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「赤い髪のエイリアン」に浚われて


#いまから推しのアーティスト語らせて

 高校1年生の頃。僕は友達からカラオケに誘われても,一曲も歌わない男だった。それまでカラオケに行ったことはほとんどなく,人前で歌うことに抵抗感があったのも大きいが,単純に音楽に興味を持てなかった。

 多くの友達が「ONE OK ROCK」や「UVERworld」などのクールでカッコいいバンドの魅力を語っていても僕には響かなかった。今思うと,「流行りの音楽に関心を向けない俺カッケー」的なダサい逆張り思考が根底にあったのかなと思う。

 転機があったのはそれから幾らかの月日が流れたころ。学校から帰り,ふとYouTubeを眺めていると奇妙なサムネとともに,見慣れた曲名が。

 X JAPANの「紅」である。

 その奇抜な容姿と服装。太鼓の達人でしか聞いたことのなかった「紅」。知らぬうちに再生ボタンをクリックしていた。
(↓その動画)

 ボーカルの落ち着いた高音から始まる序章,それだけで黄色い歓声を瞬く間にあげる観衆。
 一転,激しいドラムが主役に躍り出るとそこからはもう止まらない。あの聞きなれたフレーズだ。
 「紅に染まった この俺を 慰める奴は もういない」

 この時,生まれて初めて自分の中の紅い血が叫び上がった気がした。「これが音楽か」と。

 そこからXにハマるのは早かった。「EndlessRain」や「ForeverLove」,「Weekend」などの代表曲を聞き始める日々。ただこれも「昔の音楽を聴き漁る俺カッケー」という思考が根底にあったのはいわずものがな。

 そんな中,毎回Xのライブ映像などを見ているとひと際存在感を気持ち悪いくらいに輝かせている奴がいた。ボーカルのToshlやドラムのYoshikiではない。ギターのHIDEである。(ごめんよPATA)

 赤い髪。奇抜な髪型。狂気的な行動。「ああこいつ,狂ってるな」と。時折,舌を出しながらギターを弾く彼はゾクゾクするほどカッコよかった。
「ビジュアル系」という言葉の素を作ったのも彼。

 同時に,HIDEが「hide」という名前でソロデビューしていたことも知る。こんな狂った野郎が歌う歌。そりゃあもうどんなヘビーで真っ赤な曲になっているのやら。

 いい意味で「これがHIDEちゃんの曲!?」と思った。とてもポップで明るい曲。あの男が内に秘めていたのは狂気じゃなく狂喜だったのだと。

 これがボクの推すアーティスト「hide」だ。

 彼の歌を聴くと,90年代のノスタルジーよりも2020年代の近未来感があふれているのが分かる。90年代後半で携帯電話とメールを使いこなし,ウェブサイトも持っていた人間だしそれもそうか。

 残念ながら,これだけ熱中しているのに,彼のライブに行ったことは一度も無い。なぜならもう彼は亡くなっているからだ。1998年,僕が生まれたわずか1年後にこの世を去った。いまだに彼の死因を巡ってさまざまな論争はあるものの正直どうでもいい。
 亡くなっているのに2014年に新曲が出るレベル。亡くなる直前に書き上げた歌詞とメロディにかつての仲間がhideの声をボカロとして切り合わせ,『子ギャル』をリリース。これを聞けば死因とかまじどうでもいい。

 最後にご紹介するのは僕が一番お気に入りの「LEMONed I Scream」。

 なんてことのない平凡な歌詞。「I Scream(叫ぶ)」というように彼は「平凡を叫び続けたかった」のかもしれない。先日LAに行ったときにはこの曲を聴きながらメルローズを闊歩した。彼の叫びが少し分かった気がした。

 後で知ったが,母がインディーズ時代からのXファン。ラジオでわざわざ曲を聴いていたそう。(一躍有名になってからはミーハーが増えてファンを辞めたとのこと。時代は違えど今でもいるよねこういう人)
 そんな母もHIDEが一番好きだったらしい。僕がhideちゃんに何かを感じたのは遺伝子レベルの話だったのかもしれない。

 どっかのギタリストが彼を「赤い髪のエイリアン」となぞらえた。まさに異星人。hideちゃんは僕をロケットに乗せて,宇宙に浚っていってしまった。

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