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あのたび -英語の功罪とインドネシア語習得-

 翌日、例のインドネシア青年にバスターミナルまで案内してもらう。が、バスターミナルまでの移動代と彼の帰りの運賃まで追加で+3000Rp払わされる。なんてこった。しかも12時発というバスは無いという。どういうことだよ。ターミナルの食堂で、果物刻んだものに甘い汁たっぷりというよくわからないものを食べた。甘すぎ。2000Rp。

 チケットは持っている。それもかなり高額を支払った。じゃあ16時のバスに乗っていけとなった。が満席。席はないがエクストラシートを作ってやるという、が座席の真ん中の通路に屋台に置いてあるようなプラスチックの四角い椅子を設置しただけだった…。揺れるバスで背もたれもなく不安定な座席。これでブキティンギまで16時間は心身ともに疲弊した。乗客のインドネシア人若者女性との少しの交流で癒やされた。オレンジくれたありがとう。

 これまで東南アジア5カ国周って来たのだがどうしてインドネシア(スマトラ島)ではうまくいかないのだろうか。それはボクが外国人だからではないだろうか。

 観光地や交通手段で外国人料金を取るところはけっこうある。同じサービスなのに現地の人の何倍もの価格が設定されている。国として観光に力を入れている地域は特にその傾向が強い。同じようにそこで働いている人々は、旅行者に対して法外な値段でぼったくってくる。慣れない国で相場を理解していないという状況も利用されているのだろう。
 現在ではスマホが普及し、評価や価格は調べることができる。しかしボクが旅行した2003年当時は難しかった。

 そこでボクは仮説を立てる。

「ハウマッチ?」と英語で尋ねるから、通常価格の2倍~5倍の値段をふっかけてくるのではないか。これはもう遺伝子レベルで細胞に刻まれていて、無意識で反射的に高い値段を言いたくなるのではないか。
 もし現地の、この場合はインドネシア語でいくら?と聞いたら、現地価格で対応してくれるのではないだろうか? 幸いなことにボクは日本よりはアジア人風の容貌である。しかも日焼けして肌は浅黒くなり、見た目だけならインドネシア人によく間違われた。

 そこからボクはインドネシア語を勉強しはじめた。バスで長距離移動中の暇な時間、やることがない宿での時間、まずは数字から1、2、3と何度もつぶやいて覚え始めた。

 大学時代、クラスメイトの友人が、「大学で受けて意味のある授業は言語だけ」と言っていたのを思い出す。確かに大人になってかつての一般教養なんてひとっつも覚えていない。その友人の影響を受けて、大学の講義で第2外国語の中国語以外に韓国語・ラテン語・インドネシア語のコマを半年受講した。単位にはならないが面白そうだと思ったからだ。世界初の人工言語エスペラント語講義というのも2,3回聞いてみた。

 エスペラント語とは英語とスペイン語の混ざったような人工言語で、世界中の人が話すことができる共通言語を作ろうという試みで学者たちが作った言葉だ。が結局地球はアメリカ英語に支配され、エスペラント語は廃れてしまった。

 ハングルは実は表音文字と学び読めるようになったし、ラテン語はけっこう新商品の命名に使われている。インドネシア語はおそらく世界で最も習得が容易な言語の一つだろうということを学んだ。アルファベットを使うのでそのまま読めるし動詞の活用が無い。語順はほぼ英語と同じなので単語を覚えれば話すことができる。『C』がカキクケコサシスセソではなく、チャチュチョと読むのが違うくらいだ。

・いくら? → ブラパ?
・食べる → マカン
・高い → マハール
・これ何? → アパイニ?
・~に行きたい → サヤ マウ プルギ ク ~
・123456789 → サトゥ ドゥア ティガ ウンパ リマ ウナム トゥジュ ドゥラパン スンピラン
・10 100 1000 10000 → スプル スラトゥス スリブ スプルリブ

これだけでほぼ旅行中はこと足りる。
例えば一泊いくら?と尋ねるときは、

サトゥ マラム(夜) ブラパ? と質問する。

回答は数字で返ってくるので数字だけはそらで言えるくらいにならないといけない。それとインドネシアの通貨はゼロが多いので基本的に1000単位。

上の質問に、ティガプルリマ(35)と答えが返ってきたら、35Rpではなく、ティガプルリマリブが省略されて言われているので、35000Rp(≒500円)であろうことも話しているうちに学んだ。

 以後2ヶ月ほどインドネシア語でこの国を横断していったのだった。このスマトラ島ほどふっかけられることはなかったと思う。感覚的には、ボクは日本人じゃありませんよー、インドネシアを旅しているインドネシア人ですよーという雰囲気を醸し出しているつもり。それが現地人価格で旅する秘訣なのではなかろうか。

インドネシアルート

(つづく)


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