見出し画像

VR空間でeスポーツの大会観戦会場を制作した話

はじめまして!主にVRChatというソーシャルVRに生息している
bukkie(ぶっきー)と申します!
この度、Tonamelのさとけんさんからお声掛けいただきましてこみゅリポAdvent Calendar 2021の5日目に発表する記事を書かせていただくことになりました。最後までどうぞよろしくお願いいたします。

概要

今回書かせていただく内容はタイトルの通りなんですが、もう少し解像度を上げると「VRChat上にロケットリーグの大会観戦会場を制作し、運営した話」になります。

どういうこっちゃ?ですよね。まずは実際にその時の映像を御覧ください。


認知しきれていないので憶測を含みますが、この記事を書いている2021年12月現在、コミュニティ大会等でVR観戦を取り入れて実施した団体はまだそこまで多くない認識です。
コンテンツは先駆者の経験から「どうしてうまくいったのか」「どうして失敗したのか」を取り入れて進化していくものだと思っています。
今後VR観戦をしようと思った"誰か"のために、少しでも助けになるように、俺達はこうやった!をここに残します。

今回のAdvent Calendar参加者の中でもVRというジャンルは少し珍しいかもしれませんが、そういう世界もあるのか!ということが伝われば幸いです。

VRChatとは?

ソーシャルVRと呼ばれるもので、自分自信はアバターとして仮想空間に入り込み、そこで不特定多数のユーザー達と遊んだり会話したりできるアプリです。Steamからインストール可能で、VR機器は必須ではありません。
VRChatでは自分自信の分身を「アバター」、VRChat上に存在する空間のことを「ワールド」と呼びます。
百聞は一見に如かず。気になった方は是非一度調べてみてください!
VRChat公式ページはこちら

Vtuber限定ロケットリーグ大会「みこみこ杯」

新風みこ(@NiikazeMiko)が主催するロケットリーグの大会。
ビギナーズ、マスターズの2部門に別れ、全工程を二日間で行います。

私がVR観戦会場を制作したのは本大会の第9回、10回大会です。

会場制作に必要なもの。

Unity
 無料で利用できるゲーム開発環境。モバイルゲームやパソコンゲーム
 ブラウザゲームなど幅広い製作に用いられます。

VRCSDK
 VRChat公式から提供される"VRC開発キット"です。
 基本的にこのSDKを通じてアバターやワールドはアップロードされます。

3Dモデル
 会場に置くイス、ライト、モニターなど。
 知識がある人は自作でOK!私はほとんどBoothで調達しています。

VR観戦会場に配信を映すには?

ここからは実際に大会をリアルタイムで観戦するために、VR空間の会場はどのような機構で、どんな工夫をしていたかの話に移っていきます。
ここでは「こみゅリポ vol.08 大会を支える"技術"のお話」でお話させて頂いた「VR観戦って実際どうなの?」の内容をもう少し詳しく掘り下げていこうと思います。もちろん見ていなくても大丈夫です!
「VR観戦って実際どうなの?」のアーカイブはこちら

観戦会場では中央の巨大なスクリーンに大会の様子が映し出されています。

画像1

このスクリーンの映像は、YouTubeに配信されている映像と同じものです。
通常、配信は配信担当者のPCから映像配信ソフトを通じて配信サイトに送信します。この会場は特に外部とつながっている訳ではないため、一工夫しないと直接映像を届けることができません。

じゃあブラウザのYouTubeの配信をレンダーテクスチャ(知らなくてOKです)でVR空間内に表示しちゃおう!
というのは実はYouTube側の利用規約に違反してしまう可能性があります
以下、2021年12月現在の利用規約より一部抜粋したものです。

本サービスを個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用すること(たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません)。

VR観戦を大々的にやりたい運営側の意思としては、これは避けなければなりません。そこで登場するのがTopazChat(トパーズチャット)です。

TopazChatとは?

TopazChatは音声や映像を1秒程度の低遅延でVRChatワールド内に配信する個人運営のサービスです。
個人利用では無償でご利用いただけます。法人利用はご相談ください。

TopazChatを利用することで、配信ソフトから送信した映像を
外部の配信サイトを介さずにVRChatのワールドに直接送ることができるようになります。
ちなみに、関東圏であればYouTubeの超低遅延配信よりも少ない遅延で視聴ができてしまうんです!

これで利用規約周りはOK!あとは好きにやりましょう。

OBSの設定や、TopazChatの使用方法などは割愛しますが、VR観戦会場の制作にはTopazChat製作者よしたかさんの協力無くして実現しませんでした。ありがとうございました。

円滑な運営のために。

第9回みこみこ杯の本配信はYouTube上で進行していて、それに付随する形で観戦会場がありました。滞りなく進む大会の裏で、不具合や障害で映像が見れなくなるということがあり得るかもしれませんし、そもそも会場に人が来てくれるのか?という懸念がありました。
そこで、大きく分けて以下の2点の対策をとりました。


①STAFF ONLYのスペースを設ける

仮想空間上の会場とはいえ、現実の会場と同様に来場者に入られては困るスペースがあるわけです。もちろん仮想空間には触られて困るようなPCやケーブルは存在しません。
しかし、出力する映像を切り替えるためのスイッチや、映像が止まってしまった時に押す再読み込みボタンは仮想空間では必要です。
こういったものを勝手に触られると大会進行中に映像を切り替えられたり、せっかく会場に来てくれた人にストレスのないVR体験を提供できなくなってしまいます。そういった類のものはすべてSTAFF ONLYの空間を作り、来場者からは見えないようにしよう!

とは言ったものの、VRChat上に存在する空間(ワールド)では、任意のユーザーに特定の権限を与えるという行為が出来ません。
(少なくとも実装当時はできなかった認識です...)
これは「一般には公表しないスタッフ専用の秘密の入り口を用意する」ことで解決しました。VRChatではよく使われる手法です。

まず、会場入り口に正しいパスコードを入力しないと入場(テレポート)できない機構を置きます。

画像3



Q.この正しいパスコードはどうやって知るの?

A.会場に関する注意事項の中に書いてあります

画像4


そうすることで来場者に注意事項を周知できるというメリットもありますし、利用規約的な感じで、記述内容に了承した人だけが観戦スペースにテレポートできるといった運用が可能です。
しかし中央のスクリーンがあるステージの上には、客席側からは透明な壁に阻まれていて、入ることができません。

画像5

では、スタッフはどのように入場するのでしょうか。
お察しの通り、パスコードには別のパターンがあります。
パスコードシステムにスタッフ専用パスコードを入力することで、スタッフ専用スペース(見えない壁の内側)にテレポートするという仕組みになっています。

これで不可侵な領域を設定でき、安全なイベント進行が約束されました!

②SNSで共有してもらえる工夫をする

みこみこ杯は全二日間で行われます。一日目より二日目のほうがたくさん人が来てほしい。SNSでも拡散してほしい。じゃあどうしようか?

ワールドにフォトスポットを設置しました。
Twitterで大会ハッシュタグと一緒にツイートしてもらえれば、普段YouTubeでしか視聴しない人にもこの会場の存在を知らせることができるかもしれません。

画像2

ロケットリーグはラジコンカーでサッカーをするというゲームなのですが、その中の登場車体の一つである「Octane」の3Dモデルを有志に制作して頂いたので、ここぞとばかりに「飛び出すフォトスポット」を設置してみました。3DCGを活かし、車が画像から飛び出してきた!風になっています。

画像8


このフォトスポットは当初会場のデザイン画には存在せず、制作段階で私が勝手に追加して提案したものです。
我ながらナイスでしたね(熱い自画自賛)。

会場のデザインちょっとだけ公開。

この会場の制作は白紙から始まったわけではなく、しっかりと空間のデザインを考えてくれる人がいて、絵に起こしてくれる人がいて、それを運営メンバーで何度も練り直して今の形となりました。
実際のデザイン画の初版の一部がこちらです。

ワールドデザイン2

これを元に試作品としてできたものがこちら。

画像10

ワールド制作者からすると、こんなにやりやすいことは無いです。
他人の脳内イメージは覗けませんし、3D空間となると文字でのやりとりだけでは伝わりきらない部分があるかもしれません。
デザイン画って偉大ですね!!

敢えてVRでやる。

現実じゃないと出来ない体験がある。という考えと同じで
仮想現実じゃないと出来ない体験がそこにはあります。

一部は現実と同じですが
1. 人が居る方向から声が聞こえて
2, 同じタイミングで歓声が上がる
3. 「声」や「身振り」で感想を共有できる

でもここは仮想現実なので
4. 何処に住んでいようと参加できる
これが最も大きな利点だと思っています。
何処に居ても、何時まで遊んでいてもいいんです。

他にも、身体的な問題でオフラインイベントに参加出来ない方や、アバターという姿のほうが参加しやすい方にも未来がある分野だと思います!!

コロナが落ち着いて、普通にオフラインイベントが開催できる生活が戻ってきても、私はVRで遊ぶことをやめないでしょう。
なりたい姿になれるし、理想の空間を作れるこの環境が、自分のスタイルに合っているからです。
現実より仮想現実の方が良いというわけではありません。仮想現実で何かを作るためには、現実で時間を費やさないといけませんから。
仮想現実が誰かの居場所になったって良いと思います。これからも様々な可能性を発見するために、敢えてVRでやる。を続けていきたいですね。

みこみこ杯のVR観戦を受けて「この会場を使ってみたい!」と声をかけていただき、実際に大会でVR観戦を実施して頂いた大会もあります。

Splatoon2 エリア杯+ 様

2:45くらいからちょっと映ります。
この大会を運営しているOdaさんも、今回こみゅリポAdvent Calendar 2021にエントリーしており、12/23(木)公開です。チェックをお忘れなく!

VRの体験をもっと良いものにするには?

配信画面を会場に映すことは問題なくできましたが、YouTubeやTwitchでの配信との大きな違いは、同時視聴者数の違いです。

私が制作したVR観戦会場の同時接続可能な人数は最大50人です。
一般的な大会配信の同時視聴者数に比べると遥かに少ないですよね。
さらに、30人を超える人数が集まるワールドでVRChatを安定稼働させるとなると、かなり高いPCスペックが要求されます。
普段PCでゲームしない人からしたら、20万円超えのマシンなんてそう簡単に買えないと思います。

「30人の"声"を重要とするか、1000人の"コメント"を重要とするか。」

正直、どちらを捨てるかなんて選べないほどVR観戦における30人から伝わる熱量は無視できないものです。
もしこの30人が100人、500人と増えたら?という未来を想像したら
やはりまだまだVRという分野はやめられません。
しかしこの部分の人数を増やそうとしたとき、講じるべき対策は
「VR観戦会場をもっと便利にする」ではありません。

今後、VR観戦の人口を増やすためのクリアすべき課題として
・同時接続数には限界があること
ハイエンドPCの調達が容易ではないこと
があると思います。

まずはこの障壁をどれだけ取り除いてあげれるか。
を考える責任が、VR大会観戦に手を出した先駆者である我々には少なからずあると思っています。


「同時接続数には限界がある」
ならば
同じ会場を複数立てれるように運営方法を考える

「ハイエンドPCの調達が容易ではない」
ならば
VRChatはデスクトップモードで遊べるから
ちょっと昔のグラフィックカードのPCでも遊べるよ!
ということを広めていく
and
おさがりのグラフィックカードをあげる

などなど、できることはこの他にもたくさんあると思います。

ちなみに、みこみこ杯では最大同時接続30人超えを記録しました!

画像6


同時接続数が3桁を超えるようなソーシャルVRや、低負荷のサービスの登場に今後期待しています。
その都度、新たなVR体験が生まれると思うと楽しみですね!

今VRでやっていること。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
VR観戦会場の他にも、ミーティングやライトニングトーク向けの会場を作らせて頂いたこともあります。


VR観戦やりたい、助けてくれ!VRChatやってみたい!
などあれば、遠慮なく聞いてみてください!
Twitter : @bukki_e

また、VRでの経験をいかして今はVRでの創作に挑戦しています
このプロジェクトでは主にワールド制作等、技術面のお手伝いをしています。そうです、宣伝です。
是非見ていってください!

それでは
これを読んでいる貴方と仮想世界で会える日を楽しみにしています。


画像7

- "みんな"に出会う, "わたし"に出会う -

VRChatで音楽しようプロジェクト、 "Project VisitoR" 
第一弾の楽曲「VisitoR」のミュージックビデオです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?