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ワークスタイル変革のプロに聞く、「本当の働き方改革」とは!? ITが可能にする「人間らしい働き方」のススメ – 中編

ワークスタイル革命の第一人者、沢渡あまねさんと、Brushup 代表取締役社長・水谷好孝の「働き方改革」を巡る対談の2回目をお送りします。大手 SIerからベンチャーへと転職した水谷が、それぞれの企業で働く中で感じた良い ところと悪いところは何なのか。デザイナーの現場の悲鳴から、大幅に業務を効率化する Brushup のアイディアを思いつくまでの経緯を語り合いました。

沢渡 あまね氏
自動車会社、NTT データ、大手製薬会社などを経て、2014年秋よりフリーランスで業務改善・オフィスコミュニケーション改善士として活躍。現在は、企業の業務プロセスやインターナルコミュニケーション改善の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っている。著書に「仕事ごっこ」「職場の問題地図」「運用☆ちゃんと学ぶシステム運用の基本」などがある。
水谷 好孝氏
大手 SIer にて主に大規模自治体のプロジェクトマネージメントに13年間従事。その後、BtoC ベンチャー企業にて、システム部門の統括マネージャーとして従事。2013年、フェンリル株式会社に入社、ウェブの受託開発部門の立ち上げに携わったのち、2017年2月、株式会社 Brushup を立ち上げ、代表取締役に就任。

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勘違いからはじまったITの道

水谷 ちょっと僕自身のキャリアについてもお話させていただきます。僕は大学の情報学科を出た後に、大手メーカー系列のシステム開発会社に入社し、そこでSEをやっていました。入ったきっかけは、学生時代に街を歩いていて、当時流行していたアミューズメント機器を見つけたことです。その機械の裏を見ると「◯◯ソフトウェア」という会社が作っていることがわかり、「◯◯って、おかたい会社かと思ってたけど、こんな面白いものも作ってるのか」と興味を抱いたんです。

沢渡 ほう、意外なきっかけですね。

水谷 この話には続きがあるんです。入社してから上司に「うちが開発したあのアミューズメント機器は面白いですよね。自分もあんな企画を提案していきたいと思ってます」と話したら、「それ、うちじゃないよ」と言われまして。それを作ってたのは同じ系列のすごくよく似た名前の会社なんですが、まったく別会社だったんですね。「俺、会社間違って入っちゃった」と、入社一週間後に気づきました(笑)

沢渡 それは面白い(笑)

水谷 勘違いで入社したわけですが、結局、後にその会社と僕の会社は合併して一つになりました。僕はそこで、SE に必要なスキルと知識を、仕事を通じて叩き込まれました。いま振り返っても、あれは本当にいい経験でしたね。ちょうど介護保険法が施行される時期で、行政の IT システムをそれに対応させる仕事が大量に発生し、入社一年目から毎日深夜までタクシー帰りで働いていました。それこそ今で考えれば炎上案件だらけでしたが、僕は「こんなに楽しく働かせてもらって、IT の勉強もできるし、それでお金までもらえる。なんてラッキーなんだ」と思ってました。

沢渡 それは素晴らしいですね。「働き方改革」っていうと、「とにかく残業時間を削減しろ」という話になることがほとんどなんですが、充実して日々遅くまで働いている人にとっては、むしろ働く時間が減らされるほうがストレスなんですよね。最近は大企業でも、「残業が減らされて生活が厳しくなったから、バイトしなければならない」なんて人も出てきて、「働き方改革」が本末転倒な結果に終わってることが珍しくありません。

水谷 まったくその通りで、僕も20代のときに大手 SIer で働いた経験がなければ、今の仕事はできないことは確かです。それで、仕事は本当に面白かったんですが、ある時期から僕も沢渡さんと同じように「このまま、ここにいていいのかな?」と思うようになっていったんですね。

沢渡 それはどうしてですか?

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水谷 まず1つ目は、歴史あるソフト会社なので、昔からのルールが見直されることなく続いていることがありました。システムのリリース前には100以上あるチェックリストを全部チェックしなければならないのですが、そのリストが時代遅れなんですね。例えば80年代頃のコンピュータは、日付が変わると処理がおかしくなるようなケースがあったので、いつまで経っても「日付処理のチェック」がチェックリストに残ったままでした。20人ぐらい集まる会議で「日またぎ処理に問題がないことを証明しろ」と50代の部長に言われても、「いまのサーバーは問題ないから大丈夫です」としか言いようがないわけです。

沢渡 そういう話は、ほんとよく聞きますね。「安全安心のため」に作られたルールが、どんどん集積していって、現場の社員を疲弊させていくんですよね。

水谷 お客さんのところにログを取りに行くだけの仕事でも、「1人で行って変なミスをしないように、必ず2人で行くように」というルールがあって、しかも行く前に上司のハンコが必要だったりもしました。そうそう、無駄な仕事といえば「議事録」づくりも大変でしたね。ある県の行政システムのIT化の案件では、毎週、朝から夕方まで1日中会議の日があったのですが、その日の打ち合わせの議事録を必ず関係者全員に送らなければならなくて、書き終えるのがいつも深夜3時頃。議事録なんて議題と結論だけでいいと思うんですが、話し合った内容を全部記録することが求められました。

沢渡 官公庁相手のシステム開発の仕事だと、最後に納品物を全部、紙に出力して納品しなきゃならないんですよね。僕も立ち会ったことがありますが、優秀なエンジニアが一日中専用のプリンターの前に座って、ひたすら紙を補給し続けたりしていて、「本当に無駄だな」と思いました。形骸化した仕事が多すぎますよね。

水谷 仕事のスケジュール管理やタスク管理も、自社開発のグループウェアでやっていたので、他のやり方をぜんぜん学べない環境だったのも、「このままでいいのかな」と思った理由の一つでした。それで34歳のときに、「ベンチャーに行こう」と決めて、当時、著しい成長を短期間で遂げていたベンチャーに転職しました。

大企業とは違うベンチャーの魅力

沢渡 大手 SIer から、34歳でベンチャーに転職するって、かなり思い切ったキャリアチェンジですよね。仕事のやり方や雰囲気が違いすぎて、最初は戸惑いませんでしたか?

水谷 そこには開発マネージャーとして入社したんですが、とにかくベンチャーのやり方を学びたかったので、大手との違いはむしろ楽しみでした。入社してみて、やはりスピード感はぜんぜん違いましたね。大手の会社だと、案件の規模が大きいので、プロジェクトが終わった後しばらくは「何も仕事がない」みたいな期間がけっこうあるんですね。超忙しく働いている人が2割ぐらいいる一方で、会社に来て時間を潰すのが仕事みたいな人もけっこういたんですが、ベンチャーは全員が必死で仕事に向かっていて、それに感動しました。

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沢渡 なるほど。

水谷 あとベンチャーに入社して、改めて大手企業の「仕組み」のすごさに気づきましたね。設計仕様とかプロジェクト管理が、大手では厳密にルール化されていましたが、ベンチャーはそのへんの制度がまったく整っていなかった。それと、僕が入社したときのその会社の Web サービスは、繁忙期のいっせいに注文が入る時期になると、アクセスが処理しきれなくて、毎回システムがダウンしてたんです。

沢渡 当然その間に、大きな機会損失が生まれるわけですね。

水谷 そうですそうです。細かい追加機能ばかりを追加していて、根本のシステム自体の脆弱性が放置されている状態でした。そこで経営陣に「重病人にステロイドを打って筋肉つけても意味がありません、抜本的に病気を治す手術をするほうが先です」と提案して、ボロボロだったシステムを一気に改良しました。プログラマー30人を集めて知恵を出してもらって、データベースのチューニングなどミドルウェアを中心に改良したら、アクセスが殺到してもまったく落ちなくなった。

沢渡 すばらしい!

水谷 でも結局、自分を採用してくれた経営陣が交代したことが理由で、7月に入社してから半年後の12月末には辞めました。一大繁忙期であるクリスマス前にその改善を完了できたので、成果は残せたと思います。

会話から生まれた新しい SaaS サービス

沢渡 そこから Brushup の親会社であるフェンリルに入社された。

水谷 はい、フェンリルも入社当時は、プロジェクト管理の制度が整っていなかったので、マネージャーとしてルールを構築するところから仕事を始めました。フェンリルのお客さんに、大手のスマホゲームを手掛ける会社があって、そこから相談を受けたことが Brushup につながります。「1つのゲームタイトルごとに、何百種類もキャラクターをデザインするんだけど、そのデザイン校正のやりとりのメールが煩雑過ぎて困ってる」と聞いたんですね。ディレクターがデザイン案をダウンロードして、開いて、確認して、赤字を入れて、また添付して返す……。そんな作業を繰り返していたので、赤入れ作業だけで膨大な時間が発生していました。

沢渡 おお!それが新事業のアイディアにつながったと。

水谷 別件で同時期に、某大手メーカーのデザイナーからも「メールのやりとりをどうにかしたい」と聞いて、「これは新規事業になる!」と思いつきました。ファイルをダウンロードすることなく、すべてのデータをクラウド上に保存し、校正のやりとりを Web ベースで行えば、大幅に作業を効率化できます。すぐにその Brushup の原型のアイディアを企画書にまとめて、1〜2ヶ月ほどかけて事業申請し、速攻で2015年3月にリリースしたという流れです。

沢渡 何気ない会話から、いま全盛の「SaaS」モデルの新規ビジネスが生まれたんですね。すごいなぁ。

水谷 当時は SaaS という言葉も概念もまだ世の中に普及しておらず、事業のコンセプトをどう説明するかで、当初は苦労しました。「デザインチームのためのプロジェクト管理ツール」というのが最初のコンセプトでしたが、「プロジェクト管理サービス」は他にもたくさん存在していたので、同じジャンルのサービスとは見られたくなかった。言葉をいろいろ探す中で、最終的に評価、検討、チェック、フィードバックなどの意味を持つ「レビュー」という言葉がふさわしいと感じて、「レビューツール」というコンセプトに決めました。そこに落ち着くまでには、2年ぐらいかかりましたね。

沢渡 私もいろんな出版社やメディアとお付き合いがありますが、会社によって、データのやりとりの仕方は千差万別ですね。いまだに紙でゲラを送ってきて、郵送で送り返すことを求められることもあれば、Google ドキュメント上で共同編集して、やりとりはメールを一切使わずメッセンジャーやチャットのみ、という会社もあります。前者と後者では、仕事のスピード感や効率は、当然まったく違う。本にも書きましたが、メールって「場所の制約」がきついですよね。会社アドレスに送られたメールは、セキュリティの関係で会社のパソコンでしか見られない、という状況だと、わざわざ一本のメールを見るために出社しなければならないなんてことが現実に起こってます。「仕事のメールとファイルのダウンロードをこの世から無くす」というBrushup のコンセプトは、まさに「IT で働き方を改革する」格好の例だと感じますね。

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(後編に続く)


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