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サキとタキ〜ざつぼくりん番外

きょうは朝から強い風がふいています。庭の木がふかくおじぎするみたいにゆれると、落ち葉がはらはらと舞い降ります。
双子の姉妹のサキちゃんとタキちゃんはお部屋のなかから十一月の空を見上げています。そして、顔を見合わせてにっこりします。
「風が吹いてるわ、タキちゃん。ふふふふふ」
「ええ、すごく風が吹いてるわ、サキちゃん。ふふふふふ」
「窓をほそーくあけておくと、風の心の声がきこえるのよ。笑ったり怒ったりしてるのよ」
わらいながらふたりは真面目な顔でおばあちゃまが言った言葉を思い出して、ふたりは庭に面した部屋の出窓をちょっとだけ開けました。
「ぴゆううううう。ぴゆううううう」
今日はやたらと元気な風の声です。その声はこっちへおいでよ、とさそっているように聞こえます。早く早くと急かすようです。
「ねえ、タキちゃん、メアリーポピンズごっこをしましょうよ」
「そうね、サキちゃん、今日の風はメアリーポピンズごっこにお似合いね」
 玄関までやってきたふたりはまた顔をみあわせます。
「どれにする? サキちゃん」
「わたし、パパのにするわ、タキちゃん」
「あ、わたしも。大きなチェックのにする」
「じゃ、わたしはふかみどりのにする」
 ふたりはパパのかさをかさたてから引っぱり出してから、外に出ようしましたが、玄関のドアが風に吹かれてなかなかあきません。それほど強い風なのです。
なのにふたりは、わくわくしています。なた笑顔になって、力をあわせてドアをあけて外に出ました。
ふたりの家は坂の途中にあって、お隣の家との境に石垣があります。その石垣のてっぺんは坂の下に向って、飛行機雲のようにまっすぐに伸びています。地面のほうが下がっているのでだんだん石垣は高くなっていきます。
坂の上のほうでふたりは石垣のてっぺんに乗ります。そこは足の幅ぎりぎりくらいしかなくて、ちょっとせまいので、そろりそろりとかにのように横歩きして進みます。
ふたりはかさを横にして胸のあたりでだいているのでたいへんです。ぎゅっと足に力を入れて歩きます。
「サキちゃん、気をつけてね」
 うしろにいるタキちゃんが声をかけます。
「タキちゃんこそ、落っこちないでね」
 まっすぐ前を向いたサキちゃんが答えます。
「このへんかしら」
「このへんね」
「じゃ、いちにのさんでいくわよ」
 サキちゃんはパパのチェックのかさをひらきます。タキちゃんもふかみどりのかさをひらきます。
「いちー、にー、のー、さん!」
 ふたりはかさをさしたまま石垣から飛び降りました。
パパの大きなかさに強い風がふきつけます。かさはしたからふきつけてくる風にちょっとだけふわっとうきます。
ういたかとおもうとひゅー、すとんと地面に落ちてしまいます。
「ねえ、タキちゃん、とんだ?」
「うん、とんだよ、サキちゃん」
「わたしもとんだよ」
「もう一回やる?」
「もちろん」
ふたりはまた石垣の低いところへかけていきます。
これはビデオでみた映画のなかでメアリーポピンズがかさをさしてとんでいたののまねっこです。ほんとはあんなふうにふわふわ遠くまでとんでいきたい、とふたりはおもっていますが、なかなかうまくいきません。
 でもふわっというかんじはとてもすてきです。からだがかるくなったみたいです。
「そら、とべたらいいね、タキちゃん」
「うん、いいね。サキちゃん」
「とべたらどこへいきたい?」
「ママが入院してる病院へ行きたい」
「わたしだって行きたい。すっごくとおくったって平気だもん」
「パパもとべたらいいねー」
「うん、いっしょにとべたらいいねー」
「ママ、よろこぶね」
「ママ、すっごくよろこぶね」
 ふたりは石垣をのぼります。胸にかさをかかえてそろりそろりと横歩きします。
「ねえ、いくよ」
「うん、いこう」
「病院までいってください」
「ママの病室までいってください」
「せーのー、いち、にー、のー、さん!」
「ふふふふふ」
「ふふふふふ」

読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️