見出し画像

映画備忘録/2023年6月編


『テリファー 終わらない惨劇』

ハロウィンの夜に現れたピエロ姿の殺人鬼アート・ザ・クラウンが巻き起こす惨劇を描いたホラー「テリファー」の続編。脚本家、プロデューサー、特殊メイクアップアーティストとしても活動するデイミアン・レオーネ監督が前作に続いてメガホンを取った。
マイルズ・カウンティーの惨劇から1年後のハロウィン。絶命したかにみえた連続殺人鬼のアート・ザ・クラウンが死体安置所で息を吹き返し、ふたたび街に現れた。残虐性と冷酷さを増したクラウンは、父親を亡くしたシエナとジョナサンの姉弟を標的にし、ハロウィンでにぎわう街で一人また一人と犠牲者を生み出していく。
全米公開時には生々しいバイオレンスやホラー描写のため、鑑賞者に注意喚起がなされるなど話題を集めた。

2022年製作/138分/R18+/アメリカ
原題:Terrifier 2
配給:プルーク、OSOREZONE

テリファー 終わらない惨劇 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://synca.jp/terrifier_movie/

【総評:☆5】
ストーリー:☆5
演出:☆5
リピート:☆5
※冷静に考えたらどの項目も☆5ではないはずなんですけどテリファーは「楽しい」が先行しすぎてカウンターが馬鹿になっています。無条件に☆5です。私の中ではワイスピと同じ枠です。

はい最高!新時代のホラーアイコン!!いけるとこまでいってくれ!!

1は予算300万で製作されて1000万の売上。超低予算映画ですね。そして本作は3000万をクラファンで集めて、なんと20-30億の売上とのこと。いやあ、みんな、好きだねえ~!!
予算が増えたので、前作のゴアゴア全振りスプラッターオンリーにプラスしてストーリーらしい部分がかなり増え、その結果140分。ロメロ以外でホラーで120分超える奴いるんだ……。140分はかなり長いけれどもストーリー部分が決して蛇足ではなく、このシリーズをこれからも続けていくんだという監督の意思表示のようにも感じる。
予算が増えたことによる古き良き70-80年代スラッシャーへのオマージュやアメリカンホラーへの愛が感じられて、すべて荒唐無稽なのに愛に包括されているからなんかとても楽しい。現代ではエクスプロイテーション映画がめっきり減ったけれど、やはり1のように「ゴアで~す!それだけで~す!」と開き直って製作された映画も良いものです。原題が「デイミアン・レオーネのテリファー2」みたいな感じで監督の名を冠しているのも良い。古き良き!

ストーリー部分がかなり増えたと言ったけれど、しかし、ちゃんとゴアはかなり長い。とにかく長い。しつこい。執拗。
終盤の主人公との戦いが長いよ~とは思ったが(もう少し削っても良かったとは思う)、ホラーやバイオレンスものにありがちな「この攻撃で他のキャラなら死んだだろうに主人公だけやけにタフ」なご都合主義になりかねないところを、他のキャラもとにかくタフな生命力にしてカバーされたおかげで、「いやそんなに人体破壊してもまだ死なないの……!?」という長いゴアのフルコースを味わえる。いっそ死なせてやれよ。死なせてやれよ……。そう思えるゴアを140分味わえる。この惨劇、マジで終わらない
普通の映画ならカメラをフレームアウトさせて直接は見せない行為でも、とにかくきっちり断面を全て見せてくれる。そこまで見せなくてもいいよ。見るけど。

それにしても、アートザクラウンくんも立派なホラーアイコンだな。
アートザクラウンくん20歳の衝撃がデカすぎて話が入ってこなかったですが(さすがに嘘でしょ。TOHOで公開も嘘すぎるけど。)、もう少しアートザクラウンくんの話をさせてほしい。
もはやアートザクラウンは「殺人鬼」ではなく「妖怪」。「人物」というより天災のような「現象」に近い。有名ホラーアイコンのジェイソンやブギーマンやフレディもさすがに頭と胴を離して燃やして灰にすればまあ大丈夫だろうと思えるがアートザクラウンは妖怪だから全然蘇りそう。
アートくんはそういう有名先輩ホラーアイコン殺人鬼と違って「殺人の美学」に執着せず、いかにファニーでいられるかを優先してそうなのが良い。なるべくやりたい殺し方はあるけどそれが妨害されるなら普通に銃で不意打ちするし(セコいよ)、ゆっくり貫禄出して歩いて迫るのが定番の殺人鬼とは違ってめちゃくちゃ俊敏にダッシュして追いかけてきそうなのも良い。キショい。

すでに3が製作決定で監督曰く4までは行きたいとのこと。
世界、明るいな~~!

『怪物』

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。

2023年製作/125分/G/日本
配給:東宝、ギャガ

怪物 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://gaga.ne.jp/kaibutsu-movie/

【総評:☆4.53】
ストーリー:☆4.3
演出:☆4.5
リピート:☆4.8

監督、脚本、音楽、役者、すべてが「邦画好きの妄言」みたいな映画


まず大前提としてめちゃくちゃ面白い!面白いです。この布陣でつまらないわけがない。
おおまかに三章に分けられる構成で、それぞれの視点から怪物探しをする。時系列に並べて見れば実際のあらすじはシンプルなはずだが、その三段階の構成にすることで一気に物語に重厚感が増す。「重厚感」という言葉は非常に陳腐だけれど、視点と時系列を入れ替えることでむやみに物語をややこしくしてそれっぽくしているわけではなく、各々の視点から見た各々の世界が浮き彫りになってきて、「怪物探し」というテーマが意味を帯びてくる。私も誰かの怪物なんだよねぇ。

序盤では思っていたより是枝監督っぽさを感じなかったが、少年たちのシーンで一気に色彩や画角など「是枝監督」感が出てくる。是枝監督好きなんだなあこういうの……こういう少年たち……。

そして非常に上から目線の恥ずかしいことを言うけど、是枝監督映画撮るの上手くなったなと思った。いや本当に何様だという感じだけど。
(あくまで著名な監督のなかで相対的な印象として)元々映画を撮るのがとても上手いというわけではなくずっと荒削りな部分があって、でもそれ以上に強い愛や熱量や自分の主張があったから、技量以上に観客の心を動かすことのできる監督だと思っていて、わたしはそこが凄く好きだった。本作はなんだか前より手堅く垢抜けた感じがあるのだけど、脚本や音楽の相乗効果なのかもしれない。(本当にどこから目線なのかという話だが)

カンヌが好きそうな映画だというのも分かるし、しかしクィアパルム賞を贈られたことについては個人的には少し疑問に思うところもある。少なくともこの賞を贈られたことで本作をLGBTQの映画だと定義づける人も少なくはないだろうし、そうレッテルを貼られてしまうと本作の本質的な「怪物探し」が矮小化されてしまうのではないかという危惧がある。

レッテルを貼らずに観てみてほしいなという思いが強くある。

『THE KILLER 暗殺者』

かつて伝説の暗殺者として恐れられた男ウィガンは、引退後は財テクで成功を収め、派手な生活を送っていた。そんなある日、妻が友人と旅行へ出かけることになり、ウィジンは妻から友人の娘である女子高生ユンジの世話を頼まれる。軽く考えて引き受けたものの、ユンジは人身売買組織に誘拐されてしまう。ユンジを救うため再び戦いの世界に身を投じ、暗殺者としての本能を呼びさましていくウィガンだったが……。

2022年製作/95分/PG12/韓国
原題:The Killer
配給:クロックワークス

THE KILLER 暗殺者 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
http://klockworx-asia.com/killer/

【総評:☆3.77】
ストーリー:☆3.3
演出:☆4
リピート:☆4

「こういうのでいいんだよ」な韓国映画。

脚本を潔く捨てて「チャン・ヒョクのイケてるアクションがいっぱい観た~~い」という感情だけで撮っている感じがいっそ清々しい。
せっかくアクション全振りならもっと変態的な韓国アクションも観たかったが、それ以上に必殺仕事人的な景気よい殺人が続くのでストレス発散になる。「引退した殺し屋」と聞くと先月に観た『メモリー』での落ち込む気持ちを思い出すが、本作はフィクションよろしくバリバリ強いし全く怯まないし敵はすべて“やられ役”しかいない。景気が良い。
景気が良いといえば、「引退した殺し屋」だが資産運用で成功して綺麗な奥さんと上流の暮らしをしていて、通常の「引退した殺し屋」のイメージを覆すもの。引退した殺し屋が女子高生を守るとなると2人の関係性にも着目したい古典的なハードボイルドを想像するけれど、本作では「奥さんに怒られるのが嫌なので」女子高生を渋々守っている愛妻家っぷり。金持ち愛妻家の元殺し屋、ある意味型破りでハードボイルドなのかもしれない。

『独裁者たちのとき』

「エルミタージュ幻想」「太陽」などで知られるロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフが、ダンテの「神曲」を彷彿させる冥界を舞台に、神の審判を受けるため天国の門を目指してさまよう独裁者たちの姿を描いた異色ドラマ。
深い霧に包まれた廃墟の中に、ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニという、第2次世界大戦時に世界を動かした者たちの姿があった。煉獄の晩餐が始まると、彼らは互いの悪行を嘲笑し己の陶酔に浸る。彼らは地獄のようなこの場所で、天国へと続く門が開くのを待っているのだった。
実在した人物たちのアーカイブ映像を素材として使用し、独特なデジタルテクノロジーで彼らの姿をスクリーンによみがえらせた。セリフも全て実際の発言や手記を引用している。

2022年製作/78分/ベルギー・ロシア合作
原題:Skazka
配給:パンドラ

独裁者たちのとき : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
http://www.pan-dora.co.jp/dokusaisha/

【総評:☆3.77】
ストーリー:☆3.5
演出:☆4
リピート:☆3.8

なんだこれ?よくわからんが何か異様なもんを見せられたことだけ分かる。
「実在した人物たちのアーカイブ映像を素材として使用し、独特なデジタルテクノロジーで彼らの姿をスクリーンによみがえらせた。セリフも全て実際の発言や手記を引用している。」という説明だけで、そしてあらすじを読めば、それだけで異様な映画であることがすぐに分かる。原題「Skazka」は「おとぎ話」「童話」といった意味のロシア語だが、本作はまさにおとぎ話らしくうっすらと悪夢のよう。(大体おとぎ話や童話というものは血なまぐさかったりエロかったり醜悪だったりするもので、現代に伝わるにつれてマイルドになっているだけだもんね。)

(その場は地獄ではないが)大きく括ればダンテの神曲のように地獄巡りに属するだろう本作。私は同じく地獄巡り的な性質を持つフィル・ティペット『マッド・ゴッド』をもの凄く楽しんで鑑賞したが、いくら意味不明奇々怪々で世間ウケしないと言われていても『マッド・ゴッド』がエンタメの体裁を保っていたことに対して、本作はマジで難解を極めている。
正直なところうつらうつら寝落ちしながら鑑賞していたが、夢うつつでこの映画を観ているときの感覚はまさに悪夢。寝落ちたり覚醒したり、そんなことを繰り返しながら、重たいまぶたを開けて、かすむ視界越しにスクリーンを見る。
ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニらが何か含みがあるようなないような……なんだかもの凄く高尚なようなそうでないような……そんな会話をしながら互いを値踏みしたり嘲ったりする様はもの凄く世俗的。そして対照的に映される荘厳で悪夢のような世界。モノクロ映像で綴られる、いつ終わるか分からないおとぎ話に、面白いかは私には分からないけれどなんか良いものをスクリーンで観たゾという気持ちになりました。普段なかなか観ない映画を観てこそ映画体験。だよね。

『ブラック・デーモン 絶体絶命』

伝説の超巨大ザメに襲われる家族の極限状態を描いた、海洋サバイバルスリラー。

海底油田の視察とバカンスを兼ね、家族とメキシコを訪れたポール。しかし、町はかつての活気を失い、存在感を放っているのは、悪魔から守ってくれると言われるアステカの彫刻だけという状態だった。油田にも人気はなく、見知らぬ男が怯えた顔で海を見つめている。そんな時、突然、油田が巨大な揺れに襲われ、アステカに語り継がれる伝説の超巨大ザメ「ブラック・デーモン」が出現する。ボートが損壊し、通信手段もないという状況下で、崩壊寸前の油田に取り残されたポールと彼の家族。さらに、油田の下には何者かが仕掛けた大型爆弾が見つかり、爆発までのタイムリミットは残り59分となっていた。

2023年製作/101分/G/アメリカ
原題:The Black Demon
配給:松竹

ブラック・デーモン 絶体絶命 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://movies.shochiku.co.jp/blackdemon/

【総評:☆3.63】
ストーリー:☆3.3
演出:☆3.8
リピート:☆3.8

世間の星は低いけど、私は「トンチキじゃないし設定を守って最後まで行ったなかなか硬派なサメ映画でいいじゃん!」と評価している映画。悪くはない、悪くはないぞ……!!
決して低予算というわけではないのだがサメはあまり出てこないし人もあまり食われない。(※サメといえばB級の代名詞だが、それゆえに低予算となり全然サメが出てこない事態になりがちである)
サメが出てこないため、THEサメ映画というドキドキ感は薄く、それが世間的に評価が低い原因なのかな……?と思った。サメがシンゴジラのゴジラの立ち位置だった。荒ぶる神の化身……彼が英語名に「GOD」をつけてGODZILLAとなった……

悪くはない、悪くはないのだが、もの凄く良いわけでもない理由としては、やはりどうしても雑で粗いところが目立つのと、脚本の整合性がとれておらず「うーんそのシーン必要?」「なんか急だな」という感情はある程度発生してしまったからというのがある。
まあ終わり方はあまり……というか全然好きでは無いし色々雑なところも目立つけど、そんなに酷評されるほどか?とは思う。普段あまりに雑なサメ映画を見過ぎているからハードルが地の底を這うように低くなっている可能性もあるが。硬派なわりに雑な脚本だったから多少の批判もやむなしではあるとは思う……が個人的にはアステカの土着信仰でデカサメが「悪魔(神の怒り)」として解釈されてるのは土着信仰好きとしては嬉しかった。荒ぶる神の化身……彼が英語名に「GOD」をつけてGODZILLAとなった……

(以下若干のネタバレ???)

幻術使いのデカサメ ウケる
まさか幻術使いのピエロと幻術使いのデカサメが1ヶ月以内に見られるとはね(これはテリファーの話をしています)

『M3GAN ミーガン』

子どもを守るAI人形が引き起こす惨劇を描いたサイコスリラー。

おもちゃ会社の研究者ジェマは、まるで人間のようなAI人形「M3GAN(ミーガン)」を開発している。ミーガンは子どもにとっては最高の友だち、そして親にとっては最大の協力者となるようプログラムされていた。交通事故で両親を亡くした姪ケイディを引き取ることになったジェマは、あらゆる出来事からケイディを守るようミーガンに指示する。しかし、ミーガンの行き過ぎた愛情は思わぬ事態を招いてしまう。

2023年製作/102分/PG12/アメリカ
原題:M3GAN
配給:東宝東和

M3GAN ミーガン : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://m3gan.jp/

【総評:☆4.67】
ストーリー:☆4
演出:☆5
リピート:☆5

お前が優勝!!お前が優勝!!お前が優勝!!
チャッキーに次ぐ新星殺人アイコンことミーガン、爆誕!!
ジェームズワンとブラムハウス!!??ハズれるわけがねえよな!!
何を言えば良いかわからんけどとにかくとてもとても楽しくて、とてもとてもエンタメで、とにかく、チャッキーとバトルしてくれや。

何十年にも渡りこすられ続けてきた人形ホラーという古典に真正面から向き合い、手垢のついた展開もオマージュし、そしてそれを2023年のセンスでまとめ上げて、一気に駆け上がるようなラストバトルの熱さ!大人から子供まで/ホラーファンから一般層まで楽しめる非常に純度の高いエンタメに仕上げている。素晴らしいの一言に尽きる。最高!
ミーガンも一挙手一投足に貫禄があって非常にアイコン化するに相応しいキャラクター性を持っていて、ヒットせざるを得ないとしか言いようがない。

私は心の底からジェームズワンを神格化し全面的に信頼し新作を観るたびに「“キレッキレ”じゃん…………」と感嘆していますが、彼やジェイソンブラムに共通する良さって世界的に名が知られて地位を獲得している今でも「映画の基本は娯楽映画だ」ということを忘れず、ちゃんとエンタメを展開してくれるところだと思っています。
(個人的にはジョーダンピールがここにきて『NOPE』を作ってくれたのも同様の気配を感じて非常に好印象でした。)

もちろんジェームズワンにも粗はある。むしろ多少強引なところが多いひとだとも思う。ただ、しかし、とにかくそれ以上にキレッキレなのだ。天才でも奇才でも鬼才でもなく「キレッキレ」という言葉がいちばん似合うひと。

私が大富豪になったら、ジェームズワンにしこたまストロングゼロを飲ませて3日寝かせていない状態で映画を撮らせてみたい。

『プーチンより愛を込めて』

ロシア連邦大統領ウラジーミル・プーチンの素顔をとらえた2018年製作のドキュメンタリー。

1999年12月31日、ロシア連邦初代大統領ボリス・エリツィンが辞任し、自身の後継者としてプーチンを指名した。3カ月後に行われる大統領選挙までの間、ロシアの新しい憲法と国旗は若き指導者に引き継がれることに。プーチン大統領候補の選挙用PR動画の撮影を開始したビタリー・マンスキー監督は、大統領選挙への出馬表明も公約発表もしないまま“選挙運動”を展開するプーチンの姿を記録。プーチンが大統領代行に就任してからの1年間を追った映像を編集し、ドキュメンタリー映画として完成させた。

選挙運動では控えめな印象のプーチンだったが、徐々にその本性が見えはじめる。プーチンがいかにして権力を握り、現在の統治国家を築きあげたのかを浮かび上がらせていく。

2018年製作/102分/G/ラトビア・スイス・チェコ・ロシア・ドイツ・フランス合作
原題:Putin's Witnesses
配給:NEGA

プーチンより愛を込めて : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://fromputinwithlove.jp/

【総評:☆4.03】
ストーリー:☆4
演出:☆3.8
リピート:☆4.3

間違いなく、いまこの時代に観る価値のあるドキュメンタリー映画。 

(以下、ほぼネタバレのような内容です。ドキュメンタリーなのでネタバレと形容するのが正しいかは分からない)

本作はドキュメンタリーとはいえあくまで映画なので、どこまで素材が編集されているかは分からないしどこまで作為的かわからない。必ず制作者の作為的な編集は行われているしそれを避けることはできない。最終的にこうして作品(原題は『プーチンの証人』)になったときには、密着しカメラを回していた当初に比べるとかなり強くプーチンを批判的にみる態度から編集されている。映像の中でやはり今に至る(我々の知る)プーチンの強硬さは垣間見えるが、プーチンを過度にモンスターと切り取るわけでもなく過度に人間臭く切り取るわけでもなく、その曖昧さが生々しくて、それだけで観る価値を感じた。

本作を観てなお、プーチンが何者なのかわたしにはやはりわからない。
ただ、生まれつきの怪物ではないし、かといって「実はとても人間らしく優しかったんだ」でもない。
私の目には、「自分の思想がある堅実な政治家」のように見えた。(※ここでいう堅実さとは人間としての堅実さではなく政治家としての堅実さなので、結果的に人間味ある優しさや普遍的善行とはとはかけ離れることもある) 

印象的なシーンとして、当選後に事務所で多くの仲間とプーチンが集まっている場面がある。その場では歓談し友好的な関係のように見えたが(とはいえ友人のようとまでは言わないが)、ただ一人を除いて、いまでは全員が野党移行や失脚、あるいは死を迎えているというテロップが出てきたときがいちばん恐ろしかった。
その過程に何があったのか?ごく普通に生を受けた人間が政治の世界に入っていくだけでなぜそうなってしまうのか?私には分からないが、私の生きているこの場からあの場は紛れもなく地続きなのだと思うと、不思議な感覚にもなる。

またもう一つ印象的なシーンがあった。
プーチンが夜の公用車のなかで「ビールが飲みたい」「自分がいま急に外でビールを飲んだら大渋滞になる(自分の些末な行動が世間を大きく混乱させる)」「いつか自分も一般の民間人として普通の生活に戻る」「そのとき外で普通にビールを飲む」と話していたのが忘れられない。
20代のわたしにとって、プーチンは、物心ついたときからロシアの実質的独裁者で、絶対に地位を手放そうとしない人というイメージだった。かつてはプーチンもただの政治家として、任期を終えたらただの人間に戻るものだと当然思っていたのか……。
20年も国のトップとして国を守ることを考えていたら誰しも「おかしく」なるのではないか?と思わされる。それは精神病理的な「おかしくなる」ではなく、正気のままに思想と行為がエスカレートし世間的にみれば「おかしい」とされる状態になるという意味だ。
何もプーチンはロシアでプーチンしか持っていなかったもの凄くおかしい考えを抱いていたわけではない。それは彼を支持する政治家や民衆がいることが証左であり、すでにロシアの保守派にあった考えをもとにプーチンは政治家になり、やがて独裁者のようになり、そしてその思想が20年かけて肥大化して凝り固まり、凶暴に増長していったんだろうか。
長期政権を執る人間はだれしも思想の肥大化と凝固は起きうると思う。元々あった思想が何であるかにより招く結果が様々で、結果的に独裁者と呼ばれなかったひとたちがたまたま居ただけで。

ロシアで1998年頃に連続した民家爆破テロ(これで一般人が犠牲になった)が起きていたことをこの映画で初めて知った。私が生まれた頃の話で当たり前だがまったく知らなかった。
現地で犠牲者を追悼するプーチン(大統領選を控えた時期だった)がテロに対して「正気ならこんなことをしない」「何の罪もない人々が寝ている間に殺された」「こんなに酷いことは無い」と憤っているのを、2023年の私達はどう見たらいいんだろうか。大統領選を控え、カメラを前にしていて、プーチンのこの発言はもちろん対外的な心象そして支持率投票率を意識しているのは間違いない。
ただ、このテロにプーチンが無関係であるならば(少なくともこの映画ではプーチンの関与は無かっただろうと推測している)、この発言は少なからず本心であることも間違いないと思う。

で、この感想を書いているいま、このいま、プーチンは何を考えているのだろうか。いまこの瞬間のプーチンの気持ちを知ることが出来るのであれば知りたい。いまでも犬は好きだし、美しいものは美しいと感じるし、面白ければ笑うんだろう。人間の政治家であるプーチンを「偏った思想を推し進める怪物」として捉えるのはあまりに本質的ではなく、問題の矮小化でしかないと思った。ロシアは日本にとって隣国である。見るべき映画だと思う。

ちなみに余談ですが、007をパロった邦題らしいです。

『忌怪島 きかいじま』

南の島を訪れたVR研究チーム「シンセカイ」のメンバーたちに、不可解な死や謎が次々と襲いかかる。非科学的なことを信じないシンセカイの天才脳科学者・片岡友彦は、父の死をきっかけに島にやって来た園田環とともに真相を解き明かすべく奔走するが……。

忌怪島 きかいじま : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://kikaijima-movie2023.jp/

【総評:☆3.6】
ストーリー:☆3.3
演出:☆4
リピート:☆3.5

通常の備忘録に書くのも憚られたので隔離して感想を書いている。

忌怪島を観たよ。この虚しさを吐き出したい。そして日本ホラーの限界集落を憂う。あなたは天才のはずだから。|BUN太 (note.com)


『ビデオドローム 4K ディレクターズカット版』

鬼才デビッド・クローネンバーグが1982年に発表した「ビデオドローム」のディレクターズカット版。見る者を狂気の世界に陥れる殺人映像に魅入られた男の顛末を描いたSFホラー。製作から40年を記念して、上映時間89分のディレクターズカット、初の4Kデジタルレストア版で公開。

暴力やポルノが売り物のケーブルテレビ局を経営するマックスは、ある日、部下が偶然に傍受した電波から「ビデオドローム」という番組の存在を知る。その番組には、拷問や殺人といった過激な場面が生々しく映し出されていた。やがて「ビデオドローム」は見た者の脳に腫瘍を生じさせ、幻覚を見せるものであることがわかり、「ビデオドローム」に支配されたマックスの世界も均衡を失っていく。

1982年製作/89分/R18+/アメリカ
原題:Videodrome
配給:東京テアトル

ビデオドローム 4K ディレクターズカット版 : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://theatres-classics.com/

【総評:☆4.27】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4.5
リピート:☆4.5

時を経ても色あせない圧のある怪作。
身につまされるね。私もあなたも、たぶん100年後の誰かも。

監督の新作に備えて、劇場で再上映されていたので観た。
どうしても昔の映画はどんなに面白くてもいま見返すと少し古くさく感じて、「古くささは拭えないが」という枕詞がついてしまうことが一般的だ。真剣なはずの場面が現代的な感覚ではファニーに見えたりするのは、特にホラーやスリラーの古い作品では避けることが難しい。しかしながら本作はそういう古くささが全く無い。いま観ても面白いし、「古くささは拭えないがおもしろい」ではなく、「おもしろい」と純然に思うことができる。感服。
古くささが無いという点において、これを観て「現代のスマホが云々」「インターネット時代が云々」と評価する人が多い。本作に2023年現代の問題点をあぶり出す先見の明があったように捉えられることが多いが、しかし正確には、強固な思想を持つ(つまり本質がそこにある)映画はあらゆる時代に共通する普遍的なメッセージ性を抱くことができると表現した方が正確だと思う。
そのように強固な思想はあるが、しかし説教臭くはなく、ダウナーな世界観は心地よく、スリラーのカタルシスがあり、それでいて暴力性もあり娯楽映画として純粋に楽しめる。

主人公の腹の傷口に銃を差し込むのは、女性器に男性器を挿入する隠喩だろうか?ついそう思ってしまうが我が事ながらありきたりな解釈だなあとも思う。映画って、なんか割れ目に棒状のものを差し込んだら、大体女性器と男性器の隠喩って言われるし。うーん。
なんで眼鏡屋さんなのかなと考えていたが、本質を見抜けなかった人が眼鏡屋さんであるという皮肉かな??うーん。

『プー あくまのくまさん』

楽しい冒険に満ち溢れていた日々は終わりを迎え、青年になったクリストファー・ロビンは、大学進学のためプーとピグレットを森に残して旅立っていった。時が経ち、婚約者のメアリーとともに100エーカーの森に戻ってきたロビンは、そこで血に飢え野生化してしまったプーとピグレットの異様な姿を目の当たりにする。

2023年製作/84分/PG12/イギリス
原題:Winnie the Pooh: Blood and Honey
配給:アルバトロス・フィルム

プー あくまのくまさん : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://akumano-pooh.com/

【総評:☆2.77】
ストーリー:☆3
演出:☆2.8
リピート:☆2.5

なんか、うーんという感じで、納得はいかないけれど熱量をもって批判するのもその気力体力が惜しいという気持ちになる。いくらでも悪いところは言えるし、良いところもそれなりに出せるけれど、それ以上に「その時間が惜しいな」と思ってしまう。
のでもうあんまりこの映画に気持ちを割きたくないのでフィルマークスのリンクをそのまんま貼ります。怠惰なり。
プー あくまのくまさんのぶんの映画レビュー・感想・評価 | Filmarks映画

『リバー、流れないでよ』

上田誠率いる人気劇団「ヨーロッパ企画」が手がけたオリジナル長編映画第2作。国内外で高評価を得た長編映画第1作「ドロステのはてで僕ら」に続いて上田が原案・脚本、同劇団の映像ディレクター・山口淳太が監督を務め、冬の京都・貴船を舞台に繰り返す2分間のタイムループから抜け出せなくなった人々の混乱を描いた群像コメディ。

京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」で仲居として働くミコトは、別館裏の貴船川のほとりにたたずんでいたところを女将に呼ばれ、仕事へと戻る。だが2分後、なぜか先ほどと同じ場所に立っていた。そしてミコトだけでなく、番頭や仲居、料理人、宿泊客たちもみな、同じ時間がループしていることに気づく。2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまうが、それぞれの記憶は引き継がれるのだ。人々は力をあわせてタイムループの原因究明に乗り出すが、ミコトはひとり複雑な思いを抱えていた。

2023年製作/86分/G/日本
配給:トリウッド

リバー、流れないでよ : 作品情報 - 映画.com (eiga.com)
https://www.europe-kikaku.com/river/

【総評:☆3.93】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4
リピート:☆4

少し笑えてやさしくて切ないループ映画
何度も何度も何度も言っていますが、邦画も捨てたもんじゃないのよ本当に。

「2分間だけのタイムループを繰り返す」ただそれだけの、狭い世界で繰り広げられるループもの。ゆえに登場人物は限られておりほぼワンシチュと言えるほどに舞台も狭い。しかし、むしろそれが登場人物に人間味を持たせて、どのキャラクターたちも愛嬌があって親近感がわきこの世界観に無理なく引き込まれていく。
2分という短すぎる時間設定のなかで登場人物たちが「もうこの回は捨てだ!」「次の回ではあれをやるぞ!」とタイムループに前向きに(?)取り組んでいるのが面白い。

ここ最近では『MONDAY』があまりに邦画タイムループものとして優勝すぎたので本作の存在感はどうしても薄くなるだろうが、しかし、青春を描きながらうつくしい貴船の景色とともに織りなされる人間模様がいとおしく暖かく、きちんと面白かったし、何よりも「おもしろいものを作りたい」という律儀な仕事が伝わってきて非常に好印象だった。
何度も何度も何度も言っていますが、邦画も捨てたもんじゃないのよ本当に。
登場人物たちがたった2分だけのループを何度も繰り返しながらどうにかループから抜け出そうと試行錯誤する姿が、この映画自体のセルフビルド的な良さを象徴していて、とにかくなんだか「いいねえ」という気持ちになる。
邦画はつまらんとかあんまりにもあんまりな雑語りをする奴の口にはべびわるでも突っ込んで黙らせてやりたいねえ、本当に。


6月終了!もう7月も半ばだよ!ではまた来月!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?