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初めてプレイしたEXVSで、いきなり「ガンダム勢の洗礼」を受けた話

初めて一人でアーケードの機動戦士ガンダムEXVSを触ったのは5年前。
家庭用EXBSFBで練習した浅薄な知識だけを武器に、猛者のしのぎあうゲーセンに足を踏み入れた時の緊張感たるや。一生忘れられない。

自宅周辺にゲーセンがないということもあり、電車に乗って数駅、とあるゲームセンターでアーケードエクバ童貞を卒業したわけだが、この時一生忘れることのできない「ガンダム勢の洗礼」を受けることになった。

オフライン対戦の恐怖

当時稼働していたマキシブーストまでは、オンライン対戦が未実装で、オフラインでゲームセンターに集まったプレイヤーで「リアルに顔合わせをした状態で」対戦をすることになる。

そもそもオフラインで知らない人間とゲームで対戦することが恐怖でしかなかった。「頭のいい優秀な人たちが、オンラインを通じて自宅でも世界中の人とマッチングできる環境を作り出してくれているのに、なぜこの人たちは、わざわざタバコ臭い密閉空間で知らない奴と刃を交えるのか」と。

兎にも角にも、足を踏み入れた以上はやるしかない。そう決意して、チームシャッフル用筐体の前に設置された椅子に座り、100円玉を投入。この時、すでにほかの筐体には2人のプレイヤーが腰かけており、好敵手が現れるのを心待ちにしているかの如く、CPU戦で肩慣らしを始めていた。

私が当時使用していたのは、以下の2機体。

1つ目はフルアーマーZZガンダム。EXVSFBまでは2500コストで、フルアーマー形態で出撃して、一回打ち切りの格闘CSゲロビを発射することで強化型ZZへ一方通行の換装をする機体であったが、EXVSMBでは3000コスト。それも特殊格闘を使用してフルアーマー形態と強化型形態を使い分けるという、前作の仕様からは見る影もないほど変貌を遂げてしまっていた。


そして2つ目はガンダムデスサイズヘルEW版。こちらはフルブ、マキブともに2500コストの格闘機。特殊射撃の誘導切りや、特殊格闘のクロークで自衛もしつつ、奇襲力の高いBD格闘や、判定と発生の強いN・横格闘での近接戦を得意とする。しかもフルブ→マキブ間での大きな仕様変更もなし。

「決めた、デスサイズヘルで勝負だ!」

決意を固め、機体選択画面でデスサイズヘルを選択した直後、座っていた筐体から2つとなりの筐体に、無精髭を蓄えたパーカー男が着席した。


ガンダム勢の洗礼、無精髭男


この無精髭男、スムーズな流れで着席から100円投入、カードをスキャンして機体選択画面でストライクフリーダムを選択する。

今考えれば、使用機体がある程度決まっているんだったらこんなの全くもって普通のことなんだが、当時対戦開始までの一連の操作すらおぼつかなかった自分には、何やらとんでもない猛者が現れたように映っていた。

「この男、強い…。」

そうこうしているうちに、対戦開始。チームシャッフルでパートナーが決まる、緊張の一瞬。

なんと私の隣には無精髭男のストライクフリーダムが!
ふと二つ隣の筐体を見ると、無精髭男がちらりとこちらを見ながら

「…よろしくね」

と、ぼそっとつぶやき、少し照れくさそうに微笑んでいた。


…あぁ、なんということだ。私は知らなかった。

各駅停車しか止まらない田舎駅前のコンビニの夜勤バイトで食いつないでいる不愛想フリーターのような、普段なら道すがら出会っても目すら合わせない異世界の人種が、ゲームセンターなら、外では決して見せないであろうなんとも朗らかな表情で微笑みかけてくるのだ。

私は、なんと稚拙で愚かな勘違いしていたのだろう。食わず嫌いとはまさにこのことである。私の知らない世界には、私の知らない人々の輪があるのである。今日私は、新たな世界への一歩踏み出し、その輪の中に迎え入れられようとしているところなのだ。







さて肝心の試合の方だが、私のデスサイズヘルが華麗な3落ちをかまして大敗した。それもあろうことか敵に一度も触れることなく、である。

それもそのはず、始めたばかりのゴリゴリ初心者の対面に、階級プレートが金色に光り輝くガチ猛者が立ちふさがったのである。もはや対戦ですらなかった。一方的なハンティングであった。

ちなみに無精髭男は銀メッキだった。




「これはさすがにやばい…」

そう思った私は、いの一番に無精髭男に謝罪をせねばと思った。

なぜなら私は対面に一度も触れることなくチームのコストをすべて奪い去った大戦犯だからである。

そうして無精髭男の方へ向き直ると、すでにこちらを向いていた無精髭男は開口一番私に向かってこう言い放った。




「お前さぁ…いた?真面目にやれよ?」




この質問への最適解は「真面目にやったつもりだが、いなかった」である。

なぜなら、真剣にやったとはいえ、私は対面に一度も触れることなくチームのコストをすべて奪い去った大戦犯だからである。

そんなことは重々わかっていた。問題はそこじゃない。


ただ隣に座って同じゲームをプレイしていただけの見ず知らずの無精髭男に説教をされていることに、私は驚いていた。


続けてクソ無精髭男は、操作もおぼつかない私に、立ち回りの不備を指摘し始めた。


「あそこでなんで突っ込んだんだよ」

「ちゃんと下がれ」

「周り見ろよ」


そう、各駅停車しか止まらない田舎駅前のコンビニの夜勤バイトで食いつないでいる不愛想フリーターのような、普段なら道すがら出会っても目すら合わせない異世界の人種が、いきなり私に向かって講釈をたれ始めたのである。

見ず知らずの他人にここまで丸出しの敵意を直にぶつけられたのが初めてだったので、そんな私は、びっくりしてひたすら謝罪をすることしかできなかった。

結局、煮え切らないままもう1回対戦台に座り、今度は対面に来た無精髭男に私のデスサイズヘルがひたすら追い回され、ボッコボコにされて負け、無精髭男のニヤニヤ顔が気持ち悪すぎて、私のゲーセンソロEXVS童貞は、わずか2戦で撤退という情けない結果に終わった。

ちなみに以降3か月間、一人でゲームセンターに行くことはなかった。



「ゲーセンではゲームが上手い奴が偉い」は絶対嘘


その日、私は思い知ったのだ。ゲームセンターには、知らない人間に対してゲームの実力でマウントを取り、平気で罵詈雑言を浴びせかける半端じゃない非常識がいるということを。

当然これはゲームセンターに限った話ではなく、時にはパチンコ屋、時には雀荘、時には居酒屋でも「非常識が着衣して人前に姿を現す」ことがある。

もちろん私自身も、自分が完全無欠の常識人だとは微塵も思っていない。だが、知らない人間にゲームの技術の良しあしで能書きをたれる奴に何を言われようが、そんな行為をしている時点でソイツが悪なのだ。至極当然だが、ゲームの腕は二の次である。

ゲームセンターという通いなれたホームグラウンドで気を大きくしていたのか何なのか知らないが、とにかく私はその無精髭男のことがいまだに嫌いだし、当時のプレイヤーネームまで覚えている。検索をかけたら、付近で有名な迷惑プレイヤーで、出禁をくらっているゲーセンまであったとか。ネットの落書き情報なので定かではないが。


以上が私のガンダム勢による洗礼の話だが、最後に、2つほど。
まず文章にしてストーリーとして紹介する以上、若干の脚色が入ってはいるが、この話は紛れもないノンフィクションである。
そして、これは決して「ガンダム勢はこんなやつばかりだ」とか、「ゲーセンではこういう事例が日常茶飯事だ」とか、そういう主張を目的に書いているわけではないのであしからず。

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