弟と薄明

夕暮れなのか、夜明け前なのか。
空気はひんやりと冷たくて、インクが溶けたような青色だ。
路地を歩いていく。野良猫が物陰から現れ、一瞬こちらを見てまたどこかに消える。アパート、銭湯を通り過ぎて路地を何度か曲がると、まわりを家に囲まれた狭い公園に出る。
弟はブランコに座っていた。他には誰もいない。
もう会えないはずの弟には、昼でも夜でもなく、あちら側の世界とこちら側の世界の中間にあるどちらでもない場所でしか会えない。
かくれんぼをしたりおにごっこをしたり。遊ぶときにはいろいろルールがある。ぼくのほうが足が速いから、おにごっこのときは手加減しないといけない、とか。隠れるのは公演の中だけ、とか。
時間がくるとお互い公園の反対側にある出口から帰る。同じ出口から帰ることはできない。これがいちばん大事なルールだ。


ろきせの今日のお題は「弟」「薄明」
https://shindanmaker.com/981568

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