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天野太郎さんと学ぶ!アートのイロハ③

みなさんこんにちは。
株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンター BUGのスタッフです。

新しくアートセンターをつくるにあたって、何を知らなくてはならないかがようやく段々分かり始めたBUGのスタッフたち。すっかり天野さんとは何でも話し合える仲となりつつあるのか(?)、和気あいあいと今回もたくさんのことを教えてもらいました。

前回の記事はこちら!


作品への理解とタイトルについて

自分の作品や自分のことを上手にプレゼンテーションするアーティストもいる一方で、人と話すのが苦手であったり、言葉にできない感動を伝えたくて作品をつくったりしているアーティストもいます。しかし、時には作品の説明をしなくてはならない時もあったりします。その場合、何がアーティストたちを助けてくれるのでしょうか?

作品を巡る説明文などのテキスト情報なしに、少なくとも現代の美術作品を十分に理解するのは大きな困難を伴います。何か作品の中で、具体的な取っ掛かりがあれば、そこから調べるという作業が可能になりますが、無ければお手上げです。実は、18世紀までの美術作品は主な題材が宗教、歴史、神話であり、取っ掛かりがあったため、調べさえすれば何とか理解可能でした。

作品タイトルは何を描いたかという対象を直接名付けるものばかりではなく、例えばフランスの写真家であるジャン=マルク・ビュスタモントは自分が何を撮ったかにかかわらず、タイトルを撮った順番にナンバリングしていきます。意図的に作品そのものと作品の名前のつながりが宙吊りになっているのです。
なぜ、そのような不思議な効果が必要とされるかというと、写真という誰が撮っても対象物が何であるかを同定できるものは、「どのように」見せるのかということが重視されるからです。このことを踏まえて、天野さんは私たちに記号学の3つの分類について教えてくれました。

  • 象徴(シンボル)…習慣や学習により得られる記号とそれを意味するものの関係。例えば地図記号など。

  • 図像(アイコン)…富士山を誰がどのように描いても富士山と認められるようなコードを保っているもの。絵画などがここに当てはまる。

  • 指標(インデックス)…「コードなきメッセージ」と呼ばれるように、対象物の背後にある事実関係へと知覚の関心を向けさせるもの。写真がここに分類される。

私たちがアーティストたちと作品や展覧会のことを話すときは、このような深い観察や解釈や考察が求められるということです。

作品にはどのような権利があるの?

作品として作家ではない人が撮影したイメージをそのまま使うことが、表現の自由を促進するフェアユース(公正利用)なのか、著作権侵害なのかについてはグレーゾーンのままです。著作権侵害や肖像権侵害を巡る訴訟もこれまでたくさんありました。
最近では、アンディ・ウォーホルが作品に用いた画像を巡った訴訟が話題を呼びましたね。

表現の自由と他者の権利との線引きは、些細なことから侵害してしまうようです。
天野さんが若手アーティストに向けた著作権講座では、弁護士さんに作品を見せると実に8割のアーティストが何らかの著作権などの違反をしていたようです。
肖像権や商標、建物の写り込みまで厳密に定義していくとこのような数字になるのですね。作品イメージが著作権侵害していないかを弁護士さんに相談することを天野さんは推奨していました。
作品イメージだけではなく、例えば、映像作品では出演者やパフォーマーなどの肖像権なども事前に紙面で同意を得ておくことが重要だといいます。
また、既製品を使って作品を制作する場合も、既製品に意匠権があるかどうかを確認しておくべきだと言います。

ここで代表的な知的財産権となる著作権、肖像権、商標、意匠権について簡単に説明しましょう。

  • 著作権…自分の創作物に与えられる権利。大量工業生産品には当てはまりません。

  • 肖像権…自分の顔写真や氏名などの個人情報をみだりに公開されないことや、著名人など自分の肖像が経済的効果を生む場合に、本人たちに価値を保護するものです。

  • 商標…ロゴマークや企業ロゴに代表される、その商品を提供するものと他社を差異化するためのマーク。図像のみならず、音声や動画なども対象となります。

  • 意匠権…大量工業生産品に与えられる権利。保護を受けるためには、特許庁に意匠登録をする必要があります。

美術館などで自分のスマホで作品を撮影しようとしたときに、他のお客さんの写り込みをしないようにと注意されたことはありませんか?
こういった注意は肖像権の観点から行われています。

とはいえ、こんなにもたくさんのことを気にしながら作品をつくることなんてできないよ!と思うかもしれません。BUG Art Awardでは、スタッフや弁護士さんなどが作品の著作権なども含めて、皆さんが良い作品をつくっていけるようにサポートしていく体制を整えています。

展覧会の作り方について

BUGは9月20日より雨宮庸介個展「雨宮宮雨と以」でグランドオープンします。
展覧会は作家が作品を持ってきて、インストーラーが作品を設置して完成!とはなりません…。
展覧会ができるまでの目標設定や、空間構成をどのようにするか、広報はどうするかなどたくさんのことが展覧会づくりに待ち受けています。

展覧会の目標設定は通常は来場者数ではかります。しかし、たくさんの人が良いと思えるものだけがアートではありません。時には万人には理解されないような新しい表現や過剰なものも、展覧会では扱います。そのときに来場者数だけではない指標もあるといいですよね。
会場と作品のマリアージュ、つまり、展示する場所も作品も双方が引き立つような展覧会は評価が高いと天野さんは言います。

天野さんは、最近では展示スペースで作品鑑賞以外でいろいろな手段を使い、作家・作品のことを知ってもらうことがスタンダード化してきている、と言い、その代表例がラーニングだと教えてくれました。
これまでは学芸員が一方的に話すことがメジャーでしたが、今はそれよりもアーティストが話すことのほうが求められると言い、それは一方的なコミュニケーションではなく、鑑賞者との双方向的なコミュニケーションが可能になるからです。
アートメディエーションという作家・鑑賞者が双方向的な対話を生み出す場が今注目されているみたいです!

また、これまでは展覧会の企画担当者や作家がどこにどのように作品を配置するかを考えてきましたが、会場構成などのプロフェッショナルや、建築家などをチームに加える事例が増えてきています。

展覧会をつくることはたくさんの人が関わることなんですね。さまざまな知見や職能が集まることで、良い展覧会ができあがっていきます。

BUGはグランドオープン以降も、続々と新しい企画やプロジェクトを構想中です。どうぞご期待ください!