黄昏は青く

 目に映る全てのものが眩しく笑っているように感じた。思わず瞼を閉じて、暗闇に縋りたくなるほどの、鮮やかな街並みはいつも私に、目眩という手土産を寄越してくるのだ。拒むことは出来なくて、鮮やかさと眩しさで視界を巻き混ぜながら、海月のように生きていた。
 ある時、いつものように目眩の手土産を貰おうと外に出ると、昨日までの風景が全て幻だったみたいに、街は表情を捨てて、静けさと硬さ、冷たさだけがただ広がって、私の、たったひとりの呼吸音だけがぶつかって落ちていく。本当はきっと、街は変わらず鮮やかで眩しいのだけれども、私の神経はそれを捉えてはくれなかった。抹消の遠く遠くで、喧騒と副流煙の匂いを感じるだけだった。当たり前の風景が、なんの音沙汰もなしに散り散りになっていくその中で、心がピンと張り詰めていくのがありありと感じられた。まるで、真綿が呼吸を奪っていくかのように、心は張り詰め、落ちていく。冷たく青い黄昏目掛けて落ちていく心は、一層強く輝くけれど、最後には気の抜けた声で歌いながら鼓動を手放してしまうのだ。まだ、鼓動とは共に歩んでいきたいから、自分は今、おそろしい所に居るのだと、何度も警めながら頭を降って手足の思考の痺れを振り払う。アスファルトの感触を確かめるように、しっかり踏みつけて歩いていく。
 青い黄昏は私の中で、私の鼓動と綺麗な声の記憶を奪おうと、静かにその時を狙っているのだ。青い黄昏の恐ろしさを知った私は、はやる好奇心を本棚の奥深くにしまい込んで、目眩の中で生きていく。

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眠れない夜に

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