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元世界チャンピオンを私はタグポンと呼んでいる ボクサー田口良一さん

 ある美容メーカーが美容師さんとのコミュニケーションツールとして贅沢なフリーマガジンを出していた。残念ながら、廃刊になったけれど。私はそこでさまざまなアーティストやアスリートへのインタビューを担当していた。

 「強カワイイ」とファンから呼ばれていたWBAとIBFというボクシング団体のライトフライ級、元世界統一チャンピオン、田口良一さん。私はかねてからボクシングファンだったことから、ワタナベプロの知人を通してインタビューをお願いしたのは、2017年。もう6年前のことだ。

 インタビュー時はWBA世界チャンピオンとして5度目の防衛を果たした後で、年末に行われるIBFとの統一戦はまだ未定の頃だった。

 切れ長のイケメン青年の田口さんは、話し方は優しいけれど、目にはキビシイ光を宿した、精悍な顔の30歳の青年だった。

 彼は高校時代にボクシングを始めて、20歳でプロデビュー。なかなか勝ち上がれず、社会で活躍し始めた友人たちと自分を比べて、苦しい時期が続いたという。そんな時出会ったのが「10年続ければ、何かが変わる」という言葉だった。これは吉本隆明氏の一文から、誰かがアドバイスしたものだろう。

 私がつけたコピーは「10年やれば変われる。その言葉を信じた」。そして、28歳でついに世界チャンピオンに。ボクサー人生9年半の道のりだった。2017年の夏、WBAのライトフライ級6度目の防衛を果たし、年末にはWBAの7度目の防衛と、IBFとの2団体統一世界チャンピオンとなった。

 田口さんは2013年に今や誰もが知る世界のモンスター、井上尚弥と戦ったことがある。判定で負けはしたが、井上尚弥との対戦相手の中では12ラウンド戦い抜き、KO負けしなかった唯一のボクサーだ。

 「モンスターと闘った男たち」というテレビ番組の中で田口さんは語っている。「井上君と闘った経験があるから、どんな相手も怖くない。あの井上君の強さを僕は知っているから」と。

 2019年、彼は惜しくも敗退。「33戦27勝12KO」という戦歴で引退した。
やりきりました」という言葉を最後に。

 そして、その後、なんと私が入っているスポーツジムで田口さんに再会。ボクシングレッスンのインストラクター を彼が務めることになったのだ。

「私のこと覚えていますか?」「えーと・・・」。やっぱり、覚えていなかった。その後、掲載誌を見て、「あー、あの時の!」となったのだけれど。私って、印象に残らないタイプみたい。

 いまでは、あの頃の顔とは似ても似つかない、優しい眼差しのふんわりとした青年になっている。ジムのボクシングメンバーみんなに愛され、愛称「タグポン」と呼ばれている。「なんか別人みたい」と言うと「あれは良一、ボクは良二」なんて冗談を飛ばすお茶目なタグポン。2団体統一ライトフライ級元世界チャンピオンが私の友だちで先生なのと、ちょっと自慢してみました。


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