マフィンと人魚

人間界にはマフィンというものがあるらしい。人魚の国にはマフィンがない。水の中だとパンが焼けないのだ。似たものはあるが、マフィンというよりかまぼこに近い。どうしてもマフィンを食べてみたいけど、かといって、永遠に声を失ってしまうかわりに地上を歩けるようになる魔女の薬を飲むほどではない。
そんなある日、嵐に遭った船から投げ出された男を助けた。男がパン職人だとわかると人魚たちは、私たちのためにマフィンを焼いてくれないかと頼んでみた。男は海辺の町の自分の店に戻ったら、よろこんで作ってあげるよと約束してくれた。早朝、人目につかない岩場で待っていると、男は約束通りマフィンを焼いて持ってきてくれた。それからたびたびマフィンやタルトを振る舞うようになり、それが人魚たちのあいだで評判になった。町の人たちより人魚のお客のほうが多いくらいだったが、お代がわりに真珠や沈没船で見つけた金貨を持ってくる人魚もいて、男は裕福に暮らすことができたのだった。

ろきせの今日のお題は「マフィン」「人魚」
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