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ビジョンのマーケットプレイス「CES」2020

CES2020から早々帰国。圧倒的な日系企業の敗北感を感じながら、その理由や課題を考える良い年明けとなった。CESは主催者団体CTAのシャピロ会長が言うように、デジタル化による破壊的イノベーションの時代にどのようにテック企業が社会課題解決に貢献できるかというそれぞれの「ビジョン」を発信する競争の場に変貌していた。CES2020を入口に、2020年はどうなっていくのか考えてみた。

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主催社団体も自らディスラプターであることを強調

主催者も数年前にCEA(Consumer Electronics Association、全米家電協会)からCTA(Consumer Technology Association、全米テクノロジー協会)へ改称。もはやCESは家電見本市ではなく、テック企業なら誰もがビジョンを発信し、その共感の元に資金や優秀な人材、ビジネスアイデアなどの経営資源をかき集める競争に参加するという場所となった。主催者団体が家電業界に留まらず、その他たくさんの業界を破壊的に取り込みに行く行動で、自ら「ディスラプター(破壊的イノベーションの実行者)」となることをアピール。デルタ航空のキーノートスピーチの前に登壇したゲイリー・シャピロ会長(正確にはCEO)の発言が印象的だった。上の写真のイラストが象徴的だ。

CESで取り扱われている分野はますます拡大中

事前にプレス向けブリーフィングで発表されていたCES2020の注目8分野は、5G実用化、AI家電、マイクロLED、セクシャルヘルス、スマートイヤホン、マイクロモビリティ、折り畳みデバイス、プライバシー。これにデジタルヘルス、社会善(ソーシャルグッド)食品、スポーツテック、トラベル&ツーリズムが加わる。企業行動のスタイルとしては、多様性とインクルージョン、未来の労働(単なる働き方改革ではなく)への変革が問われていく。

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家電や自動車そのものにはさほどの興味はないが、社会変革につながる新しいテックは大小問わず話題になる。在庫管理が出来る冷蔵庫、自動調理時代のクッキングアシスタントロボ、ポストスマホ時代を示しているスマートイヤホン、ジェンダー平等と健康志向の性生活を標榜するセクシャルヘルスなどでは、当たり前だがなかなかこれまで実用性に乏しくビジネスにならなかった分野でも、愚直に研究し出展してくるといつかは実現出来ていく分野であり、評価されていく。

誰をどのようにしてハッピーにしたいのか?

今年のCESのオープニングを飾ったデルタ航空の基調講演では、デジタル時代でも旅そのものの重要性を主張。グローバルな相互理解のためには、やはり人々が直接出会い、現場を自分の目で見て実感することほど重要なことはない。しかし旅に関する様々なストレスや環境負荷のことを考えるとそう言っておれないのが現状。それを解決するのが新しいテックとデルタ航空の現場力だというのが年頭言だった。デルタ航空としてはあくまで、既存顧客を中心とした話題に終始した感はあったものの、誰をどのようにしてハッピーにするのか、は明確だった。デルタのお客様をハッピーにするためには、スタートアップの技術も積極的に導入したり、航空運輸以外の周辺(旅の前後)のユーザー体験の飛躍的な向上に力を入れたりすることを表明。環境負荷の問題は一夕一朝には解決しないものの、きちんとその行動指針を明確にした。

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社会善フードは注目分野

今年もフードテック界隈は何かと話題がふつふつと広がってきている。特に代替肉スタートアップの最右翼「インパッシブル・フーズ」は去年もCESにてImpossibile Meat 2.0を材料とした代替肉ハンバーガーを提供し、Engadgetの「Most Unexpected Product」「Most Impactful Product」「Best of the Best」を獲得するしていたが、今年はImpossible Meat 3.0としてインパッシブル・ポークを発表。コンベンションセンター前のブースで豚まんや豚カツを提供するなど大きな話題を呼んでいる。昨年は日本の環境大臣が世界環境を議論するコンベンションに出張したのにもかかわらずがっつりステーキを食べたことをつぶやき失笑を買ったが、ソーシャル・グッド(社会善)を実現するために食分野で課題解決する「フードテック」は公式展示コーナーこそ明確に出来ていなかったが、様々な場所で出展が増えていたとともに、「FoodTech Live 2020」という非公式イベントが開催されていたりした。

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ディスラプターの王様アマゾンの挑戦は続く

CES2020ではアマゾンが自動車産業のブースが集まるノース・ホールのど真ん中に出展していたのが印象的だった。「これからはアマゾンで車を買う時代に」というビジョン。新車も中古車も、ガソリンもサービスもアマゾンがワンストップで提供する「Amazon Auto」「Amazon Vehicle」。キャデラックやエクソンが実証実験に既に参加している。すごいのはZero Lightという自動車購入のカスタマージャーニーを視覚化する技術を提供するベンダーと提携していること。弱みは簡単に強みに出来るオープンイノベーション例。様々なカテゴリーで破壊的なイノベーションを導入し、産業をディスラプトしていくディスラプターの挑戦は自動車のユーザー体験を変えるところにまで及ぶ。

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二大レガシー企業のビジョン勝負

日系企業ではソニーの自動運転車の発表と、トヨタの豊田章男社長が自ら語ったWoven City構想が話題を呼んだ。私としては少々物足りないとは感じたものの、ポイントのみまとめてみた。

ソニーが自らの苦手産業であった自動車そのものを展示出品したことは興味深い。自動車部品大手Magnaと大型提携し、これもオープンイノベーションで自社の苦手部分を補った好事例。弱みはもはや簡単に克服出来ると言う考え方。それをビジョン発信する勇気と、実行力を示していた。現在の顧客企業である自動車メーカーに対し過剰な忖度をせず、将来ヘ挑戦するビジョンをまず発信すると言う経営者のリーダーシップを発揮していた。

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トヨタは自動運転時代の到来と共に、先進国を中心に現在のような自動車の販売台数がこれ以上増加しないと言う未来を前提に、どのような分野で自社が社会変革を目指すのかを明確に、17分間ではあったが経営者本人がラスベガスまで足を運び自ら語ったことに意味があった。トップ経営者がこれが出来ないで何の仕事をするのか?と言うくらい当たり前で、なかなか出来ない仕事ぶり。マイクロモビリティーを含むスマートシティー構想は特に新しいものが無いと言う批判もあるが、トヨタ一社でこのビジョンを実現すると言うメッセージではなく、様々なパートナーに呼びかけともに実現していこうと言う考え方だった。新しい目的(パーパス)のための、新しいエコシステムの構築を宣言したということが2020年代を先取りする企業行動だ。

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ビジョンのマーレットプレイス

CES2020開催の裏側で、米軍はイラン空爆、その後の旅客機撃墜のニュース。日本ではゴーン氏出国のニュースで閉鎖的な日本社会を露呈。そのコントラストがより際立たせたのは、多くの日本企業の経営者の狭小な視野と発言力。日本語の新聞だけを読み、日本人としか会話をしない経営幹部たちの間だけ生きている典型的なリスク例となっている。事実上の世界共通語となっている英語での議論や情報発信が飛び交うグローバルな社会で、むしろ日本語だけのコミュニケーションを前提とした人脈や情報収集に依存することは「もはや目の前にある危機」でしかない。

CESの魅力のひとつには、世界各国からテックで社会変革を目指す多くの人々が、企業人であれスタートアップであれ、研究者であれジャーナリストであれ、この期間この都市に集まってくることである。様々なテックや事業アイデアを持ち寄り、目指す社会を議論することで、今年の活動が見えてくるところが面白い。そういう意味で、企業から出張している経営幹部もサラリーマンも、自社の社員だけで固まっているのは本当にもったいない。

今やCESが売上を上げるための見本市ではないのはもう数年前から続いている当たり前の事象であり、ビジョンを発信しない企業は資本市場や顧客の選択眼などから淘汰されると言うことを前提とした「ビジョンのマーケットプレイス」であった。そこではアメリカで発売する商品・サービスかどうかなんて全く関係ない。

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そのために各国の大企業やスタートアップが揃いも揃ってこの年初のラスベガスに参加し、ビジョンの再構築、分かりやすく目を引く発信などに細心の注意を払い、また費用も十分にかけながら、経営戦略の一端として「強く分かりやすく、共感の得られる」ビジョンを発信している。決してブランド部門や宣伝部門の費用の無駄遣いとか見られておらず、企業によっては最重要の戦略発表の場として位置づけているところも多い。「ビジョンのマーケットプレイス」での戦いはそれほど厳しく、また重要だ。

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2020年代はビジョン発信力の競争の時代

2020年代は、ビジョン発信力の競争の時代がいよいよ本格化する。CTAがCES2020で打ち出したキャッチコピー「Are you CES ready?」 はつまり、もう始まったビジョン発信力の競争の2020年代に、あなたの企業は、そしてあなた自身は「準備が出来ている」のか?と問いただしている。

Are you vision-driven ready?

もう一度言う。あなたの企業は、そしてあなた自身は、「ビジョン発信力競争時代」に準備が出来ていますか?
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