映画備忘録/2023年5月編
それでは5月に観た新作劇場公開作の備忘録をつけていきます。
6月も半ばを過ぎたっぽいけど。こわ。上半期、終わる?
※今月もわかりやすさのために星を指標としてつけていますが、わたし自身の好みが偏っているということもあり、一般的な目安として機能しているかは怪しいです。また全て愛とリスペクトに基づいています。※
『ジョーズ・バケーション』
【総評:☆2.6】
ストーリー:☆3
演出:☆2.5
リピート:☆2.3
なんか……B級ならB級で全体的にもうちょい色々出来ただろというサメ映画(サメは殆ど出てこない)。
そもそもがB級の三種の神器のひとつであるサメ。それゆえに全然サメの出てこないサメ映画というのも珍しくなく、もちろんそれが低予算に由来するものであり、出来もマジで懲役2時間みたいになってるやべえ作品も数多く存在するわけだが、しかし奇跡的に「サメ全然出てこないけど結構面白いサメ映画」というのもまれに存在する。
本作も途中まではかなり良かった。サメ全然出てこないし全然『ジョーズバケーション』ちゃうやんけ!!という感じだが、むしろおもっていたより正統派な海洋スリラーに仕上がる雰囲気を醸し出していて、結構良かった。なるほどこれはテキトーな邦題がつけられてしまっただけで普通の海洋パニックものなのね……地味だけど硬派でなかなか良いのでは……?と思っていた矢先、マジでラスト10分くらいで急に"ジョーズバケーション"になる。なんでだよ。
申し訳程度の雑なB級ジャンルサメ要素が雑にトッピングされて、申し訳程度の雑な「女主人公の強気な反逆」が提示されて、なんか主人公が「かかってこいよビッチ!」みたいなことを叫んで船のスクリューでサメの顔面をずたぼろにしたりする。確かにサメ映画によくあるアレだが、そんな雑に急にサメ映画感を出されても……というのが率直な感想。最初の海洋スリラー方向で最後までいってほしかったよ。
ちなみに、終盤までずっとサメが資料映像だったので「そういうタイプのサメ映画ね」と思っていたが、ラストは自作CGを出してきたのでそれは偉いなと思った。努力は褒めたい。
今年の未体験ゾーンの締めがコレで正直なところ消化不良感は否めないが、全体的に今年の未体験ゾーンは平均的に「ん……」という感じだった気がする。秋に開催されたシッチェス映画祭の出来が結構良すぎたというのもあるが、昨年やおととしに比べて、今年の未体験ゾーンは消化不良。あくまで個人の感覚だけど、来年に期待したいな。
『テリファー』
【総評:☆4.17】
ストーリー:☆3.5
演出:☆4
リピート:☆5
みんな大好きテリファー!!ついに日本でスクリーンで観られるゾ!!
配信でしか機会のなかったテリファー。2の日本公開に合わせて前作もこうしてスクリーンで上映されたわけですが、TOHOシネマズで上映って。正気じゃないだろ。東宝の担当者の気が狂ったとしか思えん。全米が吐いた!!じゃないよ。ジョーカーとかイットとかと勘違いしてないか?大丈夫か?うっかり何も知らずに見に来ちゃう人いるでしょ。まあ何の予備知識も持たないまま突然のテリファーとの遭遇というのは私はかなり羨ましい体験ですが、いやでもTOHOって。「テリファー2日本公開まだ????」とずっとぼやいていた身ではあるが、かなり運が良くてTCG系列……まあ妥当に行けばシネヌーヴォは第七藝術劇場かな……と思っていたのにTOHOって。うそでしょ。
テリファー自体の感想は今更であるので書きませんがとにかくテリファーが劇場で観られて嬉しい。いまこの空間にいる人ってみんなテリファーが好きなんだ……と思うとワクワクしたね。
さて、新たなホラーアイコン、アートザクラウンくん。
マッジで一切一言も話さずにキルにいそしむ姿はジェイソンやブギーマンのストイックさを連想させるが、彼らが硬派な殺人鬼であるのに対してアートザクラウンは殺人に「楽しさ」を求めていて「美学」を重視していない感じがいい。心底自分の殺人を「芸術」などと言わなさそうなところがいい。自分がいかにファニーで愉快に殺人をするかが大事なので、そのために望む殺人方法はあるが、面倒事やダルイ展開になりそうならあっさり銃で撃ち殺そうとする合理性が魅力的。絶妙に話が通じそうで通じない感じがマジできしょくてたまらん。
反撃されたときにちゃんと痛がるところもいい。アートザクラウン、最高!
ちなみに、「テリファー上映終了後に食人族のTシャツを着ている人と鉢合わせた」という話を食人族の開場前に話していたら、その横をエックスのTシャツ着た人が通り過ぎていって、非常に“層”を実感しました。
『EO イーオー』
【総評:☆4.03】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4.3
リピート:☆4
め~~ちゃくちゃ「カンヌが好きそう」な映画。
初見で「うわっカンヌっぽい!!」と思う感じの映画。伝わるかな。たぶん伝わるな。
ロバが可哀想だけどそもそもそういう映画だから仕方ない。ロバアラートは88分ずっと鳴りっぱなし。私自身、犬をはじめとした動物が可哀想な目に遭う展開は心がぐったりするものの、それが必要な描写であるならば事前に知らされずにちゃんと観てちゃんとへこみたいと思うタチ。しかし本作についてはそもそもが「ロバが可哀想」な映画なので、アラートもクソもなく、これはネタバレでも何でも無い。みんなで心をぐったりさせような。
あるロバの視点を通して人間世界を描き出しているが、良い意味で人間たちの名前やバックグラウンドが示されず、無秩序に無作為に流転していく人間世界の滑稽さが浮き彫りになっている。ロバが可哀想で心がぐったりするとは言ったが、人間にもロバにも必要以上の人格が与えられず、必要以上の擬人化がない。ただ哀れなものは哀れで、滑稽なものは滑稽で、そこに在るものは在るだけ。妙な色気を出さずに描かれた映画という風体で、それがこのざらついた質感をもたらし、すべての愚かさを説教くさくなく描き、なんかちょうどいい温度感になっている。
(以下ネタバレ??)
(義理ではあるが)突然の近親相姦要素が出てきて嬉しい!!皿を割る強い女が見られて嬉しい!!突然の近親相姦、嬉しい!!!!!!
オタクは近親相姦が好き。そうだろ。
『食人族 4Kリマスター無修正完全版』
【総評:☆3.77】
ストーリー:☆3.5
演出:☆3.8
リピート:☆4
食人族を劇場で観るという実績解除のために観た。
遠いむか~しになんかで観たような記憶があるが、『グリーンインフェルノ』に上書きされたのか、改めて観てみると「こんな映画だっけ!?」になった。カニバリズム要素は記憶より薄く、それよりもレイプや亀の解体がキツかった。レイプおよび陵辱的なシーンについては全体的にまんべんなく描写されており、人を食らうというよりもすべての人間のタブー(といえばなんとなく聞こえが良いが、要するに汚くて醜くて最悪なもの)を詰め込んだような映画。
ファウンドフッテージ映画としても名高いが、ファウンドフッテージやフェイクドキュメンタリーとは(厳密に定義するならば)違う。『クローバーフィールド』くらいの「なんちゃってファウンドフッテージ」として観るのが良いだろうと思う。
非常に人種差別的であるとしてこういう「食人族」的な映画は今はタブー視されなかなか撮ることが難しいが(グリーンインフェルノもかなりバッシングされたので)、それゆえある意味貴重な映画として今後もカルト的人気を誇るんだろうな。
私自身もこういう露悪的で悪趣味で見世物的な映画はかなり好んではいるが、それと同時に、いまこの現代で白人監督が食人や猟奇風習を持つアマゾンの未開部族のフィクション映画を撮るとなったら、眉をひそめるだろうし「それはなんかグロくね?」と思うだろう。なので自分の悪趣味さを理解すつつ、かつてのカルト名作を何度も繰り返し噛みしめて観ようと思う。
『フリークスアウト』
【総評:☆4.5】
ストーリー:☆4.3
演出:☆4.5
リピート:☆4.8
超人サーカス団vsナチス!異能力バトル!!なんやこれおもしろ!!!!
観終わった瞬間に「今月ベスト!!!!」と叫び出しました。観てください。観ようね。
ランタイム140分と結構覚悟のいる長さではあるが(インド映画とノーラン以外は120分を超えないで欲しい)、本当に中だるみが一切無くあっという間で飽きない。そういうと『トップガンマーヴェリック』や『RRR』のようだが、それらに比べると派手なシーンがずっと続くというわけでもないのに、凄い。
「超人サーカス団vsナチス」というあまりにB級ジャンル映画臭のするあらすじで、なぜかちゃんとB級にならず仕上がっていて、しかしこのあらすじに相応しい遊び心もきちんと残してある。やはり映画の根幹にあるのは「娯楽映画」なので、(予算面は重要でありながらもなかなか難しい問題ではあるが)脚本やカメラワーク、そして愛と情熱、そういったものをきちんと忘れずに真摯に製作をすれば、ジャンル映画らしいものほど立派な娯楽商業映画として世界中に愛されるに足る存在になる。そういったことを最近よく実感するので、この映画を観られて本当に嬉しい。
真摯なジャンル映画製作という点でさらに特筆したいのが、本作ではキャラクター造形もキャッチーで、140分観ると全員にとっても愛着が湧く(主人公たちだけではなく敵も含めて全て)。安易な言葉だが、本当に「オタクが好きなやつ」すぎる。
ジャンル映画的な純エンタメとしての愉悦と同時に、戦争映画的な無残さが共存していて、これもまた力量が呈されていたところであると思う。暴力描写がきちんと暴力的。人体破壊はちゃんと容赦ない。冒頭の「牧歌的でファンタジーな愛らしいサーカス描写」からの突然の空爆の残酷さ、ここで観客は一気に世界観に引き込まれる。観ていると、ナチスゾンビの出てくる『オーヴァーロード』(J・J・エイブラムス製作)を想起したのだが、それは両作品ともにジャンル映画的な純エンタメとしての愉悦と同時に、戦争映画的な無残さが共存している点が顕著だからだと思う。本作のほうがもっとファミリームービー的ではあるけれど。
ああ~~~フランツくんかわいいねえ。アルビノのチェンチオくんもおばかかわいいねえ。いとしいねえ。毎週放映してくれないかな。
『クロムスカル』
【総評:☆3.53】
ストーリー:☆3.3
演出:☆3.5
リピート:☆3.8
「クロムスカルを劇場で観る」という実績解除のために観た。
エクストリーム配給という時点でどんな感じの雰囲気でどの程度のクオリティなのかは想像がついてしまうものの、焦らされ焦らされの末に日本初上陸ということで巷でのハードルが上がりすぎてしまっていた印象。正直なところ、やはり最近エクストリーム配給で4K版が公開された『食人族』や『セルビアン・フィルム』といった面々に比べればカルト的に神格化されるほどのものではなく、まあこのくらいかあという感想だった。
全体的に安上がりな質感なので最初は「B級の質感だ~」と思っていたが、予想以上にストーリーにも力を入れる意思が見えてB級スプラッター映画としてはふつうに面白かったので、途中からはあまり気にならなくなった。カルト的人気を誇る作品にはなりえないだろうがそういった事前の上がりすぎたハードルを取っ払えば普通に楽しめる一作。悪くないよ、マジで。なんてったって、血は薄くていまいちだが人体破壊は良い!良い!!
肩の上にわざわざカメラを乗っけて撮る殺人鬼・クロムスカルさん。もちろんテープ容量がなくなったりバッテリーが切れたりする。携帯電話もあるにはあるが、みなそこまで持ち合わせておらず性能も低く、インターネットもあるが接続に時間がかかるしそこまで役に立たない。絶妙に「ちょっと昔のロー・ハイテク感」が2023年現在は逆に新鮮さを感じる。ネットもケータイもない昔のゴア映画やスリラーはよくリバイバル上映されるが、この絶妙な古さがむしろ新しくて面白くも感じた。平成ゼロ年代~平成10年代の「リアルにちょっと古い」時代の映画をリバイバル上映しまくってほしい。
ところでこの殺人鬼、そこそこ反撃されるしそこまで強くないのに熊みたいな執念深さがある。人間味が強いな。
残念ながらクロムスカルさんはホラーアイコンとはならないと思うので、近年彗星のごとく現れたアートザクラウンやミーガンの一目で分かるスター性の強さには驚きますね。スカウトキャラバンなら優勝しちゃうな。
『MEMORY メモリー』
【総評:☆4.03】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4
リピート:☆4.3
思ってたんとはちがう殺し屋映画。だけど「思ってたんとはちがう」が良い方向に働く!
ベテラン凄腕仕事人の殺し屋じいちゃんの唯一のモットーは「子供は殺さないこと」。
そうあらすじを聞いたらどんな映画を想像するだろうか。派手なシーンがたくさんあるイケてる殺し屋映画を想像するかな。「老体になれどバーサーカー!」「舐めてたジジイは強かった!」
――そんな映画を見慣れすぎている私に、私たちにとって、そのフィクション性の強いカタルシスは甘いばかりの添加物に満ちた高揚であると思わせてくるような映画に本作は仕上がっている。フィクションのなかのノンフィクション性にうっかり刺されそうになる。
アルツハイマーになり老いた殺し屋の悲哀が、アメリカ・メキシコをとりまく社会問題と相まって、うっかり落ち込んでいるときに見たらその疲弊に耐えきれなくなりそうな映画。近頃だと『ハロウィンTHEEND』を観たあととおおよそ同じような表情になる。
もの凄く完成度の堅い映画かと言われたら、粗は指摘できてしまうのだが、しかし与えてくる感情が非常にひりひりと居心地悪く(それが映画としては心地よくもあるのだが)、誰も勝ち誇らないエンドロールにどんよりとして気持ちになる。
作中で提示される「正義は保障されない」という言葉に象徴されるように、殺し屋も、警察も、世界も、怒りを燃やしながらも疲れ始めてしまっている。本作に限らずこういう「一抹の希望を見いだすわけでも闇に落ちるわけでもなく緩やかな絶望を甘く受け入れる」ような映画が近頃目立つけど、そんな映画が要請されるのが現代なのなら、現代に希望はあるんだろうか?90年代以降、人々は「物語」を失った。そこにつけこんだのはかつては(カルト)宗教で、やがてスピリチュアルや啓蒙になり、いまは陰謀論になっている。「物語」を求める人は世間からは見下されるが、しかしそれだけ正義や正当性ひいては幸福を求めているのであり、強大な物語を求めることなく緩やかな絶望を受け入れる市民たちがマジョリティになった結果がこういう映画が増えたことにつながるのか?
なんてことをぼんやり考えてしまうね
陰謀論を笑う私たちの疲れている現実(2023/5/20の日記)|BUN太 (note.com)
『ソフト/クワイエット』
【総評:☆4.13】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4.3
リピート:☆4.3
「ブラムハウスが作った、ブラムハウスを好きな人が好きそうな映画」です。褒めてます。貶してないし馬鹿にしてません。なぜなら私も「ブラムハウスを好きな人」だからです。
全編ワンショットで手ブレが続くため酔う人は酔いそう。私は幸いにして白石晃士に鍛えられていたので事なきを得ましたが、結構な数の人が手ぶれ酔いしてしまうと思うのでそれは要注意。ただそのPOV手ブレのおかげで、より現実味を持って、よりフィクション性が薄く、目の前でアジア人差別が行われているような嫌悪感が伝わり、事態が滅茶苦茶になっていく生々しさがある。
私は、普通の映画ならカットされてしまうような徐々に事態がおかしくなっていく過程のとりとめなさや、殺人におけるグダグダが好きなので、そういうのがず~っと観られて嬉しい。
今回は人種差別に端を発したけれど、人種差別に限らず現実のあらゆる重大犯罪の殆どはこうして少しずつ選択をミスって取り返しのつかない事態になってしまうのだろうなと実感させられる。
現代日本でも少し前に高校生が闇バイトで銀座強盗をした件が取りざたされたように、ちょっとした選択ミスで取り返しのつかないことになるヤバイことが世間には満ちていて、そして銀座強盗に対して丸山ゴンザレスが「(現代日本の)治安の底が抜けつつある」と表していたのも印象的で、本作は紛れもなく人種差別をテーマに作られているけれどそういった「些細なことが重大犯罪にいたる生々しいグダグダ道程」を観られるという意味でもこの映画は興味深く面白い。面白いんだよね、残酷なことに。
へたな殺人鬼が出てくるスリラーよりよほどスリラーしていて、ホラーしている。
アジア人である私たちは特にこの映画を嫌悪的に観るだろうけれど、「白人」を他の主語に変えたとき(男、異性愛者、中流家庭、健常者etc)、果たして同じ道をたどらないと断言できるか?と、そう問われている気もした。
良くない映画で、良い映画。
『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』
【総評:☆5】
ストーリー:☆5
演出:☆5
リピート:☆5
ガバガバ評価ですみません。実際にストーリーは全然☆5ではないんですけど、ワイスピを観ると無条件に嬉しくなってしまう体なので……。
こんな後付け設定の極致のような映画シリーズは果たして他にあるのか。そしてなぜそれがこんなにも赦されているか。なぜって?ワイスピだからです。「実はこのキャラにこんな身内がいました~」で永遠に物語を展開させられる、後付けご都合主義を一切恐れないオレたちのワイスピ。
おつまみ感覚で添えられるジェイソンステイサムに、本当に驚くほど添え物でしかないドウェインジョンソン。こんなことが赦されていいのか。いいんです。なぜって?ワイスピだからです。
こんだけ長くて前後編の前編ってアホか!と思っていた矢先に「最終章はやっぱ三部作にしま~す」という監督インタビューが流れてきて、もうこの全てをその場の勢いで決めているような感じがまさにワイスピシリーズ。本当に冷静に考えたらアホかでしかないんですけど……ワイスピだから全てゆるしちゃうんだよな……
ワイスピは「鑑賞」ではなく「体験」。
ジェイソン・モモアはシリーズの敵役の中でいちばん好きなんだけど、めちゃくちゃギャル。かわいい。すべての倫理観を失ったフワちゃんみたい。
イカれサイコが死体を生きている人間に見立てて勝手に腹話術したり人形ごっこしたりするのが好きなので嬉しかったですね。ジェイソン・モモア、人間のありとあらゆる倫理観を失ったギャルで可愛い。
『最後まで行く』
【総評:☆4.1】
ストーリー:☆3.8
演出:☆4.5
リピート:☆4
最後まで行かんのか~~~い!!!
端的に結論を述べると、完全に別物として切り離せたら楽しめる。
最後まで行かないし、『最後まで行く』である必要性は感じない。ただキリスト教的埋葬などそもそも設定から変えないとリメイクは難しかったと思うので、リメイク時に無理のある箇所だけ小手先で変えるよりもこれくらいすべての下敷きから大胆に変えたほうが結果的には良かったと思う。英断である。それほどまでに大胆に変えても「別物として切り離せたら楽しめる」のは、ひとえに藤井監督の映画的技量にゆえんするものだとは思う。
上記のように、原作には満ちていた韓国バイオレンスノワール臭はかなり薄れていて、暴力描写はあるものの「暴力」でしかなく、アクションシーンに限って言えば韓国バイオレンスに特徴的な洗練された泥臭さや映像的美しさはなかったので単調に感じるというのは正直な感想。ただ寺院や墓場の描写はよく、この感じで暴力にもギミックをきかせてほしかった。しかしそれならば最初から韓国映画を観れば良い話でもある。
公開されるまで「フィジカル的に綾野剛と岡田准一の配役は逆だろ!」とかなり思っていたが、この脚本ならばこの配役で正解だし、綾野剛のキショ演技(褒めている)が輝いていてかなりよかった。
本当に、別物として単純に面白い。面白いのは事実。マジで、面白いのは事実。
脚本を変えた件について、ラストが納得いかないのは強く思っている。大胆に変えたのは基本的に良い方向に働いていたけども、妻を出して家族愛の方向性を見せる必要性はあまり感じなかった。妻や娘の描写が薄く、立体感が無いと率直に思った。
が、藤井監督の作品で『ヤクザと家族』でも女性キャラクターの描写で同じように思ったので(男女の愛を絡ませると脚本が急に短絡的になるというか、言葉足らずになる印象がある)、恐らく藤井監督はそもそも男と男の話を描くのは好きだけど女との愛だ恋だというのは「要素」以上の認識がなく、ぶっちゃけあまり本質的には興味ないんだろうなと本作を観て確信した。確信って言い方は変だけど。勘違いしてほしくないが、藤井監督にミソジニー的な体質があると言っているのではなく、マジで単純に興味ないんだと思う。監督にもそれぞれ得手不得手があるので、女女最高映画が上手い監督には女女最高映画を撮ってもらって、藤井監督には男男最高映画を撮ってほしい。ただそれだけ。
『65 シックスティ・ファイブ』
【総評:☆3】
ストーリー:☆3
演出:☆3.5
リピート:☆2.5
え~~~~……悪口が止まらなくなるので控えさせていただきます…
おもろいじゃん!と思った要素はサムライミ製作ゆえの要素で、良いじゃん!と思った要素はアダムドライバー主演ゆえの要素でした。脚本の名前を見た時点で、あんな苦い記憶(クワイエット……)やこんな嫌な記憶(ホーンテッ……)が蘇ってくるわけで、悪口を言い出したら止まらなくなってしまいますので、ここで終わります。え~~……次回作は書かないでください……後生なので……なんかブギーマンで名前見たんすけど……
まあでも彼らの良くないところはただ「薄くて整合性がなくてつまらん」だけで、余計な味付けトッピングして食えない料理を出してくるわけではないので、めちゃくちゃ強い原作とめちゃくちゃ強い製作がいれば大丈夫だろうなとも思ってます。これは悪口ではなく、願いです。
でもなんだかんだ脚本に彼らの名前を見たら恐い物見たさで鑑賞しちゃうん
ですよね。観ずに悪口は言えないし。
ちなみに脚本家との確執を抜きにしても映画としては普通。特別つまらなくもないし特別面白くもない。ストーリーは特になくてサムライミ製作の世界でアダムドライバーが演技をしているのでそれなりに観られるが、凄く薄いし観ても得られるものは特にない。個人的には「おいおいおい!!」って言える分、そして方向がおかしくなっただけで熱意を感じる分、C級サメ映画のほうが愛せる。本作、金はめちゃくちゃかかってるんだけどね。こんな申し訳程度の扱いで愛を感じない恐竜を観てると悲しくなっちゃって、スピルバーグがいかに凄い監督だったのかを実感しました。
ジュラシックパーク、おもしれ~~~~~!!!!!!
なんだかんだジュラシックワールドもきらいじゃない。
『波紋』
【総評:☆4.37】
ストーリー:☆4.3
演出:☆4.3
リピート:☆4.5
おもれ!!!!「全員実力派」の看板に偽りなし。
脇役に江口のりことか平岩紙とかムロツヨシとか「マジ」でしかない。本当に最近観るおもろ邦画に全部柄本明出てる気がする。
何かが起きるかと言われたら結局何も起きない。更年期にさしかかる女性のまあまあある人生を、印象的なワード(宗教や消えた夫など)を使って描いているだけで、だからこそ笑えないし、だからこそこれだけ面白く作れているのが素晴らしい。
「絶望を笑え」というコピーはぶっちゃけちょっとださいと思うが、水(波紋)を象徴的に――それでいて大仰ではなくうまく扱いながら、実力派俳優陣の生っぽい演技とともに全てを現実生活の中に落としこんでいる。よく「邦画はどうたら」と揶揄されるが、本作は邦画だからこそこんなにも良いのだと思う。カタルシスもないが全てをくさすわけでも無いエンディング。よい~
ではまた来月。6月半ばも過ぎたって、マジですか?
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