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同じ失敗を繰り返すことが本当の失敗

 世界には多くの国があり、人種があります。言葉も違えば、歴史や文化、宗教も異なります。それぞれの人種には文化的なバックグラウンドが存在します。例えば、中国人には「面子」、韓国人には「恨」。多くの日本人に共通するのが「恥」の意識です。小さな頃からすり込まれた「恥」の意識は、多くの日本人にあらゆる場面で無意識に影響を与えています。「恥」の文化は順法精神、秩序の維持、協調性の形成など良い面も多々ありますが、「恥」を恐れて消極的になる面も否定できません。もじもじ君、もじもじさんが多いのも「恥」の文化の影響かもしれません。

 以前、若い部下や教え子に質問をしましたが、多くの場合、積極的に質問をして自らの理解度を確認し、あるいは不明な点を解消しようとする者は少数派です。指名されないように、うつむいたり、目を合わせないようにしている者もいました。他方、自信を持って積極的に質問や意見をしてくる者がいます。このような者は数年もすると、大きく成長していることが多いと感じています。

 ある時、米陸軍の学校で今後中隊長として勤務が予定されている中尉クラスの授業を見たことがあります。教官は実戦経験豊富な退役軍人であり、制服を脱いだシビリアンです。教官は自分の経験を織り交ぜながら、このような状況では如何に判断すべきか質問します。質問が終わるか、終わらないうちに、全員が「はい」「はい」と一斉に手を挙げます。指名されんがために、身を乗り出している者もいます。
 指名された者は自らの考えを理由を付して端的に述べます。教官は直ぐにアンサーを示すのではなく、更にその考えについて他の学生に問いただします。この時も全員が一斉に手を挙げて、賛成するか、反対するか、その理由を付して述べていたのが非常に印象に残っています。日米の違いはどこにあるのか?リーダーシップを大切にする狩猟民族と経験や協調性を重視する農耕民族の違いかもしれません。いずれにせよ、その積極的な姿勢には感心せざるを得ませんでした。

 さて、この時に思い出したのが、発明家のトーマス・エジソンの逸話です。エジソンは誰もが子供の頃に一度は見聞きしたことがある偉大な発明家です。蓄音機、電話機、活動写真など生涯に1300もの発明や技術革新を行った「発明王」です。
 エジソンは子供の頃から異常なほどの好奇心をもっていたと言います。    
 そのエジソンが晩年、ある記者に質問を受けました。エジソンは実用的な白熱電球が実現するまでに2万回もの実験を繰り返していました。当時、白金線に通電加熱すると光を発することは既に知られていました。しかし、それは実験室での話しであり、社会において実用的な電球はまだ実現していませんでした。エジソンは電力供給に有利な高電圧にも耐えられる高抵抗フィラメントが白熱電球に必要と考えていました。当初は白金線を使用していましたがより安価なカーボン・フィラメントの開発に移行した。ついにエジソンは1879年10月19日に40時間の点灯に成功し、実用的な白熱電球がこの世に誕生しました。1879年とは明治12年です。明治10年の西南の役から2年。日本で初めてガス灯が点されたのが明治5年、横浜の馬車道です。因みに、このフィラメントには日本の京都石清水八幡宮の八幡竹が使用されたことでも有名です。

 さて、ある記者はエジソンに「白熱電球を発明するまでに2万回も失敗をしてよく諦めませんでしたね?」と聞きました。自分だったら、どう答えるでしょうか?エジソンはその質問に対して「2万回も失敗していません。このようにすれば、点灯しない。ああすれば、不十分だ。という発見を繰り返したのであり、失敗していた訳ではない。その2万回の積み重ね全てが成功への大切なステップであった。」と答えたそうです。

 人は何でも上手く行かないと失敗と考えがちです。しかし、最初から完璧に出来ることなど有りません。失敗そのものに引きずられ、冷静に分析することなく、沈んで行く一方の人もいます。
 しかし、繰り返し、繰り返し実施することで、身につくことも少なくありません。取り返しのつかない真の大失敗など人生の中でそう多くはありません。昨日はあそこが出来た。今日はここが出来た。明日はあれを頑張ろう。塵も積もれば山となると言いますが、小さな失敗による小さな恥を恐れていては大成しませんし、いずれ大きな恥をかくことになります。
 失敗は成功の素です。問題はなぜ上手く行かなかったのか?どうすれば上手く行くのか?考えなかったこと。そして、実行しなかったことです。
 このエジソンの話をすると、若い学生は目が覚めたように、元気を取り戻し、どんどん質問してくるようになります。

 ところで、自衛隊には「AAR」という言葉があります。元々は米軍で行われているAfter Action Reviewの略です。訓練などを実施した直後に、全員の認識が薄れないうちに現場で行う軽易な反省会です。上手く行かなかったことを単に繰り返しても同じ結果しか生まれません。常に目的・目標に照らして現状がどうなのかを冷徹に判断し、次の訓練の資を得る。実戦の場で任務を全うし、全員が無事に帰還するために欠かせないことだと思います。

 最後に、小さい頃、母から耳にタコができるほど聞かされました。
 「聞くは一時の恥、知らざるは一生の恥」
 不思議と年を取ると本当に実感できます。同じ失敗を繰り返すことが真の失敗であり、次に繋がる失敗は成功の素です。

(参考・写真 ウィキペディア)

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