お言葉セレクション
なにげなくテレビを見ていると、時々、だれが口にした言葉が耳をつかむ。たいがいは忘れてしまうのだが、妙にこころに残るものもある。
「減速の美学」
ドイツ日本研究所のおばさんが日本語で言った。
ゆっくりいこうってことなんだろうけど、美学といわれると、ちょっと居住まいを正すような気分になる。
「末端が大事」
五木寛之氏があまり風呂に入らないのは、遠藤周作氏にうなぎの体表のぬるぬるを洗い落とすと死んでしまうと聞いたからだそうだ。
そのくせ五木さんは足の指を日に4度も洗うという。末端、辺境、端っこを大事にする。中央より地方が大事。それがたいせつなものを守ることになる、と。
五木氏は低気圧に弱くて偏頭痛を起こす。だから気象図のヘクトパスカルのチェックは欠かせない。それは身体の弱い人間の一種のサバイバルなのだ。その身体感覚は
「身体に訊け」
ということかもしれない。
桃井かおりさんもそういっていた。神経質だった彼女がアフリカに旅して、ハエなんか平気になってしまったのだという。野生や直感が身を守る。
そうして桃井さんはあの口調で言った。
「着物って最初はうまく着れなくても、毎日着ているうちに、着慣れてきて、着こなして、粋に着崩すでしょう?
ひともさ、毎日生きてるうちに、生き慣れて、生きこなしていって、そして長生きして今度は「生き崩す」んだと思うのよ。長生きってこじゃれていると思うのよ」
「生き崩す」
思わず身体を乗り出した言葉だった。
小池昌代さんの言葉も好きだ
「人間は自分をどれくらい開けるかで度量が決まる。閉じるな。開け、こんな馬鹿ですって開いちゃうんだよ。そうすりゃ、知らないうちに、ひとがよってくる。馬鹿っていうのは、最大の魅力なんだから・・・・馬鹿にもいろいろあるんだよ」
度量!
そしてきわめつけだとおもう赤瀬川原平さんの味わい深いお言葉。
「人生というのは使い古した言葉だから、新品願望の強い若い頭は素通りしていく。言葉の中古品を使えるようになるには、自分も中古品になってからだと思う。
結婚や離婚、家族を養う、失職、葬式、トイレの掃除、その他ごちゃごちゃの挫折とか、屈辱とか、そういう雑事の体積時間があって人生という言葉のおぼろげなシルエットが見えてくる」
長く生きなきゃ人生は語れない。スマートで賢く勝ち続けてたらわからんステージもある。
そしてあたしはつぶやく。
どのみち人生は凸凹さ。
読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️