安楽死と絵

これ以上は耐えられない。全身を襲う激痛のせいで、自宅のベッドから動くこともできない。有効な治療法はなく、鎮痛剤は処方されていたがあまり効かなかった。この国では安楽死は認められていない。死ぬまでベッドに縛りつけられたままこの苦痛に耐えなければならないのか。
人づてに私の望みを叶えてくれる人物がいると聞いて、ぜひにと紹介してもらった。
部屋にやってきた男は「あなたの絵を描かせてほしい」といった。「信じられないかもしれませんが、絵が完成したとき、あなたの望みは叶えられるでしょう」
なにかの宗教か? 騙されたとしてもかまわなかった。どうせ希望はなにも残っていない。
男がイーゼルをセットしキャンバスに筆を走らせていく。下書きなしでいきなり絵の具を使っているらしい。筆を動かすかすかな音を聞いているうちに痛みが、いや、意識自体が薄れていくようだった。
目を覚ますと男はいなかった。しばらくして痛みがないのに気づいた。男が言っていたのは本当だったのか。正面の壁に絵がかかっていた。絵は完成したらしい。おかしなことに、この部屋とベッドが描かれているのに私自身だけが描かれていなかった。


ろきせの今日のお題は「安楽死」「絵」
https://shindanmaker.com/981568

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?