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"General theory of relativity"(Dirac)を読む16


Chapter 16は"The Newtonian approximation"。ニュートン力学から一般相対性理論へのフィードバックを見ていきます。

静的な重力場を考え、それを静的な重力場を用いて取り扱うことにする。計量$${g_{\mu\nu}}$$は時間に対して定数であり、すなわち、$${g_{\mu\nu,0}=0}$$である。さらに、対角成分は0とする。

$$
g_{m 0}=0, \quad(m=1,2,3)
$$

(注意)
これは、世界線を考えたとき、
$${ds^2=g_{00}dx^0dx^0+2g_{0m}dx^0dx^m+g_{mn}dx^mdx^n}$$
が、$${x^0\rightarrow-x^0}$$としても、静的な重力場では変化しないことより要請される。

これより、$${g^{m0}=0,g^{00}=(g_{00})^{-1}}$$が得られる。以上の計量に対する条件より、クリストッフェル記号に対しても$${\Gamma_{m0n}=0}$$、故に、$${\Gamma^{m}_{0n}=0}$$が成り立つ。

光速度に対してゆっくり運動している場合を考えよう。すなわち、$${v^m \ll1}$$であり、2次以上の項は無視できる。

$${ds^2=g_{00}dx^0dx^0+g_{mn}dx^mdx^n}$$の両辺を$${ds^2}$$で割り、$${v^m=dx^m/ds}$$、さらに$${v^m}$$の2次以上の項を無視すると、

$$
g_{00} v^{0^2}=1\tag{16.1}
$$

を得る。次に測地線方程式(8.3)で、$${\Gamma^{m}_{0n}=0}$$や速度の2次の項を無視すると、

$$
\begin{aligned}
\frac{d v^m}{d s} & =-\Gamma_{00}^m v^{0^2}=-g^{m n} \Gamma_{n 00} v^{0^2} \\
& =\frac{1}{2} g^{m n} g_{00, n} v^{0^2}
\end{aligned}
$$

を得る。今、

$$
\frac{d v^m}{d s}=\frac{d v^m}{d x^\mu} \frac{d x^\mu}{d s}=\frac{d v^m}{d x^0} v^0
$$

であること、さらに、式(16.1)を用いて、合成関数の微分法則を適用すると

$$
\frac{d v^m}{d x^0}=\frac{1}{2} g^{m n} g_{00, n} v^0=g^{m n}\left(g_{00}{ }^{1 / 2}\right)_{, n}\tag{16.2}
$$

を得る。$${g_{\mu\nu}}$$は$${x^0}$$に依らないので、添字を下げると

$$
\frac{d v_m}{d x^0}=\left(g_{00}^{1 / 2}\right)_{, m}\tag{16.3}
$$

を得る。この式を見ると、あたかも粒子が$${g_{00}^{1/2}}$$というポテンシャルで運動すると解釈できる。また、ここまでアインシュタインの重力法則は使っていない。では、いよいよここで、アインシュタインの重力法則を用いて、ポテンシャルに対する制限を得て、ニュートン力学と比較してみよう。

重力場は弱く、時空の曲率は小さい場合を考える。そうすると、座標曲線の曲率が小さい座標系を取ることができる。これらの条件下で、計量$${g_{\mu\nu}}$$は近似的に定数となり、$${g_{\mu\nu,\sigma}}$$と全てのクリストッフェル記号は小さくなる。このとき、二次の項を無視して、一次の項のみを考えると、式(14.4)のリーマンテンソルの定義よりアインシュタインの重力法則(15.1)は

$$
\Gamma_{\mu \alpha, \nu}^\alpha-\Gamma_{\mu v, \alpha}^\alpha=0
$$

となる。

これを計算するには、式(11.6)のリーマンテンソルの定義に戻り、縮約を取るのが良い。すなわち、

$$
R_{\mu\nu}=g^{\rho\sigma}R_{\rho\nu\mu\sigma}
$$

を考える。このとき、添字の対称性と式(11.6)を利用すると、

$$
g^{\rho \sigma}\left(g_{\rho \sigma, \mu \nu}-g_{\nu \sigma, \mu \rho}-g_{\mu \rho, \nu \sigma}+g_{\mu \nu, \rho \sigma}\right)=0\tag{16.4}
$$

を得る。

ここで、$${\mu=\nu=0}$$として、さらに$${g_{\mu\nu}}$$が時間に依存しない条件を用いると、

$$
g^{m n} g_{00, m n}=0\tag{16.5}
$$

式(10.9)のダランベール方程式は、弱い重力場では

$$
g^{\mu \nu} V_{, \mu \nu}=0
$$

になり、静的な場ではラプラス方程式になる。

$$
g^{mn} V_{, mn}=0
$$

式(16.5)は単に$${g_{00}}$$がラプラス方程式を満たすことを伝えている。

$${g_{00}}$$が近似的に1になる様な単位をとることができ、例えば

$$
g_{00}=1+2 \mathrm{~V}\tag{16.6}
$$

の様に小さなVを使って置くことができる。このとき、ポテンシャルは$${g_{00}^{1/2}=1+V}$$であり、Vはポテンシャルとなる。これはラプラス方程式を満たすので、ニュートンポテンシャルと同定できる。質量$${m}$$が原点にあるときは$${V=-m/r}$$となる。符号を見るために、式(16.2)を確認すると、$${g^{mn}}$$の対角成分がほとんど$${-1}$$になるので、

$$
\text { acceleration }=-\operatorname{grad} V \text {, }
$$

となる。

アインシュタインの重力法則は、重力場が弱く静的である場合はニュートンの重力法則になるのを見た。故に惑星の運動を説明するニュートンの重力理論の成功は引き継がれている。静的な近似は、惑星の運動が光速度に比べて十分に小さいので良い近似である。また、重力場が弱いという近似は時空がほぼ平坦であるので良い近似である。

地球表面での$${2V}$$はおよそ$${10^{-9}}$$であり、式(16.6)はほぼ1に近い。といっても、1からのズレは地球表面で重要な重力効果を引き起こす。地球の半径が$${10^{19}}$$cmのオーダーだとすると、$${g_{00,m}}$$は$${10^{-18}\mathrm{cm}^{-1}}$$である。重力のために平坦からずれているといっても、こんなに小さいのである。しかし、地球表面での重力加速度($${10^{3}\mathrm{cm/sec^2}}$$)を出すためには光速度の二乗をかけなければならない。こうして得られた重力加速度は、空間の曲がりが小さくて直接観測にかからない割に結構な量である。

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