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BTS「Permission to Dance」の賛否からこの曲の本質を考える

BTS「Permission to Dance」が「自分向きの曲じゃない」と感じた人たちについて、それは「このMVの世界に自分はいない」と感じたことが一因にあるのじゃないか、と、わたしは思った。

わたしは、実は、その気持ちが分かる。明るく、輝く人たち。正しく、健全で、ハッピーな人たち。充実したライフ。陽気。パーティーピープル。この世界にわたしの居場所は描かれていない。だいたいダンスは踊りたいと思わないし、人前で踊るなんて絶対に無理。そう人もいるだろう。

…なるべく誤解を生まないように、できるだけ自分の気持ちを丁寧に書けたらと思う、わたしは、BTSの新曲が出るのを今か今かと待ちわびて、楽しむ用意はできていた、しかし、心からこの曲に感動し、喜ぶ人たちを横目に見ながら、自分の中に生まれたギャップを、聴けば聴くほど悲しくなるのを、あるいは落ち込むのを、どう扱い、どう考え、どう自分を導いたら良かったのだろう。わたしは自分のことを長い間ずっと思想的にマイノリティだと思ってきたし、今もそう思っているが、マイノリティの目線から、この曲を聞いて感じたギャップを、腑に落ちるところまで考えることができたので、この件について感じることがある人たちと共に、一緒に考えることができたらと思う。


この楽曲の最大の音楽的特徴

まず、この曲の最大の特徴は、「マジョリティに最も抵抗なく受け入れられるもの」ということを最優先事項に置いた、ひっじょーーーーーに、稀に見る、音楽を主体的にやっている人ならのけぞるレベルの、徹頭徹尾一貫して王道だけを攻めに攻めた、「ザ・王道」の歌謡曲である。

つまり、「聞いたことのある」「耳馴染みの良い」「違和感のない」と感じる要素だけを使って、マジョリティ、大多数の人が「普通に聞いて普通にいい曲」と感じるように作られている。

だからもしこの曲を聴いて「いい曲」だと思ったなら、あなたは普通です。マジョリティです。

思わなかった人は…ようこそ!マイノリティの星へ!笑

パクチーは…だめです。王道の歌謡曲は本当にだめです…。ごめん…ていうかわたしは悪くないけど、そういう人もいる。そういう人は、割合でいうと少ないです。わたしに積んでる計算機だと、8:2くらいでしょうか。でも音楽やる人の中なら、普通の人より割合は多いと思うけど。音楽やる人の中だったら5:5か、4:6で逆転するかな、どうかな。


彼らが「王道の歌謡曲」にトライした目的

そもそもBTSを好きになった人たちは、その「好き」の要素の中に、彼らの非ポピュラリティ、つまり普通とは違う、普通のアイドルと違うという点が多かれ少なかれあるのではないでしょうか。普通の人が「それはそういうものだから」と目を瞑って自分を納得させる社会の様々なことについて、彼らは目を瞑らなかった。普通のアイドルが言わないことについて、彼らは語り続けた。彼らは韓国の一般的な青少年からもマイノリティの道を選び、一般的なアイドルからもマイノリティのスタイルを選び、そこから見る世界について、自分たちの言葉で歌い続けた。

彼らを好きでいる人たちの中に、「彼らがマイノリティを代弁している」「マイノリティである自分に寄り添ってくれている」と感じる人が、一定数いるであろうとは、言えるのじゃないかと思います。そしてそれを表現する彼らの音楽スタイルも、相応の癖があるというか、エッジが、あった。そんな彼らの曲想の個性に惹かれた人もいるでしょう。

「マイノリティに属する人々が、僕たちという存在からエネルギーと勇気を少しでも受け取ってくれたらと思っています」
『Rolling Stone Japan vol.15』より 参考

ナムさん(RM)は自分たちを「アウトサイダー」だと言う。彼らが(おそらく人種に関して)マイノリティとして味わってきた苦悩、抑圧、蔑視、差別、障害を、受けてそれでも立ち続けることによって、彼らは、世界各国の同じ苦悩を感じている人たちに、立ち続ける勇気を受け取って欲しいと言う。彼らのスタンスはずっと、マイノリティの視点から、マイノリティに向けて、そして全体に向けて、メッセージを発してきた。

そして今回、BTSを「マイノリティ」として扱ってきた「マジョリティ」「大多数」「大衆」に対して、最もアプローチすると思われるスタイルを用意した。

このことは彼らにとっても、彼らの歴史においても、非常に大きなチャレンジだったと思う。

何のために?

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偏見をなくすために。


BTSに偏見を持つ人たち

BTSを彼らが自ら言うようにマイノリティとしたとき、彼らが今回の曲でターゲットにしたのは彼らに偏見を持つ人たち、BTSを積極的に聴かない人たち、を含めた世界のマジョリティです。

だからそもそも、「Permission to Dance」は、BTSのファンのうちのおそらく2割くらい(そんなにいないだろうか)なんじゃないかとパクチーが考える、BTS独自のメッセージのマイノリティズムや、彼ら独自の音楽スタイルのマイノリティズムに共感し、もともと歌謡曲を嗜好しない、パクチーのようなマイノリティグループに向けて書いているものではないのです。

だからこの曲が自分向きでないと思ったあなた…うん!仕方ない!

でも気持ちを切り替えて他の曲を聴きに行く前に、もう一歩進んで、彼らが大衆に向けて、偏見を超えて、彼らのコアさを愛する一部の人たちが好まないリスクを負ってまで、何を実現したかったか考えてみよう。(注:自分はコアファンだけど、今回の曲想も好きだと言う方。コアファンの8割の人たちは好きだと思います)。

BTSを好んで聞かない人たちを、世界のマジョリティとします。「アジアの小国のボーイズバンドに、聞く価値のある曲はない」と考える人たちのうちの8割が、「いい曲」と感じる曲を、今回彼らは書きました。

どうしてでしょうか。

彼らはそんな、世界に進出して自分たちに向けられたマジョリティの一部からの偏見に、差別に、抑圧に、侮蔑に、マウントに、ずっと怒りを感じていたのではなかったか。「ザ・王道」の歌謡曲を極めたスタイルを使ってまで、マジョリティに何を伝える必要があると思ったのだろう。彼らはその怒りを、どう音楽に変換したのだろう。どんなメッセージに変換することができたのだろう。何を伝えられると思ったのだろう。マジョリティがこの曲から知り得ることはなんだろう。

わたしたちはどうやって、どこからそのメッセージを知ることができるだろう。

墜落。着地。朝日が昇るまで。瞳の中に自分自身を見つけた人たち。ダンス。体が持っている叫び。体を動かす思い。

あなたの許可はいらないんだ。マイノリティが自分の望む通りにダンスを踊ることに、マジョリティの許可はいらないんだ。あなたに知っておいて欲しい。あなたにその権利があるように、マイノリティにも同じ権利があることを。許可。誰から誰に。許し。許されること。権利。自由。この曲のタイトルは「ダンスの許可」。「許可」。「許可」?

マイノリティがマジョリティの中心に切り込んで叫ぶ。わたしたちがそれぞれ、固有の声で、固有の歌を歌うことを。相手のエリアを侵害しないことを。侵されてきた、自分の大切なエリアを、尊厳を、尊い夢を、踏みつけられ、なじられ、汚物を投げつけられ、わたしの中には輝く光があるのに。それを知っているのに。何の権利があって、それをつまらないものだと言えるの?何を知って、それが役に立たないものだと言えるの?何を根拠に、これが大成しないと言い切るの?「permission」。あなたからわたしに、何の許可もいらない。何一ついらない。何一つ許してくれる必要はない。自由を許可してくれる必要はない。わたしが持っているものは、あなたも持っているもの。あなたが持っているものは、わたしも持っている。マイノリティ、マジョリティ、その線引きはいらないね、ただただあるのは個、個、それぞれの感じ方、考え方、色とりどりの、等しく異なった、価値がつけられないと言う意味で等価な。だからやめような、あなたはこうあるべき、あなたはこれはしてはいけない、あなたがこうするなんて考えられない、あなたがこうするのは間違っている、他人がどうあるべきか、ジャッジするのはやめような、他人がどうするべきか、あなたが考えるのをやめような、「そういう人もいるね」。それでいいじゃないか。そこに偏見を超えた世界がある。彼らの夢を手伝おうよ。「偏見をなくしました」。偏見をなくしてみようよ。自分を、それが実現した状態に置いてみようよ。

マイノリティとマジョリティの境目。マイノリティの中にあるポジティビティは、この世界の重要な光だから。この世界の重要な希望だから。マジョリティの人たちの中にある光もそうだ。自分の中の光を輝かせて生きることは、世界の全てに影響しているからだ。ひとりひとりが。マイノリティマジョリティ関係なく。真実に向かって。最初に突破口になるのはマイノリティの光だ。自ら望んでマイノリティになる人はいない。あなたがマイノリティなのは、その光が強い輝きを持つように、そのために逆境に置かれることをきっと光が選んだのだ。時が来るまで。強い風の中にも、理解者がいなくても、あなたは自分の光を感じて生きてきた、それが消せないことを知って生きてきた、それを生かさずに生きることが罪深いことを知っている、十分な強度を持つことを目的に、光はその場所を選んだ。来たる日のために。あなたがいつか、その強い光を役立てる日々のために。

その強い光が必要になる世界線が必ず来るのを知って、光がそのための準備をあなたにさせてきたことを知っているね、そのための準備ができる環境に置いたことを知っているね。だから、逆境にいても、理解者がいなくても、自分の光の言うことに耳を傾けて。「あなたはこうするべきだ」「あなたはこう考えるべきだ」「こんなふうに感じるなんて、考えらない」。自分にそれが向けられた時、自分がそれを発する時、その時は、このことから自分は何を知ることができるのか、能動的に探してみて。きっと宝物があるはずだから。彼らが見つけたものと同じもの。怒りを変換させた、祈りの輝き。彼らがマイノリティの立場で、ずっと研ぎ続けてきたもの。鋼のように、焼かれ、叩かれ続けて、磨かれたもの。決して失わなかった中心の光。その光が囁く未来。

彼らがそういう人たちであるということ、それはどんな曲想を纏っても変わらない。


「The A Team」と「Bad Habits」

「Permission to Dance」の楽曲提供をしたエド・シーランについて、彼は路上生活中に出会った、シェルターで保護されていたドラッグ常用者の女性についての歌(The A Team)でメジャーデビューしている。今やキラキラの素晴らしい功績をたくさん持っているが、16歳から友人宅や路上に寝泊りしながら音楽活動をし、メジャーデビューをした叩き上げの実力派ミュージシャンだ。芸術一家だった彼は幼少から音楽教育を受けており、傍目にはもっと楽な道もあったろうと思われる、でもそうじゃない方向に惹かれた。本質的に、弱者に、マイノリティに寄り添う人なのかなと思う。若い彼は、自分にとっての真実に近いものが路上にあると、そこで出会うものの中に、自分の魂のバイブレーションを高めるものがあると、感じていたのかもしれない。

3つのギネス世界記録を獲得した「Shape of You」はわたしも好きだが、特にこのライブ(Ed Sheeran - Shape of You (Live on the Honda Stage at the iHeartRadio Theater NY)、ルーパーペダルを使う音楽家はかなりマニアックな部類に入ると思う(そして好きだ)、彼が音楽そのものになっているところを見て、わたしは完全にこの人を、音楽家として一方的に信頼してしまった。

そしてつい先日、育休(?)を経て3年ぶりに新曲を公開したのが6月25日。わたしはこの新曲「Bad Habits」のMVに、「Permission to Dance」との近似を感じた。この二つの曲は同じような時期に準備されたと推測できる、二つの曲で対(つい)になる要素、「朝日が昇る」。そして「子供」「風船」。

「Bad Habits」のMVは、何だか訳が分からないくらいに、シュールな「負」(他に適当な言葉が思いつかん)。基本ネガティブだけど、凄惨という感じでもないし、陰と言うには勢いがある分、清々しさすらあるというか。しかし「これは…」というシンボルがいくつも見られる。MVのエド・シーランは公式に吸血鬼という設定らしい。朝日が全てを一掃する。「陽が昇るまで起きていよう」「まだ終わってない」「もう一度」。

両者は成功者だが、マイノリティの視点に立つ人だとわたしは思う、エド・シーランもBTSも。そしてクリエイターとして、心から信頼する(わたしに信頼されても誰もどうもないと分かっているが)。この両者が、あえて、マジョリティに最も効果の高い音楽様式を意図的に使用した。わたしは、これがとても意欲的な、チャレンジングな、劇的な、両者による「作戦」だったように感じる。

音楽的好みは置いておくとして、「Permission to Dance」のMVのメンバーたちは、ひっじょーーーーーーーーに素晴らしかった。本当に、これまで、かつてない程、彼ら自身がそのまま映し出されていて、内側の美しさを見せてもらっているようだった。だから彼らの試みが、成功して欲しい。彼らの意図が、実現して欲しい。心からそう思う。

そう思って、もう一度、「Permission to Dance」のMVを見てみる。

世界の、彼らの音がまだ訪れてない土地に、初めて彼らの曲が流れ、「Permission to Dance」はその土地にひとつ、ひとつ、花を咲かせていく。


そんなイメージが浮かんだ。


追記:
わたしが聞かせない限りBTSを聞かない旦那くん、「そういえば新曲聴いたことなかったな」と言うので「Butter」(音だけ)と、「Permission to Dance」(MV)を見せた。Permission to Dance→「すごくいいと思ったよ、時期的にも、メッセージ的にも」Butter→「何も思わなかった」

…ナムさん!試み、成功してるよ!偏見を超えたよ!少なくとも日本の片田舎の島の小さな家の小さな核家族の一件においては!


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