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2022年1月21-22日公開作品紹介!!『コーダ あいのうた』『さがす』『真夜中乙女戦争』など

あと1週間で1月が終わろうとしているが、今年に入ってから、まだリアル試写に行くことができていない......

オンラインでは、毎週10本以上の新作映画を観ていても、やっぱりスクリーンで観たい。

しかし、私は地方ということもあって、1回で2-3日かけて8本ぐらい梯子したいというのに、かなり時間がバラけていて、なかなかタイミングが合わず、結局月末になってきてしまった。

マンボウが出て、また試写数が減ってしまったみたいで、月末に行く予定だった試写もなくなったし......

来月はリアル試写でしか観れない作品があるので、行くこと確定ですが、久しぶりに1ヶ月間で1度も東京に行かない月となりそうです。

話は変わりますが、最近『ボブズ・バーガーズ』というアニメの劇場版がアメリカで公開されて話題になっていて、長年未入国だった『ボブズ・バーガーズ』がDisney+で観れるということで、なんとなく観ていたらハマってしまった!

ファミリー向けのアニメかと思ったら、シュールであって、下ネタ、差別ネタなど、なかなかブラックなアニメで、『サウスパーク』とか『キング・オブ・ヒル』などが好きな人にはオススメ!

そんなことは置いといて、今週公開の新作をピックアップ!!

『コーダ あいのうた』オリジナル版を意識しつつ独自の設定を散りばめることで繊細な人物描写を実現した!!

フランス映画『エール!』のアメリカリメイク作品。

大まかなプロットや演出などは、似た部分も多く、セリフに関してもそのまま使用しているものも多い。

恋愛要素が追加されていたり、楽曲はアメリカで親しまれている曲に変更されていたり、細かい設定などが変更されている。

細かい部分でいえば、例えばオリジナル版では農場という設定だったが、今作では漁師という設定に変更されているし、音楽教師の個性が強調されていて、既婚者になっている。弟ではなく兄がいる設定など、随所にオリジナル設定が散りばめられている。

実際に聴覚障害のある俳優をキャスティングしていった結果として、オリジナル版と似た俳優になっているのは奇跡といえるだろう。

設定を漁師にしたことで、健聴者が船に同乗しないといけない状況をより具体的に作り、家族が依存しているという環境を強調しているのと同時に、ルビーも家族を手伝うことで、ひとりだけ健聴者であることへの疎外感を埋めていることも描いていて、互いに依存し合う関係性が強固なものとなっている様子が、オリジナル版よりも凄く感じられた。

自分の歌声に対して、可能性を見出していくことが、結果的に家族と孤立してしまうことになる。

理想と現実の絶妙な距離感、一番歌声を聴いてほしい家族に聴いてもらうことのもどかしさの中で、どう歌を伝えるのか、そしてそれが家族にどう伝わるかの描き方は、オリジナル版に沿っていながらも、ストーリーを通して今作独自に繊細に描いてきた結果的要素が加わり、見事なまでの完成形となった。

ルビー役のエミリア・ジョーンズの歌唱力も大きな役割を果たしていて、ちゃんと才能があると感じさせる説得力には感心するのみだ。

『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』王道展開ながらニューヨークというロケーションがアドベンチャー映画の質を向上させた!!

海外ではアニメや絵本で人気だけど、日本では絶望的な知名度のクリフォードが日本の劇場で公開されることをまず祝いたい。

子ども向けというのは大前提として、吹替え版の上映の方が圧倒的に多いのは仕方ないし、その通り子ども向けの王道ストーリー。というかターゲット層的に王道でなければならない。

自分に自信がなく、周りに溶け込めないエイミー。他の子と違うことは個性である……。何百回、何千会、何万回と、使い倒されてきている「個性」に対する提議。

真っ赤で大きな個性的すぎるクリフォードに対しては、そんな問題は小さすぎる問題。そんなエイミーとクリフォードが出会うことで、周りを巻き込んでいくコミカル・アドベンチャー。

ペットを飼った人や、子どもがいる人は、それなりの感動シーンもあったりするが、それも王道的。

今作が一番良かった点は舞台をニューヨークにしたことだ。

ニューヨークというロケーションがスパイスとして、大きな役割を果たしていて、エイミーがクリフォードに跨って、ブルックリンブリッジを駆け抜けるシーンは、画的なインパクトがある。

子ども向けでニューヨークで異質な存在が駆け回る映画の中では、最近なら『トムとジェリー』なんかと比べれば一番楽しいシーンが盛りだくさんな作品だ。

悪役はいることにはいるが、基本的にニューヨークの街の人たちがみんな優しくて、クリフォードを捕まえた者に報奨金を出したというのに、誰もつかまえようとしない。バウンティーハンターが狙ってくるような展開もない。

王道と優しさに包まれた作品で、子どもと一緒に観る映画としては合格点な映画なのは間違いない!

続編の製作が決定しているらしいが…..これで上手くまとまっているだけに、シリーズ化しない方がいいとは思う。

『さがす』父を探すはずが、環境や状況が作り出す人間の闇にたどり着いてしまう!?

『岬の兄妹』の片山慎三、長編監督2作目。

環境によって培われる心の闇という点では『岬の兄妹』にも通じる部分があるし、結局のところ行政は頼りにならなくて、それが良からぬ方向に向かってしまう人を増やしているのではないかという、お役所対応への不満なども映像としてにじみ出ていたりする。

『岬の兄妹』と比べると、予算も出でいることで、より商業映画的になった部分があったりもするが、それによって、残虐性に関してボン・ジュノ感は増している。

というのも、今作の片山慎三監督は、もともとポン・ジュノへのリスペクトが強く、ノーギャラでいいから!とアプローチをかけて、『母なる証明』の助監督をしていたほどの人物なのだ。

ポン・ジュノ作品は、貧困などの環境から生まれる悪意や、声が届かないもどかしさ、日常に隠れる身近な闇を描いていることもあって、どことなく共通するテーマや、影に埋もれたコミニティ的な部分を描き続けているのは、間違いなくポン・ジュノへのリスペクトによるもの。

ポン・ジュノの場合も同様のことがいえるが、身近ではない人こそ楽しめるテイストの作品ではあるかもしれない。どこか自分の環境とは違うから、誇張されたフィクションのように楽しめる。

しかし、それぞれのテーマに近い環境に生きる人が観た場合、観ていられない惨劇が繰り広げられるともいえるのだ。

今作が、どこまでネタバレしていいのか不明なため、前作の『岬の兄妹』を例にすると、障がいや病気を抱えた家族をもちながら、貧困の中で生きる人というのは、少なからずいる。

そんな似た環境の人や、過去にそんな経験のあった人にとっては、目を背けたくなる状況を、映画という「現実逃避」の中でも観なければならないというのは拷問に近い部分もある。そこから何か、かすかであっても、希望があるのなら、まだ意義があるかもしれない。

しかし、ポン・ジュノも片山慎三も、テーマを投げっぱなしで、結局のところ環境から抜け出すには、犯罪にしか行きつかないというような、貧困や理不尽な状況を一種のエンタメとして消費させてしまうことに賛否が分かれるかと思う。

現実社会においても答えの出ない問題であることは間違いないため、徹底的にブラックなエンタメにしてしまう考え方も、作家性としては、否定はできない。容赦のない切り口は、逆に評価される場合も多いだろう。

ただ、今作で扱われている、ある「病気」もしくは介護などでもいいが、そういった日々をリアルタイムにおくっている人が、これを観たら、どんな思いをするだろうか……私は、それが終始頭から離れなかったし、今作は試写で10月頃に観たが、そう思ったことだけは鮮明に記憶に残っている。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』悲劇は神の試練であり全てに理由があるという……宗教映画!!

なんだか最近、マッツ・ミケルセンが、リーアム・ニーソンのような立ち位置の俳優になりかけている気がしてならない今日この頃。

今作は、アクション映画や復讐劇のようなイメージが強いかもしれないが、ゴリゴリの肉体派軍人と、普段なら絶対に交流をもたないナードたち、そしてターゲットに捕まっていた人質など、ミスマッチなジャンルのキャラクターの組み合わせによる、独特の空気と距離感を味わう作品といえるだろう。

ミスマッチなナードの組み合わせは、『X-ファイル』のローンガンメンや『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』『バフィー 〜恋する十字架〜』などでも同じで、足手まといのようでも、いないと困る。

それぞれにスキルがあるのと同時に、様々な問題も抱えていて、目的に達する過程で、互いに依存的な関係性に発展していく。この特殊な関係性から生み出される醍醐味はしっかりと抑えられている。

何故か冒頭に、ストーリーに全く関係ない老人が孫に自転車を買うシーンがある。しかし、別の色の自転車欲しいと、その場では自転車を買わない。その自転車を販売している業者は、盗難自転車を売っていて、その子が欲しいといった色の自転車が盗まれる。ここで様々な人の運命が変化する。

自転車を盗まれた人の運命も、変わってしまうだろうし、極端なことを言うと、その自転車を手にした少女が、その喜びから自転車レースの選手になねかもしれない……と考えていくと、様々な出来事には理由があって、その理由を理解したとき人間は成長できる。それが神の与えた試練、運命のサイクルなどといった、かなり宗教的なテーマが含まれている。

電車が爆発したことは悲劇ではあるが、それによってかけがえのない仲間を手に入れた。そうなることこそが運命という結論に導いていくことが全体的な趣旨になっているため、アクション主体ではないのだ。

何でも力づくでねじ伏せようとしていたマークスも、娘の声に耳を傾けるようになっていき、より人間的に豊かな感情に目覚めていく。これも神が与えた試練に耐えたからこそ、得られたものである……

慰めのようでもあり、悪く言うとこじつけでもあるが、監督が描きたいのは、そういったことなのだ。

ハードボイルド・アクションやサスペンス、コメディといった、様々なジャンルがミックスされていることで、カモフラージュされているが、これは間違いなく宗教映画。

これは推測ではなく、決定付ける理由もある。それは、今作の監督アナス・トマス・イェンセンという人物は、『アダムズ・アップル』『ラン&チキン』といった今までの作品の中でも、「物事には理由がある」というテーマを一貫して描き続けていることが物語っているように、宗教的要素が入るのは、彼の作家性だからだ。

『真夜中乙女戦争』繰り返される日常というサイクルの中で生きることに意味はあるのか?!

学校に行って、就職して、結婚して、子どもができて、家を買って……という人間が繰り返す、世界のサイクルに飲み込まれて、消費されて、最後には死んで灰になる。世界の家畜のような存在が人間だ。

そんなサイクル自体に疑問を感じる時というのが、人生には何度かある。中には、そのサイクルを当たり前すぎて、流れに身を任せ、疑問にすら感じない者もいるが、一番敏感に感じるのが、10代後半から20代前半といったところだろうか。

もちろん、その後も何度か、人生の岐路に立ったときに思う者もいれば、そういった思考にならない者もいる。以前は思っていたが、その時には考えなくなってしまう者もいる。自分の人生、世界の意味、そんな答えの出ないことを考えるぐらいなら、サイクルに飲み込まれてしまう方が、いっそ楽だ。

しかし、そのサイクルを壊してしまったらに、人類はどうなってしまうのか。当たり前だと思っていた日常が消えてしまえば、全てが平等な世界が実現できるかもしれない。そんな思想は、テロリストやカルト的なものに感じるかもしれない。実行してしまえば、それは悪とみなされ、世界によって批判と裁きを受けるだろうが、そういったことを思うこと自体、その感覚はごく自然である。

今作は、決して他人事ではなく、誰もが自分自身のサイクルの中での生き方を見つめ直すものとなっている。主人公に名前がないのは、あなた自身でもあるからなのだ。

全編を通して、何かを朗読しているようなセリフも、頭の中で考えていることが表されている。言ってしまえば、全てが脳内で展開されている物語なのだ。

ラストでスクリーンに映し出される光景を見て、何を思うかが、その人の生きる意味にリンクするものとなっている。

そこで恋人だったり、家族がどうなってしまうのだろうか、もしくは大好きな仕事はどうなってしまうのだろうか……と、思うかは、人によって、それぞれ全く異なるだろうが、何かを思うのであれば、それこそが生きる”希望”だということだ。

そして、それがこの世界に生きることの意味なのだ。

『三度目の、正直』気休めや幻想だと気づいていても、それを信じることしかできない時もある……

予算が有る無しに関係なく、物語が良くできていれば、素晴らしい作品が出来上がるのは間違いないが、やっぱり役者の演技は必要で、低予算であればあるほど、役者頼りな部分が大きい。

今作が非常に残念なのは、物語は良くできているのに、役者の演技がとにかく酷いことだ。

自分に才能があると信じて、痛々しい役なのか、それが素なのかわからないラッパーの小林勝行は、もともと役者ではなく、素人だから演技が下手でも仕方ないにしても、プロであるはずの主人公・春役の川村りら含め、ほとんどの役者が棒読み過ぎて、特に医者の役の田辺泰信という俳優が、聞いてられないぐらい酷く、なぜか少し二枚目な役が、いちいち気に障る。

一部上手い俳優が混ざっているだけに、下手な俳優が浮き彫りにされてしまう。

そうは言っても、観ていると……途中から麻痺してきて、棒読みセリフにも慣れてくるし、役者たちも徐々に役に溶け込んでいるのを感じるものの、 田辺泰信の演技だけは、終始下手だった。

具体的な例は出さないでおくが、地下アイドルが出演しているような、インディーズ映画や河崎実の映画であれば、そもそも物語も演技も酷いことが前提になっているから、ネタとして観ていられるのだが、今作に関しては、間違いなく脚本は良くできている作品といえるだけに、残念でならない。

記憶喪失の青年に、自分の人生の意味を見出そうと、必死にもがく。自分にもし子どもがいたら、青年ぐらいの歳になっていたかもしれない。

自分が失ったしまった時間と人生を、青年と過ごし、面倒を見ることで、少しだけでも取り戻せるような気がしている。

それが自己満足や、幻想だと気づいていながらも……という春の複雑な心境がよく描かれている作品なだけに、役者が違っていれば、傑作になったはずだ!!

https://buffys-movie-and-money.com/post-34736/

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Buffys Movie & Money!

の記事から抜粋しています。

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