【弾丸旅行】
深夜の高速道路、本線をひた走るトレーラーに追い越しをかけ、邸(やしき)の運転するSUVは結構な速度でGPSを追っていた。
助手席に乗せた後輩の鍵師(かぎし)は雑な運転のせいで顔色が悪い。
『いやだわ、休憩する気配もないなんて。私の本体が運転をしていればそうもなるけれど、同乗者がかわいそう』
後席のチャイルドシートに収まる、五歳児大の人形から、若い女性の澄まし声がする。
邸は声だけ背後にかけた。
「マリンカ。追いついたらどうするの」
『そうね、できれば本体を外して、この車に載せて帰りたいけど』
マリンカは、さらっと嫌な事を言った。
『うちの探偵が働くわ。良い仕事するのよ』
「しかしね、車ごと強奪する訳にもいかないよ」
助手席の鍵師が、あまり沢山喋らせないでと抗議しつつ、今日二度目の説明をした。
本体の載っているトラックを見つけ、鍵師が(違法な手段で)助手席の鍵をあけてマリンカを載せて接続。料金所を突破して最寄りの警察に着けば、盗難の被害に遭った本来の持ち主のところに一式戻れる筈。以上、車酔いで説明するのが辛い。
乗員が博多で敵対組事務所を爆破して逃げている最中のヤクザ関係者が四名なのには、
「人手が必要になるからこの人間が来ているわけで、ゥェ」
「鍵。吐くなよ」
「邸さんなんで大丈夫なの」
「そりゃあ、鍛えてますから」
脳筋ェ、と呟く低い声を聞き流し、邸は本線に車を戻した。GPSの行方を表示している小さなタブレットを見やり、彼は喉奥でひとつ唸った。
まだ県半個分先行されている。福岡からノンストップ、降りる気配も無い。このままなら二十四時間営業スタンドのある吉備SAあたりで給油のはずだ。
「吉備か、降りるか、どっちだ」
『時間が遅いから、吉備』
邸は、ちょっと頑張りますかと呟いた。
隣から「頑張ったらしぬ!」と小さく作り声がする。余裕だなと笑って、彼は車を追越車線に出した。
【続く】
(軽い気持ちで投げ銭をお勧めします。おいしいコーヒーをありがとう)