かくひと
そのひとは、すらりと長身でスリムで、すこしかなしげに見える大きな眸の持ち主だった。
リタイア前にカルチャーにでも行って文章を書こうなんて志すひとには、才能だとか環境だとかとは違う次元で、きっと何かしら秘められた不幸があるのだとあたしは思っている。
そのひとの眸の奥にもそんな時間が閉じ込められているように思った。
混沌としている自分の思いを紡いで、糸巻きに巻きつけるようにして言葉に変えていく。
通り過ぎた時間のなかに、自分自身を解く鍵がある。文章を書くことを学びながら、自分の輪郭をくっきりとさせていく。
そのひとが読書を重ね、こつこつと精進していく過程の文章を目にしながら、わたしはそんなことを感じていた。
眸の奥で揺れていた思いの切れ端が、そんなふうに形になってみると、それはなんとも切なく読み手に響いてくるのだった。
しかし、オジギソウのように感じやすいこころのなかには、椿の葉のような分厚い箇所もあった。
そこから生まれた不用意な言葉は、なにげなく見えてもひとのこころを深く引っ掻いた。
それがまた新たな亀裂を生むこともあった。
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思い出すそのひとの像がだんだん曖昧になっているのは、自分が、どこかで、忘れたがってるからかもしれない。
読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️