私の『檸檬』
『Lemon』といえば
最近の人が『Lemon』といえば、米津玄師のこの歌だろう。
https://www.youtube.com/watch?v=SX_ViT4Ra7k
ほんの少し前まで、『檸檬』といえば、
梶井基次郎の『檸檬』だった。
私にとっての『檸檬』も、梶井基次郎の『檸檬』。
この小説は、
「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧(おさ)えつけていた」
から始まる大正時代に書かれた短編小説。
作中の私は、「みすぼらしく美しいもの」にひどく引きつけられる。例えば、「裏通り」にある「向日葵」、「果物屋」。
あるとき、「果物屋」に珍しくあった1つの「檸檬」を買う。
「えたいの知れない不吉な塊」をたった1つの「檸檬」で解消されるわけもないのだけれど、
「――つまりはこの重さなんだな。――」
「なにがさて私は幸福だったのだ。」
「檸檬」と一体化して、一瞬幸福になる。不吉な塊(=憂鬱)は、檸檬(=美しいもの)と同じになる。
そんな瞬間が長く続くことはなく、すぐに色あせていく。かつて好きだった「丸善」では、ひとたまりもない。それは疲労から?それとも。
私はこの本で、
えたいの知れない不吉な塊(=悩み)とは、本人しかわかりえない
と思い知った。
私の檸檬
コロナ禍になって、自分の慣れ親しんだ店がなくなるかもしれないと思って、なるべく地元で購入できるものは購入したいと思っている。
でも、何となく不吉な塊に囚われたとき、川崎の「丸善」に行く。
そこでオムライスを食べながら、小説『檸檬』を読む。梶井基次郎を気取り、少し不吉な塊を破壊する気にする。
毎回食べるのは、オムライス。形が檸檬型だから。
このオムライスには、ハヤシライスソースがかかっている。このハヤシライスソース、明治の初期、丸善創業者の早矢仕有的が考案、そこから名付けられたいわれる(所説ある)。
ハヤシライスソースといえば甘いケチャップ味を想像するが、こちらはデミグラスソース。オムライスのライスは、白いライス。だから、ハヤシライスwith卵という感じ。兎に角、文明開化の味、私の温かい、檸檬。
新たな檸檬
そんなパワーフードに、更なるパワー発見。
「檸檬ケーキ」。生の檸檬が丸ごと使われた風味のある、シブースト。
シブーストの下には、生の檸檬。美しい黄金色。
梶井基次郎の買った「檸檬」が私の体を治める。
変にくすぐったい気持ちが私を微笑ませた年末の破壊。
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