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Sasieni / Eight DOT / PAT. No1513428 / WARWICK


レストア前

SasieniのEightDotです。

EightDotは、EightDotって商品名ではなく、ステムの両サイドに4つのドットが打たれた、ダブルFourDotの呼称です。
実際には、EightDotどころかFourDotの刻印すらありません。

Sasieniは、ダンヒルで働いていたサシエニさんが立ち上げたメーカーなこともあってか、最初はダンヒルと同じく一つのドットをステムにつけていました。
当然ダンヒルに訴えられて、代わりに4つのドットを打つことに。
が、これがアメリカで大流行り。
で、輸入業者に、「喫煙者の両側の人に4つのドットが見えるようにしたい」と言われて、しぶしぶ両サイドにつけたそう。
手間だから本当はやりたくなかったっぽい。
これがEightDotと呼ばれるようになりました。

なので、品質的にはFourDot。
ただ、初代サシエニさんが作ったことと、制作時期が割と絞り込める事で人気があります。
というか、激レアです。
後年、8dot (アラビア数字)というシリーズも売り出されましたが、何でもかんでも4Dot(アラビア数字)で売り出してブランドイメージ失墜した後のシリーズで、まったく別物なので注意。

EightDotは初代サシエニさんの時代、1920年代後半から30年代初頭にデビューしました。
が、大戦が始まって材料的な問題があったのと、やっぱり手間かかるので、戦時中に製造が中止。
(製造期間は1927年~1939年との説あり)

ついに戦前ものです。
100年近く前て。
手持ちの中で一番古い。

Sasieniロゴは、1945年まで使用されてた、フィッシュテールロゴと呼ばれる初期ロゴ。
筆記体で、Sasieniの最後の「i」が伸びて、魚みたいな形の飾り罫になってる。
Sが消えかけてるけど。

PAT.No1513428は、インナーチューブの特許番号。
1924年7月に出願して10月に公開。
1946年に2代目サシエニさんが会社を引き継いだあと、この特許番号は廃止され、代わりに「FourDot」が表記がされるようになります。

シャンクの反対側の"WARWICK"はシェイプ名。
サシエニのFourDotは、シェイプナンバーをイギリスの都市名にしてます。
TownName。
WARWICKは、まあ、普通のビリヤード。
1935年のカタログ見ると、一番最初に載ってるし、スタンダードなビリヤードだと思う。
ちょっとだけ大ぶりかな?
なんでこの街の名前にしてるかは謎。

憧れの水色、FourDot。
ドットの大きさとか並び方でも年代わかるみたい。
30年代はもっとドットが小さいぽい。
ドットが拡大されたタイミングは、2代目サシエニさんになったタイミングらしいので、交換用ステムかも。

でも、海外サイトで色々EightDot見ても、この写真と同じ大きさに見えるので、よくわからんです。
同じくちょっと潰れた菱形だし。
まあ、ちゃんとインナーチューブ用のネジ山切られてるので、オリジナルではあると思う。
79年に限定品として一瞬再販したらしいけど、そっちは逆にもっとレアらしいし、菱形の天地が伸びて正方形ぽくなってるので多分違う。
こっちは特許番号ついてるし。

で。
上で書いた通り、EightDotは激レアなので、当然高価です。
が、なんとこの個体……
90ドル!
100ドル切ってる!
割と本気で桁が1つ違う。
実際、人気シェイプのEightDotだと900ドルとか行ってました。
ずっと狙ってるFourDotのラスティックとか、好みのイタリアもの以外、パイプ買うの抑えようと思ってたけど、これは買いますよ。
ebayに比べてマイナーな個人売買アプリで。
ヤフオクに対するラクマぐらいのイメージ。
めったに良いの出てこないけど、ちょいちょい覗いてて良かった。

掲載されてた写真が、片面から撮影された引き絵と、左右刻印まわりの3枚だけで、両サイドにドットが付いているか分からなかったけど、この値段なら騙されても良いかと急いで購入。
ちゃんと反対側にもFourDotあるかドキドキしながら待つ。
送料安めだったからか、NYとフロリダを謎に行ったり来たりして1月近くかかって到着。
………。

ちゃんとEightDotだ〜!
やった〜!

………が。

ステム外してみたら、テノン折れてね….?
まあ、折れ目ピッタリハマる感じで綺麗に折れてるから、まあ…。
多分なんとかなる。

インナーチューブもついてるし、深いティースマークもないし、ボウルもシャンクも割れてない。
テノン以外かなり状態が良いから問題なし。
インナーチューブ刺しとけば、テノン折れててもピッタリハマるから、このまま使ってたんかな?
値段考えたら大当たり。
やったね!


ステムの修理

何はともあれステムの修理。
大きなティースマークもなく、状態は良い。

折れたテノンごと、オキシクリーンにドボン。
他のステムと一緒に。
60度くらいのお湯でオキシクリーン溶かして泡が出なくなるまで放置。
30分くらい。
泡が出なくなったら激落くん的なメラミンスポンジでこすり洗い。
中もストローブラシでゴシゴシ。

その後、ドット部分を木工用ボンドでマスキング。
両サイドとも。

完全に乾いたらエタノールにドボン。
ドット部分はプラスチックらしいので、マスキングしてないとエタノールで溶ける恐れ有りです。
しばらく放っておくとヤニがもわ〜っと出てくるので、ストローブラシとモールで色がつかなくなるまでゴシゴシ。

そしてテノンの修理。
割れ目に黒い接着剤をつけて接着。
ピッタリ。
ストローは多分接着剤がくっつかない素材なので、芯材にして穴が塞がらないように。

接着しても、強度的に不安あるから、インナーチューブはつけたままになっちゃうかなあ...
モール通らないから面倒になって使用頻度下がりそうだなあ...
と思いながら、接着剤乾いてから軽くボウルと合体させてみる。
接着剤のところ少しヤスらないといけないだろうし。
で。

アッーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
おれたー。
先っちょ中に取り残されたし、はじっこさらに欠けたし、この時点でオリジナルの欠片を活かすことを諦める。

折れたテノンに、穴より太いネジをねじ込みます。

ネジが固定されたらペンチでネジを引っ張って無事救出。
や。
無事じゃないけども。
まあ、シャンク無傷なので無事。

んで、テノンに引導を渡してしまったわけですが….
大丈夫。
落ち込むこともあったけど、私は元気です。

こちら、9mmフィルター用のパイプを、フィルターなしで使うための9mm→3mmアダプタ。
こいつをテノンに生まれ変わらせます。

ちなみに、これ、残念ながら国内では売ってないです。
国内だと柘植のアダプタしかないんだけど、それは1/3くらいの長さしかなくて、モール通すとき動いたり、空いたスペースに汚れ溜まっちゃう。
それが嫌で前に海外通販で何個か買っといたもの。

右がオリジナル、左がアダプタ。
穴が狭くてインナーチューブ入らない。
インナーチューブ使わないなら、別にこのままでも良いんだけど、せっかくだから使えるようにしたい。

で、ドリルで穴を広げて、

ヤスリをかけてインナーチューブが入るように調整。

ネジ山作るつもりでインナーチューブをねじ込む。

あんまりアダプタが長いとステム壊れそうなので、長さ測りつつ下の方を少し切っちゃう。
そのかわり、真ん中あたりにハマってる輪ゴムを切っちゃって、溝を露出させておく。
この溝が隠れるくらいステムに埋め込む想定。
で。

このままだとアダプタが太くてシャンクの穴に入らないので、ひたすら紙やすりで全体をヤスリまくる。
ぐるぐる回しながら。
均等に。
シャンクに入るけどキツイな、入れたら取れなくなりそうだな、くらいで一旦ストップ。

アダプタの太さが決まったら、ステムにドリル。
アダプタの太さにあわせて、溝が隠れるくらいの深さまで。
ビビりながら。
慎重に。

手持ちのドリルだとピッタリとはいかなかったので、埋め込む方を少しヤスリ掛けしてピッタリ奥まで入る細さに。
やりすぎないよう慎重に。

はいった。
んで、反対側も、シャンクに合うようにヤスリ掛けして本調整。

はいった。

一度アダプタを抜いて、アダプタの溝と側面に黒い接着剤を塗って押し込む。
ストローは入らなかったので、モールに椿油塗って芯材に。
間違っても穴が塞がらないように。
くっついたら、ステムとアダプタのキワの部分にも接着剤。
乾いたらシャンクにピッタリになるように接着部分を再度ヤスリ掛け。

テノン復活!
インナーチューブも使える!

これ、たぶん柘植でやってるダボ接ぎっていう修理手法。
いつも見てた海外のレストアサイト参考にやってみた。
アダプタをテノンに生まれ変わらせることは、破損パイプを修理した時に経験済みだけど、ステムにドリル入れるのは初。
だいぶビビった。
まあ安かったし、と自分に言い聞かせながらの作業。
うまくいって良かった。

ちなみにその海外サイトでも同じアダプタ使ってやってた。
入手しやすさからか、みんな同じような方法に辿り着くんなだあと思いました。

あとはいつも通り、400〜2000までヤスリ掛け。
接続部分もピッタリになるように、ボウルと合体した状態で、シャンクごとヤスリかけます。

白棒バフとコンパウンドもかけて、

変色防止液塗って、ひとまずおしまい。
がんばった。


ボウルのお掃除

ステムの目処がついたところで、ボウルのお掃除です。
ボウルトップは結構汚れてる。
カーボンはそこまで厚くない。

リーマーとナイフでゴリゴリ。
リューターかけるほどではなさそう。

あらかた削ったらアルコールメソッド。
コットン詰めてエタノール。
数時間おきに何度か注ぎ足して、一晩放置。

一晩置いとくと汚れが浮いてるので、コットン取り除いて軽くリーミング。

シャンクはストローブラシとモールでゴシゴシ。
色が付かなくなるまで。

ボウルトップはエタノールつけたナイフで軽くカーボン取る。
バーリングとかもそうだったけど、古いやつは妙に木が柔らかかったりするので、傷つかないように優しく。

内部の掃除が終わったら、外側の掃除。
キッチンペーパーとモールつめて、マーフィーのオイルソープで洗います。
原液を歯ブラシにつけてゴシゴシ。
ぬるま湯流水で洗い落とします。

見えにくかったところも見えやすく。
ちょっと内側えぐれてる。
エッジも所々傷。

内側とエッジをヤスリ掛け。
深い傷が取れるまで平面に削ってくとシェイプ変わっちゃいそうなので、エッジを少し丸める感じで馴染ませる。

んで、ボウルトップを円を描くように擦り付けてヤスリ掛け。
やりすぎて形変わらないように。

傷が取れたら、全体を2000までヤスリ掛け。

白棒バフもかけてピカピカに。

椿油を塗りたくって、ラップに包んでちょっと放置。
やりすぎると、使う時に少しの間油が滲み出てくるけど、2〜3回使えば出なくなるので大丈夫。
グレインがハッキリします。

油を拭き取ったら、全体にカルナバワックスをバフ掛け。

最後にエタノールで薄めた蜂蜜をボウル内に塗ります。
ボウル内保護とカーボン付きやすくなるように。
あとはステムと合体して、全体をつやふきんで磨いて完成です。


完成

ツヤツヤピカピカです。
グレインにこだわってる感じは無いですが、厳しい審査を通り抜けてFourDotを獲得しただけあり、とても綺麗な肌で精緻なつくり。
スタイリッシュ。

ステムもピカピカ。
テノンも復活。
インナーチューブも装着できる。
モール通らないから面倒くさそうだけど、インナーチューブも試してみよう。
せっかくだし。

ひとつ、偉大な先達のブログで紹介されてた、とても素敵なエピソードを。

Sasieniを離れた後の2代目サシエニさんが、87年にインタビューを受けた時の話。
インタビュアーが、本人の前で使うつもりで、自分のコレクションの中からとっておきのEightDotをインタビューに持っていったそう。
でも、サシエニさんは平凡なFourDotを使っていたらしい。
インタビュアーは勇気を振り絞って聞きました。
「あなたはサシエニのストックの中からいくらでも素晴らしいパイプを選べるのに、どうしてそんな平凡なパイプを使ってるんですか?」
するとサシエニさん。
「私たち親子はハイグレード品には手をつけません。それはお客様のものですから。私も父も、当時はラインからはねられたパイプだけを吸っていたものです。」
そして、インタビューが終わった頃に、ようやくインタビュアーのEightDotに気づくと、それをよく眺めて一言。
「なんて精妙に作られたパイプなんでしょう。」
Sasieniのパイプ製作に一生を捧げた男は、1本のEightDotすら所有したことはなかったのである….。

もうさ。
泣けてくるね。
なんて素敵な話。
職人の鏡。
ほんと大事にしよう。
でもEightDotとFourDotって品質同じじゃないのん?

以上でレストア終了です。
おつかれさまでした。

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沼落ちnote

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