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お題:ざんじん【讒人】 うまく悪口を言って、善良な人をおとしいれる人。讒者。

 石油が枯渇したあとの世界では、メタンハイドレートがエネルギー分野の中心になった。
 周囲に豊富な海を持つある島国は、海底から大量の新資源の採掘に成功し地球上で最も豊かな国の1つとなった。教育、医療は無料。所得税や消費税、相続税もない。治安も良く、食料自給率もまもなく100%になろうかという状態である。

 最初にメタンハイドレートを発見したサカタは国王となり、二人の宰相が政治を執り行っている。議会は廃止され、宰相の各々が提案する政策や法案を全国民がスマホで直接投票し、過半数を越えた賛成票で国の方針が決まるという政治形態をとっている。しかし最終的な決定権はいつも国王にある。

 基本的に平和な国なのでどうでもいいような政策も持ち上がる。

 『国技をサッカーにしましょう』という法案の理由はこうだ。
 相撲は競技人口が0.1%もなく、ほとんどの国民が見るだけでやったことはない。オリンピックの種目にもない。現在最も競技人口の多いサッカーを国技としてワールドカップで優勝を目指しましょう!とのことだ。
 さすがにこの政策提案はさまざまな憶測を呼び、井戸端や飲み屋で多くの国民の話題となった。猛烈に反対したのは相撲業界と野球業界であったが、一週間後の国民投票で57%の賛成がありあっさり可決。国王もサッカーが好きだからという簡単な理由であっさりOKした。

 ある意味超民主的でフットワークの軽い国家なのだが、それだけに二人の宰相には法案を通して欲しいあらゆる個人・団体・企業・業界・他国家からの献金がジャブジャブと流れてくる。その権力に群がって良からぬ輩も集まり、宰相たちを陥れようと有る事無い事を国王の耳に入れる讒人ざんじんも増えてきた。
 例えば「宰相は王妃と不倫している」だの「宰相はメタンで儲けた金を全部懐に入れている」だの「国王を殺そうとしている噂がある」だの言ってくるのだが、国王は一切聞き入れず宰相二人を信用していた。
 およそ悪口を言うような讒人は、この国を傾かせようとする他国からのスパイであると確信しているかのようであった。

 中国ではかつて、ある一人の武将の裏切りで多くの諸侯が命を落とした。
 過去の世界の歴史を反面教師として過ちを繰り返さないために、この島国ではある秘密の作戦を練った。国王と宰相の二人が不定期で・・・・変装し・・・入れ替わる・・・・・という作戦である。
 他人からある宰相の誹謗中傷を聞いたとする。その宰相とはつまり自分のことなのだから、罰して宰相の首を切るということはありえない。三人の中で情報の秘匿はなく、側近からの嘘や讒言はすぐにバレる。

 そういうわけで三人が暗殺されたり寿命で亡くなるまではこの島国は安泰で平和が続くのだ。


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