先生たち 3 アダチ先生

申し訳なく思い出す先生もいる。

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なんて物悲しい先生だったのだろう。中学二年のときに赴任してきた理科担当の先生だった。

前任の先生が陽気で砕けた感じの人気のあるひとだったので、中年のはげ頭で眼鏡で猫背でいつもうつむいてつんのめったように歩くアダチ先生は最初から分が悪かった。

家ではかかあ天下で娘がふたりで女ばっかりの家族にいじめられているらしい、という噂がまことしやかに流布してもいた。

中学二年生たちはアダチ先生をナメテイタ。授業は聞かないし、班ごとに分けられた机でみなが大声で喋りまくった。

それでもアダチ先生は黙って板書していた。板書し終わってから悲しげな顔でキレタ。

注意する口調から嘆願する口調になり愚痴になり、涙声になってヒステリックに爆発した。そんなありさまもまた、中学二年生たちには情けなく映った。

梅雨のころだった。放課後テニス部の筋トレメニューを校舎の二階の廊下でこなしていた。そのすぐ下は職員室だった。

ふっとみると、別棟にある理科室からアダチ先生が雨の中をこちらに向かって走ってきていた。

ところどころ黄ばんだ白衣を着たアダチ先生は大きく腕を振って小学生の徒競走のようにしゃにむに走っていた。それはなにかスポーツをした人の走りかたではなかった。

それを見ていてなんだか泣きそうになってしまった。

「どないしたん?」と仲間に聞かれてもうまく答えられなかったのだけれど、そんなところで小学生のように走るアダチ先生がむしょうに悲しかった。

3年生になると、担任がアダチ先生だった。高校受験がひかえていた。クジで外れたような気分がクラスにあった。

理科だけでなくホームルームもアダチ先生だった。伝達事項などがあり、みんなここでは立騒ぐわけにはいかなかった。

穏やかな語り口に耳をすませば、その言葉には説得力があるんだ、と知る。ひたむきさは時間をかけて伝わって来た。

卒業式の日、クラスで相談して送ったネクタイを手にしたアダチ先生のちょっと困ったような顔を思い出す。言葉なく頭を下げた。泣きそうに見えた。


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