「お母さん」を頑張れることは当たり前じゃない~お母さんバトン徳嵩佳菜さん~
赤ちゃんの母乳吸啜メカニズムに倣う乳房ケア「BSケア®」に出会ってくれたお母さんたちの、出産と母乳育児の物語。お母さんの言葉で、綴っていただきます。
今回ご紹介するのは、助産師でもある、徳嵩佳菜さんです。
明日はもっといいお母さんになれますように
総合病院勤務助産師で、ただいま三男の育児休暇中の徳嵩です。
1年間、時間がたっぷりあるこの休暇中には「手作りのお菓子や小物を作ってあげたい」「勉強を見てあげたい」「子どもたちと目一杯遊んであげたい」と思いつつも、現実は毎日の家事育児に追われ、子どもたちを叱っては自己嫌悪の毎日です。
ですが毎日の子供たちの笑顔・成長に癒され「明日はもっといいお母さんになれますように」と願って眠りにつく日々です。
3回目、最後の授乳生活の再開
平成31年4月28日、平成駆け込みで三男を出産し、私の人生できっと最後になるであろうおっぱい生活が再開しました。
出産後に分娩台で三男との初めての授乳をした時のこと。
「これこれ!おっぱいあげるのは最高!気持ちいいな~。後陣痛でさえ愛おしいわ。」と感じました。
それと同時に、長男・次男とのおっぱい生活の懐かしさや、寺田先生に初めてBSケアをしていただいた時の心地いい感覚がすぐに戻ってきたことを、今でも鮮明に覚えています。
ただ優しい言葉かけがあれば
長男を出産した頃。
産後1か月で初めて白斑が出来てしまい、痛くて痛くて泣きながら長男におっぱいを吸わせた事を思い出します。
すぐにベテラン助産師さんがケアをしてくれましたが、
乳頭をゴシゴシとしごき上げ、白斑部分を強く摘まむようなケアでした。
症状は改善しましたが、そのケアが本当に痛く、いじめられているようで切なかったです。
それと同時に「助産師なのにセルフケアが出来てない証拠よ」「上手く授乳できていない証拠ね」と言われ、産後1か月の私の心は深く傷付き、それと同時に助産師としてのプライドも酷く傷つきました。
私自身も、は「白斑を早く治したい」「痛さ、辛さから解放されたい」とは思っていました。
その時の助産師さんも、傷つけるつもりで言ったのでは無いのかもしれないけれど、ただ優しく接してもらうだけで、痛さや辛さも癒されていたのでは・・・と、今になっては思います。
「こんなに痛いのによく授乳していたね」「赤ちゃんのためによく頑張ったね」と一言優しい言葉をかけてもらえていれば、それだけで救われていたように思います。
自分も産後のお母さんを傷つけていなかった?
退院後も、夫や実母からの育児のサポートはあったものの、
それまで仕事をしてきたせいか、家に子供と2人きりで過ごす初めての育児は、どこか社会から放り出されたような感じや孤立感がありました。
そんな酷い?(笑)体験をして、自分が今まで出会ったお母さんや赤ちゃん、ご家族への自分の接し方を思い出し、申し訳なさの気持ちでいっぱいになりました。
「自分もこんなケアをしていたのかな」「お母さんたちを癒せていたのかな」「お母さんや赤ちゃんの気持ち真剣に考えられていたのかな」「きっとその場しのぎの関わりをしていたんだろうな」と...。
そんな思いをしつつ、初めての育児に追われる毎日。
初めての育休が明けて職場に復帰し、仕事と家事・育児の両立で慌ただしい毎日でした。でも、もともと母乳育児支援が好きだったので、色々と勉強はしてみました。とはいえ、続けられるもの・腑に落ちるものがありませんでした。
初めてのBSケア体験
次男の育休中に、前々から気になっていたBSケアのベーシックコースを受講しました。「せっかくの授乳期間中なのだから、母乳のことをもっと知りたいな」という思いと、長男への授乳中の経験からでした。
受講が始まると、どんどん内容に引き込まれBSケアのケア体験モデルも勝手に申し出て、実際に寺田先生にケアをしていただきました。「自分のおっぱいじゃないみたい」「おっぱいだけじゃなくて体も楽になってきたぞ」「本当におっぱい触ってるの!?」「寝落ちする~」「気持ちいい~」「早く子供たちに会って抱きしめたいな」「早く授乳したい」と初めてのBSケアに感動するばかりでした。
受講したことで、今までの私の母乳育児支援に対する自分自身の意識の低さや、指導的な立場での関わり合いばかりでお母さんや赤ちゃんに寄り添いきれていなかったことを反省するばかりでした。
寺田先生・浅野先生・BSケアプレゼンター®の方々の一言一言が心に響き、感動しつつも反省の気持ちも入り交じります。自然と涙が出で、泣きながら受講していたことをよく覚えています。
そして、自分自身の育児で体験した出来事も、癒されていったように思います。
そこから私の母乳育児や支援に対する考え方は変わっていきました。
そして変わった、子育て・ケアの姿勢
長男の時は「上手く吸わせられなくてごめんね」という思いが強かったのが、次男の時は、1回1回の授乳で一生懸命おっぱいに吸い付き満足そうにしている我が子の姿に「たくさん飲んでくれてありがとう」と愛しくてたまりませんでした。
その後も様々な学びの機会を経て、BSケア研鑽中の私は、お母さんと赤ちゃんに関わることが前よりももっと嬉しく楽しいと感じています。
繰り返す乳腺炎に悩むお母さんと赤ちゃん、乳腺炎で切開をされたお母さんと赤ちゃん、授乳が思うように出来ない家族等、授乳や育児で悩み来院される方がいれば「私にお手伝いさせてください!」と声をあげられるようになりました。
以前ならば自信のなかった私も、BSケアと出会ってからは、自然とお母さんと赤ちゃんに歩み寄ろうとすることが出来るようになったのです。
その1回1回の出会いが本当に貴重で、毎回お母さんと赤ちゃんから沢山のことを教えてもらっています。
そんな中で思い悩むことも沢山あります。先走ってしまい、自分1人の判断で「これで本当に良かったのかな」「私のせいでお母さんや赤ちゃん、家族を苦しめているんじゃないか」と思うような事例もありました。
忘れられない事例
とある身体の事情で、断乳を希望されるお母さんが来院され、そのお手伝いをしたことがありました。
後になって思えば、BSケアを重ねて乳房の変化を見る、他助産師と状況共有して意見を得る、科学的に考えて他の対応策がないかを考えるという視点が欠けていたように思え、「本当にこれでよかったのかな」と、とても悩み苦しい毎日でした。
同じ生後2か月の三男を育てている現在、授乳をしていると、この事例が脳裏に浮かびます。お母さんの希望とはいえ、母乳育児は継続できたはず...。
私のせいで、お母さんと赤ちゃんから母乳育児を奪ってしまったような気がして、本当につらい経験でした。助産師として、BSケアを研鑽している身として失格だなと思っていました。
その時、失いかけていた自信やBSケアの心を取り戻させてくれたのは、やっぱりBSケアでした。
仲間とお母さんに支えられ救われた
その悩みをBSケアのコミュニティで共有するとすぐに、寺田先生からの返信や、BSケアを共に研鑽している仲間からの声掛けが返ってきました。
自信を無くし失いかけていた、BSケアの心を取り戻させてくれました。私にはいつだって一緒に悩んでくれる仲間・先生がいるんだと安心しました。
今までの私には、そんな風に共に、真剣に、母乳育児支援と向き合ってくれる仲間は居なかったので、本当に嬉しかったです。
また、件のお母さんからは「断乳したことに対して後悔は無く、しっかり話を聞いてもらえて一緒に悩んでもらえて嬉しかった。安心して身体の検査を受けることができた。」と言っていただけました。私には、救いの言葉でした。
その他にも、膿瘍切開し、連日抗菌薬の投与と創部のドレナージをしながらBSケアをしていたお母さんがいました。そのお母さんも授乳の継続に悩まれていましたが「あの時に真剣に話を聞いてもらえ、毎日BSケアをしてくれたおかげで授乳を継続しようと思えた。自分は1人で育児・授乳しているんじゃないって思え。」と話して下さり、すごく嬉しかったです。
ケアする私のほうが、お母さんと赤ちゃんにいつの間にか癒されていました。
頑張るお母さんに「よくがんばっているね」「今日もお疲れ様」
私が今まで助産師を続けられ、母乳育児支援を心から楽しんで学び関わることができているのは、いつだってお母さんと赤ちゃん達が逆に私を癒してくれて励ましてくれているからなんだと気づかされました。
BSケアに出会ってから、母乳育児・助産師観が変わりました。
より多くのお母さんと赤ちゃんが、もっともっと苦痛なく、らくな気持ちで、楽しく、母乳育児・育児をできるようお手伝いしていきたいと思っています。
長男の時に感じた、孤独感や上手にこなせない不器用さ。
とくに現代のお母さんたちは、感じることが多いかもしれません。
「お母さん」って皆が当たり前のように「お母さん」をしているから、授乳に限らず育児は「やって当然」「できて当然」と思い思われがち。
「お子さんのために、よくがんばっているね」「今日もお疲れ様」と、お母さんと赤ちゃんを認め・寄り添っていきたいと思います。
そして、そんな風に自分自身も大事にされたいと、子を育てる母として願っています。
共に研鑽する仲間と共に、自身が拠点をおく地域でもBSケアの窓口を広げ、気軽に相談できる場所が増えるようにしていきたいと思います。
まずは、最後のおっぱい生活を満喫します。
2019年10月執筆
広報担当のコメント
BSケアを受けたお母さんの、出産と母乳育児の物語でした。
徳嵩佳菜さん、濃い体験を共有いただきありがとうございました。
どんな出産もどんな育児も、それはお母さんと赤ちゃん2人の特別な物語。
うまくいくことも、いかないことも、いつかは2人の大切な思い出になります。
でも、もし悩むときには、適切な支援を受けられるかどうかで、その後の選択が変わることがあります。今、母乳育児がうまくいっているお母さんも、難しさを感じているお母さんも、お母さんと赤ちゃん2人にとって良い選択ができるよう、赤ちゃんの母乳吸啜メカニズムに倣う乳房ケア「BSケア®」を行う助産師が寄り添えたら嬉しいです。
NPO法人BSケアは、育児の始まりが”幸せな思い”であることを願い、母乳育児支援者の育成と、BSケア®をお母さんに届ける活動をしています。
赤ちゃんの母乳吸啜に倣う乳房ケア「BSケア®」を学ぶ信頼できる助産師「BSケアプレゼンター®」が全国に100人以上います。困ったときには、お気軽に相談してみてくださいね。
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