お題:ひきまかなう【彎ふ】 = 弓をひいて射放そうと待ち構える。
@mitsuyoshi_ohshima - 3分前
『ひきまかなう!』
「オヤジ、またツイッターでつぶやいてるよ」
「しかも写メ入りw」
空をめがけ左手をかかげ、片膝をつき鋭く一点を見つめながら七尺はある長弓を構えるその男の姿は、さながらギリシャの軍神ゼウスを思わせる。長く白いあごひげは、この仮初めの戦国地図を塗り替える毛筆でありつづけてきた。
齢六十八歳となり織田軍の弓兵隊隊長を任ぜられた大島光義は、幼少時両親を亡くし、弓一張でここまでのし上がってきた。時代は鉄砲におされつつはあるが弓は、射程・連射性・軽量・コストの面でまだまだ現役だ。光義はここ長篠で敵大将・武田勝頼を射抜くつもりでいる。
さきほどのつぶやきはその宣戦布告であり威嚇でもある。信長からは、自軍内でしか知り得ない情報はむやみにSNSに投稿しないこと、とのお触れが通達されている。
近年舶来から輸入されたスマホの伝播により、いわゆるバカッターと呼ばれるつぶやきで炎上し、腹を切る羽目となる武将もあとをたたない。作戦の内情を相手方に知られたら奇襲の意味がなくなるからだ。
「そんなことは関係ない、勝頼の首さえ献上すれば」
光義の心中はそう語ってはいる。が、実は息子から誕生日にプレゼントされたこの玩具が楽しくて仕方がないのだ。四六時中画面を覗いているのでバッテリーが残り少なくなっている。今ハマっているのはカメラとツイッターと2chの武将スレだ。
まだ光義のスレは立っていないのでそれくらい有名になるのが夢だ。つぶやきが多いのもフォロワー獲得のための手段である。もちろん、自身で弓を引きながらその姿を自撮りするのは難しい。横に居た部下に構図や射角・太陽の位置を考慮し最高の一枚を撮ってもらったのだ。
次は息子にインスタというものを教えてもらおう、二十代女子のおよそ八割がそのアプリを入れていると聞いているのでな。
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