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中ライスくん(2)

50代と10代とじゃあ
考えることもまるで違うんだねぇ。

じぶんの欲ばかりを押し通すひとより
目の前のひとに幸せになってほしい。

そう思うのはキレイごとなんだろうか?

ブォォォォオ…

雨でも中ライスの彼は来る。
今日は砂埃じゃなく、水たまりのしぶきが飛んでいた。

「唐揚げと中ライス、お願いしまーす!」

いつも通り、注文をもらう前にオーダーを厨房に投げる。

「大ライスもあるからねー」

懲りないオバちゃんたちは
ケタケタ笑いながら手を動かしている。

「ちーす、」
「いらっしゃいませー!」

常連客に無駄な心配はかけまいと
いつものスマイルを取り戻す。

そうよ、
森七菜もいつでもスマイルって歌ってたじゃないの。

「唐揚げと中ライスお願い」

「はい!いつもありがとうございます!」

レジ台のビニールシートの上に乗せた弁当を差し出し
いつものやり取りをする。

「カマちゃん!カマちゃん!」

厨房から明らかにからかいの視線を感じ
振り払おうと彼に話しかけようとする。

「大丈夫?後ろ、呼ばれてない?」

話しかける前に話しかけられた。

「あっ、いんですいんですー。
気にしないでくださーい」

「そう?カマちゃん、今日ちょっと元気ない感じ?
なんかあった?」

ズンっと胸の奥がなんだか響いた。
心配させてどうすんのよー!!

ひとさまに迷惑をかけてはいけないセンサーが
瞬時に働いたけどダメだったようだ。

「あはっ、なんでもないですよー!
 いつもありがとうございます、また待ってますねー」

「…そう?うん、じゃあ、またねぇ」

雨の中小走りで車に戻る彼を見ながら
なんとももどかしい気持ちになる。

バンっとドアが閉まる音を待っていたかのように
奥から声が上がる。

「ちょっとー、カマちゃーん、期待してたのにー、
 大ライスーーー」
「そうよー、大ライスのほうが儲かるのにねぇ」

神経腐ってんのかおめーらは。

「あたし、言いませんからねー」


彼はそんなこと、求めてないんだから。

店の金より、お客様の心でしょ。


ーーー


1日休みを挟み、バイトに出た。

あー、今日もオバちゃんたちの面倒に巻き込まれるのか―
レジ台での観察とか、お客さんとのやり取りは楽しいのに、
こういう同僚のあれやこれやは正直めんどくさい。

「おはよございまーす」

気だるさが全面に出た。

「あ、ちょっと鎌田さん、
昨日中ライスくん来なかったのよ」

「そうそ、初めてじゃない?どうしたんだろうねぇ?」

え・・・来てないの?

あ!
大ライスがどうこう言ってたのが聞こえてた?
それで気を悪くしたのか?

悲観から怒りに変わるのは早かった。

「もー、みんなが大ライスって言うからじゃないですかぁー?」

「何よそれ、私たち悪者じゃない」


でも、怒りは長続きしなかった。

どうしたんだろう?
たまたま、だよね?


時計が12時を指し、次々に車が停まる。

そわそわしながら、
彼の車が来ないか耳を澄ませる。

だけど、

時計だけがぐるぐると周り
あの砂埃まう車は、とうとう来なかった。

「どうしたんだろうねぇー。二日もこないって。
 体調でも崩したんだろうかねぇ?」

もりもりのポケットに手を突っ込みながら
橋本のオバちゃんがでかい独り言を上げた。

体調?

昨日雨だったからか?


それとも、、、

本当に気分を害しちゃったのかな・・・

ほかの店に浮気しちゃったのかな・・・


あ・・・

お弁当作ってくれる人が、できた



ぐっと生唾をのみ
それ以上のことは考えないようにした。


考えないようにした自分にハッとし

首を小さく振った。


違う違う、

そんなんじゃない。


あたしはお客様のことを考えるのが趣味で
観察をするのが好きなだけ。


だけ・・・。





つづく

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