の外に漏れるのを防ぐために、誰にも教えてないらしい」

「はぁ~? 何だそれ!」
「そんなことわざわざ、するわけないじゃん」

「島本は用心深いところあるしね。まあ、仕方ないよ」

「あ、そうだ。ならさ、今度3人でうどん屋行こうよ。あいつが何を頼もうか見てやろう」

「おっ、いいね。それならさりげなく確認できるかも知れない」

「まあ、あいつが注文するものによっては、手が出るかも知れないけど……」
「いなり寿司を10個だけ。とかいう頼み方したら殴る。グーで殴る」

「まあ、あり得ないことはないね」
島本ならうどん屋に行ってうどんを食べない。十分にありえる。

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数日後、島本をうどん屋に誘ったが、あいつは来なかった。情報が漏れることが嫌だから、テストの時以外、外でうどんは食べないようにしているらしい。

もはや、デートでうどん屋に行くことを断るってことが合格なのではと思ってしまう。

少し変わっていて、腹が立つことも多い島本は、俺にとっては かけがえのない友人の1人なんだよな。

島本が俺のことを友人と思ってくれているかは分からないけど。

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