ラズベリーと先輩

寄宿舎からの校舎までの道は森の中を通っている。
「森に生えているラズベリーは決して食べてはいけない」
入学初日にそう注意された。校則にもなっているらしい。おかしな校則というのはどこの学校にも1つや2つあるものだけど、ラズベリーを食べると動物になってしまうから、なんていわれても。
校舎や寄宿舎のまわりでは、山の中だからといっても多すぎるくらい頻繁に鳥や動物を見かける。キツネやタヌキ、ウサギ、カモシカ、サル。キジやカラス、ムクドリ、カケスなどなどなど。しかもぜんぜん人をおそれない。
「動物たちが近づいてきてもちょっかいだしたりいじめたりするなよ。おまえらの先輩かもしれないんだから」
毎年、先生が1年生に言うおきまりのセリフらしい。
ぴょんぴょんとこちらに野兎がやってきた。ペットショップにいるような種類じゃない、いかにも野生の生き物という風格があるのに、抱き上げてもされるがままになっている。人間が動物に変身するなんてどうしたって信じられないけど、おとなしく撫でられている様子を見ているとちょっと信じそうになる。もし本当だったら、そんな危険なラズベリーは校則で禁止するより、根こそぎ駆除したほうがいいんじゃないか。おとなしく腕に抱かれている野兎の重みを感じながらそう思った。


ろきせの今日のお題は「ラズベリー」「先輩」
https://shindanmaker.com/981568

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