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カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第12回 「スターフライヤーに、してやられた!」

 ブックカバーのことを、古い言葉で「書皮しょひ」と言う。書籍を包むから「書」に「皮」で「書皮」。普通はすぐに捨てられてしまう書皮だが、世の中にはそれを蒐集しゅうしゅうする人たちがいる。
 連載「本を包む」では、古本愛好者のカラサキ・アユミさんに書皮コレクションを紹介してもらいつつ、エッセーを添えてもらう。



〝スターフライヤー〟と聞いてピンとくる人は果たしてどれぐらいいるのだろうか。

 数年前、上京した際にこのブックカバーを見て私は心躍った。

 買い物をした三省堂書店のレジで、手渡された本にこれが巻かれていたのを目にした瞬間「お!?」と二度見したのだった。

 スターフライヤーは私の地元・北九州を拠点とする航空会社で、空の移動となると必ず利用している大変馴染み深い存在である。

 ここの飛行機はスタイリッシュな黒い機体で、機内の設備も黒で統一されているのが特徴的だ。

 そして他の航空会社に比べると実に個性的で抜群に見応えがあるセイフティビデオは、個人的にお気に入りでもある(「空の守護神」や「STARFRYERの化身」と称される「STARFRYER MAN」が機内の安全について説明しているのだ……)。

 ちなみに、私が最も好きなスターフライヤーのセイフティビデオは以前のバージョンで、客室乗務員をジャズバンドのMC、乗客を観客に見立てるというユーモアに溢れた動画だ。


 そんな地元の会社が、大都会・東京のしかもこの大きく立派な書店のブックカバーに堂々と登場していた。仲間が出世したような、そんな嬉しさが思わず込み上げてきて店員さんに無理を言って追加で2枚もらったのだった。



 それにしても、このブックカバーに綴られた〝スターフライヤーのハチ公物語〟(新聞広告に掲載された内容を転載した文章)がとても良い。主人を待つハチ公の姿を想像して思わず瞳がうるんでしまった。

 第35回読売広告大賞(2018年度)の運輸・レジャー部門において最優秀賞と読者賞を受賞しているのも頷ける。

 ちっぽけな存在だったハチ公は主人に対するひたむきな姿勢によって今では世界中の人々から愛される渋谷駅の顔となった。広告文では、そんなハチ公の経緯にスターフライヤーの〝次の10年〟が重ねられ、会社としての決意が述べられている。

 本を愛する者として、ブックカバーというアナログの広告媒体でこのような粋なパフォーマンスをしてくれたスターフライヤーに益々好感が湧いた。

 2021年6月、スターフライヤーは2023年1月に機内Wi-Fiを導入することを発表した。つまり、少なくとも昨年までは高度約1万メートルを時速約800キロで移動している最中、機内では携帯などでネットが使えなかったのだ(実際に導入されたかどうかはまだ確認していない)。

 Wi-Fiがなくともモニターでビデオプログラムなどを楽しむことはできるが、私はかねて本を集中して読むには飛行機こそが最適なシチュエーションだと思っていた。そんな私にとって、このブックカバーは見事に〝ハマる〟1枚だったのだ。スターフライヤーに、してやられた!


文・イラスト・写真/カラサキ・アユミ
1988年、福岡県北九州市生まれ。幼少期から古本愛好者としての人生を歩み始める。奈良大学文学部文化財学科を卒業後、ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」の販売員として働く。その後、愛する古本を題材にした執筆活動を始める。
海と山に囲まれた古い一軒家に暮らし、家の中は古本だらけ。古本に関心のない夫の冷ややかな視線を日々感じながらも……古本はひたすら増えていくばかり。ゆくゆくは古本専用の別邸を構えることを夢想する。現在は子育ての隙間時間で古本を漁っている。著書に古本愛溢れ出る4コマ漫画とエッセイを収録した『古本乙女の日々是口実』(皓星社)がある。


筆者近影


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