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掌編 土曜の午前中

私にだって、ケンジに言えないことはあるのだから、ケンジにも、私に言えない秘密はあるのだろう。ケンジの中には、何か暗いところがあって、それが時々、膨らむ。そりゃあ、曇りがない人なんて、いないと思うけど。

ケンジを送り出してから、三日分の、彼の洗濯物を片付けた。大したものはない。ワイシャツは週に一度、クリーニングに出すみたい。パンツとシャツと靴下、ハンカチとタオルが三つずつ、それから部屋着のTシャツが、ベランダで揺れてる。

ミーティングがある日、ケンジは帰りに駅前で、ドーナツを買ってくる。あの人、お酒を辞めたら、甘いものが好きになったかも。

明るい、日の光をどれだけ浴びても、ちっとも影ができないようなものごと。それだけで十分に、暗さをどこかに流すことができる人と、ちょっと痛いような、うしろめたいようなことじゃないと、なんの意味もないって人がいる。

私は、どっちの人かな。ケンジを守れるのは、どっちの人なのかな。

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