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ますむらひろし「銀河鉄道の夜 四次稿編」:全4巻の集大成

ますむらひろしの「銀河鉄道の夜 四次稿編」の3、4巻がいつのまにか発売されていたので購入しました。
1、2巻は買ってあったのですが、続きは2025年までに発表する的な感じだったので、まだまだ先なのかと思っていたのですが、2023年中に完成していたようです。

ますむらひろしは「アタゴオル物語」などのファンタジー漫画の作者です。ちなみに、「アタゴオル物語」は色々なバージョンがありますが、私はマンガ少年で「ファンタジーゾーン」として連載していた頃の初期バージョンが好きです。

ますむらひろしは、宮沢賢治の童話の漫画化でも有名で、「銀河鉄道の夜」は今回も含めると3バージョンを書いています。

宮沢賢治の銀河鉄道の夜は、未完成な上、原稿が無くなったり、原稿にページ番号が無かったり、修正が繰り返されていたりで、色々なバージョン(一次稿~四次稿)が存在するようです。最近では落ち着いているようですが、昔だと出版社によってずいぶんと異なっていたようです。私が持っている講談社、筑摩書房、新潮社、岩波書店の各文庫本もそれぞれ異なっています。

ますむら版銀河鉄道の夜ですが、1回目(1983年)は、四次稿を漫画化したバージョンです。午后の授業から始まり、銀河鉄道で旅をした後、現実に戻ってカムパネルラの死を知るという一番一般的な流れです。

2回目(1985年)はブルカニロ博士が出てくる三次稿の漫画化です。この稿では、はじめの方の午后の授業や活版所、家のシーンはなく、一緒に旅をしていたカムパネルラがいなくなった後に「おまえはいった何を泣いているの。」のセリフから始まる男の人(ここでは歴史家としておきます)が出てくるバージョンです。現実に戻った後にはブルカニロ博士が出てきて、実験であったことを告げます。ジョバンニがカムパネルラの死を知る場面もありません。

さて、3回目の新作では、全体としては1回目と同じ最終形(四次稿)の漫画化です。ただ、歴史家が出てくる場面は含まれています。最終形として読む場合は、この部分を飛ばして読んでくださいの注釈が入っています。また、天気輪の丘に泣きながら走って戻るという行方不明の原稿の部分も漫画化していて、本編とは別に最後の解説内に掲載されています。

四次稿が元になっていますが歴史家(幻想第四次におけるブルカニロ博士?)が登場する場面も含まれています。

四次稿ではばっさりと削除されてしまったこの歴史家がジョバンニに語るシーンですが、「その実験の方法がきまれば、もう信仰も化学と同じようになる」「みんながカムパネルラだ」などの重要な場面は描きたかったようです。この部分は、私も好きな場面で、今回読んでみてファインマン物理学(岩波書籍)の「知識はすべて実験によって検討される」とか、「すべてのものはアトムからできている」などの言葉を連想しました(個人的な勝手なイメージです)。

今回の「銀河鉄道の夜 四次稿編」では、銀河鉄道の座席をロングシートにした点が大きな特徴だと思います。これまでは、松本零士の銀河鉄道999と同じように、2名の座席が向き合うボックスシートでしたが、当時の岩手軽便鉄道はロングシートだったことから、今回はそうしたようです。「千と千尋の神隠し」の列車もロングシートでしたね。

宮沢賢治がどちらの座席をイメージしていたかは分からないようですが、ジョバンニとカムパネルラの前に色々と現れる人と交流するという点では、ロングシートの方が自然な感じがしました。ただ、沈没船(タイタニック?)で死んだ姉弟がジョバンニとカムパネルラを挟んで別々に分かれて座るという点はちょっと不自然さを感じました。また、鳥捕りが消えたときに燈台守が「二人の横の窓の外をのぞきました」という表現があるので、ボックスシートのような気もします。なんにしても、ロングシートにして描くというのはチャレンジングな新しい試みだと思いました。

「初期形(ブルカニロ博士篇)」でのボックスシート
「四次稿編」でのロングシート

また、これまではジョバンニとカムパネルラは列車の進行方向に対して左側の席に座っていましたが、今回は進行方向に対して右側の席に変わっています。結果として、車内の二人が写るシーンでは、列車の走っている方向が、右方向から左方向に、読者のイメージが変わるように思いますが、これは何んらかの心理的な効果があるのでしょうか。

何にしてもこの「銀河鉄道の夜 四次稿編」、カラーページもふんだんに使った4分冊の豪華版です。どのページをとっても1枚のイラストとして額に入れて飾りたいような作画ばかりのすばらしい出来映えです。

ブルカニロ博士が持っている地歴の本のページにも手を抜いていなくて、しかもエジプト風の猫っぽい歴史書になっていてうれしくなってしまいました。

「初期形(ブルカニロ博士篇)」での地歴の本
「四次稿編」での地歴の本

ただ「 四次稿編」はとても素晴らしいことは間違いないのですが、漫画としては読んでいてややトゥーマッチな感じもしました。これまでの3つのバージョンのうちの漫画としてどれが好みかというと、自分としては2作目のブルカニロ博士編です。全体的なキャラクターのかわいらしさもあって好きですし、一冊にまとまっているので、前半と後半を行ったり来たりして見るときも見やすいです。ただ、これには、四次稿にある午后の授業、自宅の場面(お姉さんが作っていったトマトの料理が何なのかとても気になる)、銀河鉄道から戻った後のカムパネルラの死を知る部分などがないのは残念な点です。

ますむら版銀河鉄道の夜は、杉井ギザブロー監督によるアニメ映画化もされました。公開当時は何で猫なんだ?とか、猫にする必要があるのか?など色々言われていたような気がしますが、猫のジョバンニが好きです。この映画の細野晴臣によるサウンドトラックアルバム盤も名盤です。今でも映画も音楽大好きな作品です。

ますむらひろしは宮沢賢治の他の童話も漫画化しています。「雪渡り」「猫の事務所」「風の又三郎」「グスコーブドリの伝記」は、「銀河鉄道の夜」より好きな話です。


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