ぼくはひでお
『衛星からだと見えてる。行ってるはずだ』
「目視ができない。熊が光学迷彩とかありか」
『あったらそれヒトが装備させたんだわ、正確な位置送る。見えなくてもやってくれ。今ドローンに気づかれてるから追い込んでる最中だ。空飛ばれたりされなけりゃいけるが、脚の装備が空から見づらくて。面倒だしカミカゼの準備してる。裏口に車つけるから、来たら母さん走らせて』
「了解、兄さん役場と喧嘩にならん?」
『揉めたら生の熊ば運んでやるよ、人が死ぬほど大好きなんだろ』
パパとのやりとりを終え、叔父さんが普段持たないような大きく長い鉄砲の、脚を出して床に立てる音がする。ぼくはミナお婆ちゃんの顔を見上げた。お婆ちゃんは、大丈夫だからね、と襟元をかいかいしてくれた。本当はぼくだけで、あの大きな熊を倒したかったけど、パパは連れてってくれなくて、お婆ちゃんの護衛に残されたんだ。
と、想定外の近さから大きなものが壊れる音と、耳の痛い爆発音がした。ぼくは力一杯立ち塞がって吠えた。お婆ちゃんは裏口につけられた四駆に走り、カチリ音の直後に砲声、直後遠くで硬いものが爆ぜる音がした。
叔父さんが現れた熊に噛まれた腕をひっぱりあい、ジャケットが持って行かれ、布の中で腕が爆発する。熊の口が吹っ飛び、巨体が暴れだした。一番小さい筈のぼく目がけて悪意が押し寄せる。ぼくは吠えて飛び、熊の頭に噛みついた。パパの足音と怒鳴り声、バリバリいう音。熱くて痛くて、足場にしていたものが傾いたところまで覚えている。
その後しばらく記憶はない。気がつくと、お婆ちゃんがぼくを覗き込んで、ヒデちゃんよかった、と泣いていた。
ぼくは生きてる内に病院に間に合った。後ろ脚は機械になって、もふもふはしばらく前半分だけだけど、ただの先祖返りの大きなポメラニアンから、強い番犬みたいになった。
ぼくとお婆ちゃんは、パパと叔父さんの住む、熊が出ない街へ引っ越しする事にした。
【つづく】
(軽い気持ちで投げ銭をお勧めします。おいしいコーヒーをありがとう)