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ある日本陸軍将校の心構え

 軍隊や自衛隊の統率者(特に指揮官)はその道を目指した者にとっては人生の目標であり、大変に名誉なことである。しかし、多くの部下を抱えることは任務がそれだけ複雑で難しくなった証しであり、その自覚がないまま指揮官を務めると極めて思い責務を全うすることができないことにもなりかねない。
 他方、統率者(指揮官)としての任務遂行は部下一人一人が己の任務・役割を日々愚直に遂行しているからこそ、組織全体としての重大な任務が成し遂げられているのだと言うことを自覚することが不可欠であろう。部下に対する愛情や感謝の念を片時も忘れない指揮官には部下は無限の信頼を寄せ、どんな困難な状況でも気付いてみれば部下の働きに助けられて何とか任務を達成していることも少なくない。そのような指揮官は本当に指揮官冥利に尽きる。

 ところで、部隊は生き物だと言われている。それを実感したことがある。自衛隊には音楽隊という部隊があり、戦闘服を着た音楽のプロフェッショナルである。音楽隊と雖も自衛隊である。彼らの意識は一般の戦闘部隊と遜色はなく、自衛官としても一流である。ところで、ある音楽隊の指揮官が交代した。その音楽隊はこれまでも多くの音楽演奏で多くの人を魅了していた。しかし、指揮官交代で更に驚いた。若くて活力に溢れた新隊長が全身でコンタクトを振ると音色も力強くなり、同じ部隊とは思えないほど素晴らしい演奏であった。部隊は指揮官(リーダー)の統率次第であると実感した次第である。
 
 日本陸軍には多くの優れた人物がいたが、ある将校は以下のような心構えを手帳に書き残していたという。全ての統率者(指揮官やリーダー)がこのような気持ちを片時も忘れることなく、責任を果たすことが望まれる。(実際にはなかなか難しいのも現実であるが。若い幹部は悩んだ時は以下のメモを見返して貰いたい。)

1 向かうところを明確に示せ。
2 信を部下の腹中におけ。
3 功は部下にすすめ、責任はわが身にとれ。
4 金銭に恬淡であるべし。
5 自然に導くことが出来れば上の上である。
6 虚心坦懐光風霽月、是を是とし非を非とせよ。
 (注:「光風霽月」とは心がさっぱりして清らかなこと。)
7 褒めるべき時に褒め、叱るべき時に叱り、忘れたり遠慮したりするな。8 権謀は無策に劣る、巧詐は拙誠にしかず。
9 おのれには薄く人に厚く、おのれに厳に人に寛なれ。
10 長所を見て人を使え、人は誰でも長所を有する。長所を見て使えば士気旺盛となり、他の事も進む。
11 愚痴と立腹と嫌味は人の上に立つ者にとって大禁物、言いたい事があてもじっと堪えうる雅量を持て。
12 為すべきことを為すために、いかなる情実もいかなる困苦もこれを排し、断乎として実行すべし。
13 妄りに難きを責めるな、ただし泣いてこれを責めるべき場合もある。14 おのれまず研究し確信を得よ。
15 広く意見を徴すべし、部下の話は熱心に聞け。
16 部下の労する所を知り、よくこれをねぎらえ。
17 部下の人事に熱心であれ、人の世話をよくしてやれ。
18 寡黙重厚、従容自若、眼眸厳正、挙措端正。
19 よく休ませ得るものは、よく働かせ得るものなり。
20 部下のことをわがことほどに思え。
21 努めて失意逆境にある人を引き立てよ。
22 自他の職域を守り、これを尊重せよ。
23 知らざることはあくまでも知らずとなせ。
24 少なく言い、多く行え。
25 絶えず研究して一歩前進せよ。
26 小疵をもって大功を没してはならない。
27 部下に威張るな、部下の機嫌をとるな、至誠一貫、正々堂々。
28 外柔内剛、柔らかくとも一筋あれ。
29 事を為すには肚をきめてかかれ。
30 部下をして上に立つ者は自分の最大の保護者であることを感じさせよ。
31 自分一人で仕事をするな、任せて人を使え、ただし監督を怠れば仕事をする人に張り合いがなくなる。
32 象徴を高く掲げ、衆心一致精神の統一をはかれ、中心の引力はあらゆる手段を尽くして強固ならしむべし。


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